第6話:腹ごしらえ
……あぁ、マジで、重かったわ。
だが、これでようやくナイフの手入れをすることができる。
まずは刃をでか兎から抜いてっと。
──どぱっ。
……うわー、血が一気に出てきたよ。
ちゃちゃっと手入れしてすぐに捌かないと、肉がダメになっちまうからな。
「とりあえず柄にくっつけて……よし、水の準備もできてるし、一気にやっちまうか!」
──シャッ、シャッ、シャッ!
……うむ、できた。
いやー、狩人スキル、マジで便利だわー。2ポイント使ったかいがあったってもんだ。
「しかし、研いで気づいたけど、このナイフ……美しいな」
陽光に反射する刀身には細かな意匠が施されている。
さらに錆で見えなかったが、峰に当たる部分は銀色なのだが、刃に当たる部分は淡い金色をしている。
「これ、もの凄い逸品なんじゃないの? でか兎を捌くために使ってもいいのか?」
……まあ、背に腹は代えられないよな。
俺は迷うことなくでか兎の腹にナイフを突き立てた。
「……うぷっ!」
ま、待て待て待て待て! ここでゲロをでか兎に撒き散らしたら、俺は自分のゲロを食べることになるぞ!
……ふぅ、なんとか収まったな。
よし、慎重に捌くぞ!
……。
…………。
………………。
「お、終わったああああぁぁ。これ、慣れるまでは吐き気との戦いになりそうだな」
だが、苦労した分とても上手く捌くことができたな。
これなら後の食事が楽しみだ。
さて、ここまで来たら残りの野草も狩人料理のためにした準備をしておこう。
「おっと、その前に火を起こしておくか」
火炎草を枯草に混ぜて、研磨石にナイフをぶつけて火花を散らして……よし、火の確保はできたな。
よし、それじゃあ肉を作っておいた串に刺して焼きつつ、米花と香花をこのでかい葉っぱに包んでちょいと水を含ませてから蒸し焼きにするために火の横にっと。
これでしばらく放置……している間にスキルの再確認だな。
「裁縫スキルはっと……あったあった、どれどれ……ふむふむ……なるほど、自然物からも簡易な鞄なら作れそうだな。1ポイントで習得はできるけど、それには一度レベルアップが必要になりそうだな。ナイフの確保ができたから動物なら罠にかけて倒すことも可能か」
しばらくはこの森を拠点にしてレベル上げ、そこから森を出てこの世界について知っていく必要がありそうだな。しかし──
「俺、職業賢者なんだよなぁ」
これでは職業狩人だよ。
完全に職業ではなくスキルを利用して生活しているもんなぁ。
「だがまあ、レベルが上がって魔法が使えるようになるまでは仕方がないか。せめて力が高ければ剣を振れると思うんだけど、力3じゃあナイフが限界だよなぁ」
というか、ナイフですら若干重く感じているからなぁ。
「唯一高い能力が魅力って、いったい何に使えるって言うんだよ」
うーん……うーん……うーん……うん、考えても全く分からん!
「……おっ、狩人料理が出来上がったみたいだな」
よし、とりあえずは腹ごしらえだな。空腹だとまとまる考えもまとまらないし。
「……おぉ! 米花は蒸すと花びらがふっくらして歯ごたえがプチプチしているな! 香花を一緒に入れたことで香ばしい匂いになっているよ!」
まるで、お米じゃないかよ!
そしてでか兎の肉だが……むふ……むふふ……これは、まさに!
「美味! まさしく美味だ! 甘みのある肉汁が口の中に広がり、肉も噛むたびにホロホロと解けるくらいに柔らかい!」
これはすでに俺が日本で食べてきた何よりも美味いぞ! まさか初日で、偶然狩ることができたでか兎がこれほど美味いとは!
「……これは、この森を拠点にするのも長くなることがありそうだな」
とりあえず食料と水はなんとかなったので目下の目的は果たされたので、次のことを考えないとな。
「やっぱり、レベル上げは必要だよな。裁縫スキルが欲しいし」
そうなるとでか兎や森に生息する動物を狩る必要がある。
食糧確保にもつながるし一石二鳥なのだが、それをするには罠を作る必要があるな。
「この体でナイフを巧みに操る! ……なんてことができたら話は早いんだが、それができないからなぁ」
そこで必要になるのがこれ! ゴムの蔦である!
原始的なものでいえば輪っかを作って、その中に動物が入ったら引っ張って捕まえる。
蔦を編み込んで網を作れば巨大な動物でも捕らえることができるだろう。
網目を細かくすれば湖の中の魚も採れたりしないだろうか。
「……まあ、まずは作ってから考えるか」
というわけで、俺は動物を狩るための罠を作成することにした。
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