KAC20203 Uターン
魔法少年アサヒ 第3話 魔女来襲
アサヒは一人前の魔法少年になるため、日々の修行に励んでいた。ある日、そんな彼が修行するトリの家に先輩魔法少女のシエラが遊びにくる。
アサヒは、そんな先輩に来客用のお茶とお茶菓子を用意してテーブルに並べた。
「最近良く来ますね」
「うん、引っ越したのよ」
「へぇ」
「前はこっちに住んでたから、Uターンだね」
彼女はそう言って軽く微笑む。その後も雑談を楽しんでいたものの、会話に熱中してしまい、師匠からの雷が落ちた。
「何やってるホ! 修行再開ホ!」
「うひーっ!」
「ふふ、じゃあ頑張って」
先輩に見守られながら、彼は師匠の待つ修行部屋へと急ぐのだった。
「さあ、とっとと基礎練ホ!」
アサヒの修行は未だに基礎練習の反復。そんな地道な修練を彼はたまに文句を言いながらも素直に続けていた。
そんなアサヒの姿勢に、トリも満足そうな表情を浮かべる。
「うん、いい感じホ」
「ほう、そいつが噂の……」
許可がないと入れない修行部屋にまたしても乱入者が現れる。トリはその人物に向かって声を荒げた。
「誰ホ!」
「俺を忘れたのかこの毛玉!」
トリの言葉に逆ギレしたのは全身真っ黒な出で立ちで怪しげなオーラを出しまくる存在。そう、魔女だった。顔はフードを深くかぶっているためによく分からない。声はかなりハスキーで、独自の雰囲気を醸し出している。
この魔女はトリと何らかの因縁があるらしい。魔女の正体を見定めた魔法生物は分かりやすく動揺した。
「アサヒ、逃げるホ!」
「は? 魔女なんて返り討ちだろ!」
今までの修行の手応えを感じていたアサヒは、すぐにこの天敵に対してステッキを具現化させて攻撃態勢を取る。意識を集中させて、いざ魔女に向かって攻撃だと言うところでトリが叫んだ。
「止めホー!」
しかし一度動き出したものは止められない。アサヒは現時点で放てる自身最強の炎魔法を魔女に向かってぶっ放した。
「精霊魔法! 豪炎!」
「あらあら、かわいい魔法だこと」
魔女は彼の魔法を小指で弾くと、すぐに空間支配魔法を使う。この魔法の効果でアサヒは動けなくなった。
「邪魔したね」
魔女は同じ魔法にかかって動けないトリをひょいと掴むと、そのまま部屋を去っていく。一連の出来事を、アサヒは何も出来ずにただ見ているしか出来なかった。
トリが連れ去られて2時間後、修行部屋にシエラがやってきた。そうして、部屋に1人で固まっている後輩を見て目を丸くする。
「わ、何があったの?」
彼女に空間魔法を解いてもらったアサヒは、さっきあった出来事を説明。どうやらシエラにとってもその魔女は因縁の相手だったらしく、すぐに思い当たるかのような意味深な態度を取っていた。
「あいつ……復活したのね。やばいな、早くマスターを取り返さないと!」
「俺にも手伝わせてくれよ」
「分かった、行くよ!」
こうして、トリの弟子2人は師匠を取り戻すべく行動を開始する。魔女に心当たりのあるシエラが迷う事なく進んでいくので、アサヒもそれを信じてついていった。
その頃、連れ去られたトリは魔女によって十字架にかけられていた。拘束された魔法生物は魔女をにらむ。
「ロウサ、一体何が目的ホ!」
「決まってるじゃないか。俺を封印したシエラを殺す事さ。お前にはそのための餌になって……」
「へぇ、やってみてよ」
魔女ロウサが自分の野望を高らかに宣言している途中で、そこにシエラが乱入する。憎き標的が現れた事で、魔女のテンションはピークに達した。
「キエエエ! 来たなぁあ! 今度こそお前を殺す!」
「あんたを封印したのは改心の余地があったからだよ。でも無駄みたいだね。覚悟しな!」
こうして魔女と魔法少女のガチバトルが始まる。お互いに自慢の魔法を駆使して現場は一瞬にして戦場となった。ロウサも魔女だけに恐ろしいほどの魔法の使い手ではあったものの、シエラも魔女の攻撃をうまくかわして、自分の魔法を魔女に何度も叩き込んでいた。
「ロウサ、あんたも強くなっているみたいだけど、まだ私の方が上だ」
「馬鹿め! 今だ、ヤミ!」
「はいっ!」
戦況が不利になってきたところで、魔女は切り札を披露する。そう、ロウサも魔法少女を育てていたのだ。彼女にヤミと呼ばれた魔法少女は、その名の通り真っ黒な衣装を着こなした魔法少女だった。
対するシエラもこの流れを読んでいたのか、行動に全く焦りは見られない。
「やっぱそう来たな」
「何?」
「そいつは俺が相手だー!」
先輩のピンチに飛び出したのはアサヒ。こう言う展開になるだろうと予想していたシエラが、事前に後輩に作戦を指示していたのだ。
この突然現れたイレギュラーな魔法少年の登場に、ロウサは戸惑いを隠せない。
「お前、あの時の……」
「アサヒ、そっちは任せた!」
「おうよ!」
「……ふん。あの程度、俺の魔法少女の方が強いわ」
既に実力を知っているロウサはすぐに冷静さを取り戻す。それはつまり、ヤミの方が実力的に上である事を意味していた。その言葉の通り、切り札対決は闇の魔法少女の勝利となる。
