第28話:必要事項
必要事項には名前、性別、年齢、種族、職業等など、いくつかの項目があり俺はそれを一つずつ埋めていく。
その中で一番困った項目は職業だ。
賢者、と書けばいいだけの話なのだが俺は魔法を使うことができず、戦い方といえばナイフで近接戦闘を行うわけで、おそらく賢者とはかけ離れた戦い方をするんだよな。
「……お、最後の方に備考欄があるじゃないか。それじゃあここに書いておくか」
俺は備考欄に『職業は賢者だが、魔法は使えません。ナイフで近接戦闘を行います』と記した。
「書きましたよ。えぇっと……マリンさん?」
「あれ、自己紹介をしましたっけ?」
「……リリアーナがそう呼んでましたからね」
「そうでしたか? まあ、そういうことで。名前はー……アマカワケント? あまり聞かない名前ですねー。それで職業は……け、賢者!?」
ちょっとマリンさん! 大声で人の個人情報をばらさないでくださいよ!
「こ、声が大きいですって!」
「はっ! ご、ごめんねー。あまりに珍しい職業だったからつい……」
「つい……で個人情報をばらされたらたまったもんじゃないですよ。それと、備考欄もちゃんと読んでくださいね」
「備考欄? ……えぇっと、アマカワさん。これは、マジですか?」
「マジですよ」
「……賢者なのに?」
「その通りです。証人ならあなたの目の前にいらっしゃいますよ」
「……リリアーナさん?」
「マリン。私も目を疑ったけど、アマカワの言っていることは正しいわ。でも、ナイフ術の腕前は相当なものだから冒険者をする上では問題ないはずよ」
「……そ、そういう問題ではないと思うんですがー」
腕組みをして考え込んでいるマリンさん。
その腕には男なら憧れる大きな山脈が乗っかっているので目のやり場に困ってしまう。
だって、リリアーナは……うん、気にしないでおこう。
「……ちょっと私では判断がつかないので、ギルマスに確認してきますー」
「えっ! ギルマスって、ギルドマスターってことですよね? ここで一番偉い人ですよね?」
「そうですよー。でも、門残払いになるわけじゃないので安心してくださいねー。アマカワさんの能力があまりにあべこべなので、どういった試験にするべきか私では判断がつかないんですよー」
「試験って一律じゃないのか?」
てっきり全員が同じ試験を受けるものだと思っていたが、そうではないらしい。
「そうですよー。戦士職の人に魔法職の試験を行っても結果は明らかですし、その逆も同じですー。なので、職業ごとに試験内容は変わるんですよー」
「アマカワの場合だと、賢者だから本当なら魔法職の試験を行うのが普通なんだけど、魔法が使えなくてナイフ術で戦う、つまり戦士職ってことになるからどっちの試験が良いのか分からなくなっちゃうのよね」
そう言われると確かにそうだな。
今の俺だと魔法職の試験をされてしまうと何もできずに不合格になるだろうし、ここは戦士職の試験を受けさせてもらえるようしっかりと確認を取ってもらいたい。
「ぜひとも戦士職の試験を受けたいので、よろしくお願いします」
「賢者の人のそう言われるのは不思議な感じがしますー。それじゃあ、ちょっとだけ待っていてくださいねー」
そう言ってマリンさんは受付の奥に引っ込んでしまった。
それにしてもギルマスかぁ。ここで俺が転生者だとバレる可能性もあるんじゃないだろうか。
マリンさんも言っていたけど、俺の能力はあまりにあべこべ過ぎる。こんな能力、普通はいないだろうしな。
「大丈夫よ、アマカワ。ゼルジュラーダのギルマスは信用できる人だからね」
「リリアーナの知り合いなのか?」
「知り合いというか、私の師匠みたいな人かな」
「師匠ねぇ……ってことは、俺の師匠はリリアーナになるのか」
「え?」
「だって、色々教えてもらってるし、こうして冒険者ギルドにも付き添いで来てくれたし。あれ、だったら呼び捨てにするのはマズいか。リリアーナさんって呼んだ方がいいかな?」
「や、止めてよ! いきなりさん付けだなんて、くすぐったいわよ」
あれ、なんだか顔を赤くしてしまったがマズいことでも言っただろうか。
「私は師匠じゃなくて、パーティメンバーなんだからね!」
「……そうだな。ありがとう、リリアーナ」
「それに、師匠だったらなんか関係性がなぁ……」
「えっ? なんか言ったか?」
「な、なななな、なんでもないわよ!」
たまーにこんな感じの反応があるのが気になるんだよな。
まあ、嫌な感情ではなさそうだから構わないんだが、後でちゃんと聞いた方がいいかもしれない。
そんなことを話していると、受付の奥からマリンともう一人の女性職員が姿を現した。おそらくこの人がギルマスだろう。
「リリアーナ、久しぶりだな」
「久しぶりもなのに、一〇日も経ってないじゃないですか」
「そうだったか? ははは、すっかり忘れてしまったよ。それで――この子が謎の賢者君だね?」
ギルマスはリリアーナに向けていた優しそうな視線とは一転、鋭い視線を俺に向けてきた。
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