4日目

 翌日、キツネは朝早くに出かけて街道に出てきました。

 枯れ木の横にお地蔵様があるからそれに化けてやりましょうと……。


「タヌキはどんな悪さをしてくるかしら……」


 キツネにとっては悪知恵の働くタヌキが憎くてたまりません。

 絶対に勝ってやるのだからと、最初は、お地蔵様を退かしてなりすましてやろうと考えました。

 いきなり街道のお地蔵様が二体になっているのは怪しまれる、と思ったからです。が、お地蔵様を見ていますと、ちょっとかわいそうになって隣に並ぶように化けて立ちました。


 とはいっても、今回も待てども暮らせども現れません。

 街道に行き来する人間も数名いましたが、二体に増えたことを気にせずに、いつものように手を合わせています。


(肝心のタヌキはいつになったら現れるのかしら……あっ!)


 お昼を過ぎたあたりで、例のタヌキがひょっこり顔を出してきました。

 背中には何かの包みを背負っています。


(しめしめ、今日は探しているな……)


 キツネはお地蔵様に化けながら、薄目でタヌキの行動を追いかけます。


「やれやれ、今日は分からないぞ」


 タヌキはそんなことを呟きながら、街道を行ったり来たり……。

 しばらくしますと、キツネとお地蔵様のところに腰を下ろしました。


「そろそろ昼飯を食べよう。それからじっくり探すか……」


 と、タヌキは背中の包みをあけました。するとどうでしょうか、大きな握り飯が二つ。

 そのひとつをパクリとかぶりつき、おいしそうに食べているではありませんか。


「そうだ。お地蔵様にあげないと……あれ? ふたりもいたっけな?」


 タヌキは不思議そうな顔をしながら、食べていないもうひとつの握り飯を割りますと、お地蔵様に供えました。


(アタイだってお腹が空いているのに……。でも我慢、我慢……)


 キツネは朝から何も食べていないことを思い出しました。しかし、ここでバレたら折角の努力が水を泡。目の前に並べられていますが手が出せません。

 お腹が鳴るのを我慢しながら、タヌキが食べ終わるのを待つしかありませんでした。


「ごちそうさまでした! お地蔵様、お守りください」


 タヌキはお地蔵様に手を合わせますと、どこかに行ってしまいました。

 姿を消した事を見計らいますと、キツネは我慢できずに並べられた握り飯にかぶりつきました。


 朝からなのにも食べていませんので、おいしいこと、おいしいこと……。


 でも、そのうち声が聞こえてきます。


「やれやれ、今日は分からないぞ」


 再びタヌキが戻って来ました。

 慌ててキツネはお地蔵様に化け直しますと、すました顔で狸が通りますギルのをじっと我慢します。しかし……。


「今日は見つけたよ!」


 と、キツネの前でタヌキは声を上げました。


「顔にお弁当ご飯粒が付いているよ」

「嘘よ!」


 そんなはずはない、キツネは顔を触りました。が、思った通りご飯粒なんて付いていません。しかし、この時お地蔵様の姿で動いたものですから……。


「引っかかった!」

「騙された!」

「今日こそは見抜いたからね!」


 キツネはまんまと騙されたようです。

 ひょっとして、お地蔵様になっているときから知っていたのでしましょうか。

 それはそいますと……。 


「僕の勝ち」

「悔しい! アタイがあなたに負けるなんてッ!」

「では、明日は僕の番だ。ちょこっとだけ、ヒント手がかりを……」

「手がかりなんて要らない!」


 そう言ってキツネは森の奥へ入っていきました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る