「うわあああーっ!」
同時に得意魔法を打ち合った結果、力負けしたアサヒが呆気なく吹っ飛んでいく。その光景を目にしたシエラは目が点になった。
「あ……あれ?」
「どうだ、思い知ったか馬鹿め!」
切札勝負の結果を見届けたロウサは勝ち誇り、これでもかと胸を張る。その時、魔女の視界からシエラの姿は消えていた。焦って姿を探す彼女の背中に、魔法少女のステッキが触れる。
「油断したね」
次の瞬間、シエラの魔法がロウサの身体を駆け巡った。この魔法によって魔女は蒸発。こうして、こっちの勝負は魔法少女の完全勝利となったのだった。主人を失ったヤミは、すぐトリをかっさらって飛んでいく。
それと入れ替わるように、復活したアサヒがシエラのもとに戻ってきた。彼は、現場に先輩しかいない状況に違和感を覚える。
「あれ? 師匠は? 魔女は? あの魔法少女は?」
「マスターはあの魔法少女に持ってかれたよ。助けに行ける?」
「分かった!」
先輩に頼られたアサヒは、まだ視界に映るヤミを追いかけて飛んでいった。
「待てーっ!」
声が届いたところでヤミは反転、アサヒと向かい合う。一度決着のついている相手だけにアサヒの頬に汗が流れた。
「し、師匠を帰してくれ」
「嫌……」
ヤミはステッキを手に魔法を発動。さっきのトラウマがあったのかすぐに反応出来なかったアサヒは、またしても吹っ飛んでいった。
「うわあああーっ!」
吹っ飛んだ彼は、一部始終を見ていた先輩に見事にキャッチされる。
「はは、情けないなぁ」
「うっ……」
シエラに回復魔法をかけてもらい、アサヒの傷も治っていく。その間、彼はヤミの行動に対する疑問を口にした。
「アイツは師匠をどうする気なんだ?」
「多分、他の魔女に戦利品として渡そうとしていてるんだ……」
「嘘だろ?」
「だから絶対に助けないと!」
シエラに肩を叩かれ、アサヒも十分に気合を入れる。この間にもヤミは逃走を続けてしまっていて、もうとっくに視界からは消え去っていた。
「けど、間に合うかな」
「私の手を握って」
アサヒがその言葉に従って手を握ったところで、シエラが魔法を使う。こうして、2人は一瞬の内にヤミの前に転移した。
突然目の前に人影が現れたので、ヤミは急いでブレーキをかける。
「きゃっ!」
「師匠を返せ!」
アサヒがトリを奪い返しに来た事を直感で悟った彼女はすぐにUターン。彼の射程範囲から逃れようとした。その意図を読み取ったアサヒは速攻で魔法を発動。今度は相手が逃げるのに夢中だったので、彼の魔法も無事にヒットする。
「精霊魔法! 爆炎!」
「キャアアッ!」
魔法を受けて吹っ飛ぶヤミと、彼女の手から離れて別方向に宙を舞うトリ。事の成り行きを見守っていたシエラは、見事に自分のマスターをキャッチした。
「うきゅう~」
彼女の胸の中のトリは目まぐるしい状況の変化でぐるぐる目のまま気絶。師匠が気になったアサヒもすぐに彼女のもとに向かう。
「師匠は?」
「ちょっと気を失ってるけど、大丈夫。それよりあの魔法少女は?」
「ちょっと見てくる」
シエラに尋ねられたアサヒは改めてヤミのもとへと飛んでいく。彼が到着すると、闇の魔法少女は死んだようにまぶたを閉じていた。アサヒが呼吸を確認しようと顔を近付けたところで、彼女の目が開く。
「きゃーっ! へんたーい!」
ヤミの最大出力の魔法を至近距離で受けたアサヒは、見事に星となったのだった。
一連のコントが終わった後、今度はシエラが彼女の前に現れる。そうして何かを含んだような笑顔をヤミに向けた。
「今度は私からのお仕置きがいい?」
「ひえーっ」
自分の主人を蒸発させた相手からの無言の圧力に、闇の魔法少女は口から泡を吹いて倒れてしまう。これには流石のシエラも困惑するばかりだった。
その後、トリの判断でヤミも引き取られる事になった。アサヒは抗議をしたものの、魔法生物はその訴えを右から左に受け流す。
「浄化の儀式で彼女の中の闇は抜けたホ。強い戦力は多いに越した事はないんだホ」
「で、でも……」
「もうこの話は終わりホ。アサヒもヤミと仲良くするホ!」
こうして供に同じ師の弟子となったアサヒとヤミだったものの、出会いが出会いだっただけに犬猿の仲。一方的に嫌われたアサヒは妹弟子の扱いに手を焼くばかりだった。
「あなたはここからは近付かないで!」
「いやそれじゃ俺トイレに行けないし……」
「そんなの知った事じゃないですから!」
ヤミが仲間に加わって2ヶ月、未だにアサヒとの間に生じた深い溝は埋まらないまま。けれど、そんな日常にアサヒも徐々に慣れていく。
この日も不意に現れたシエラは、2人のやり取りを目にして軽く微笑んだ。
「あんた達また喧嘩してるの? いい加減仲良くしなさいよ」
「おねーさまぁ」
先輩魔法少女に気付いたヤミは、すぐに彼女に抱きついた。あの一件以来、ヤミはシエラにベッタリなのだ。
自分との対応の違いに、アサヒはため息を吐き出すばかりだった。
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