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にゃべ♪

KAC20201 四年に一度

魔法少年アサヒ

 闇の魔女が世界支配を企む世界で、その企みに気付いた魔法生物が素質のある少女を魔法少女に育て魔女と戦っていた。戦況はほぼ互角だったものの、やがて魔女側が不利になってくると魔女も方針を転換、魔法少女に対する闇の魔法少女を育てる作戦に出る。

 こうして戦いは魔法少女対魔法少女となり、状況はますます混沌となった。数々の一流魔法少女を育てたフクロウに似た魔法生物であるトリは、また新たな有望株を見つけ、その育成に励むのだった――。


 トリが今みっちりマンツーマンで鍛えているのは少女――ではなく、13歳の少年だ。魔法を使える男子はこの世界でもレアで、そこにトリは希望を見出したのだ。

 魔法を使える少年、魔法少年となった彼の名はアサヒ。魔女によって両親は殺され、母親の因子を強く受け継いだ彼に魔法の才能が宿ったのだ。


 アサヒが自身の魔法をマスター出来れば、きっと魔女を倒す事が出来るはずだとトリは考え、孤児となった彼を密かに育て、鍛えていた。アサヒもまたトリを第二の親、師匠と認識し、両親を倒した魔女への復讐に燃えていた。


「早くアサヒを一人前にしなければ、世界は魔女の手に落ちてしまうホ……」


 魔女と魔法少女のパワーバランスは微妙な均衡を保っている。少しでもどちらかに有利な現象が起これば、それだけで戦況は一変してしまうだろう。

 だからこそ、トリは自分の育てる少年を早く使い物にしようと焦っていた。


「身の丈に合わない魔法は使っちゃだめホ。基礎さえ身につければ……」

「ふーん、そいつがあたしらに対する切り札なのね」

「だ、誰だっ!」


 アサヒは突然の侵入者に声を荒げる。今までこの結界に他人が勝手にやって来る事はなかったからだ。


「ふふ、あたしの名はフェル。魔女によって作られた第一の魔法少女。そう言えば、そこのトリは意味が分かるわよねぇ?」

「アサヒ、逃げるホ!」

「はぁ? 俺は戦うぜ! こいつが魔女の手先なら!」

「今のお前では勝てないと言ってるホッ!」


 突然大声で叫ばれたアサヒはショックを受ける。今まで叱られる事はあっても、強く否定される事はなかったからだ。ただ、反抗期の少年がその言葉を素直に受け入れるはずもない。相手が自分の両親の敵に連なる者だからなおさらだ。


「勝てないって……やってみなきゃ分かんないだろ!」

「相手は別格ホ! 敵う訳が……」

「それくらい分かってるよ! でも何もせずに逃げ出すとか出来ねぇ!」

「フフ、安心しな少年。あたしの目的はあんたじゃない……」


 フェルは意味ありげに手をかざすとステッキを具現化する。ステッキを手にした彼女は軽く一振りした。

 フェルは詠唱を破棄して、いきなり火の玉を連続してステッキの先から発射する。この予備動作なしの攻撃にアサヒは全く対応出来ず、そのまま呆気なく吹っ飛んだ。


「うぐあああっ!」

「魔法は魔法少女が一番うまく扱えるんだよ。身の程を知りな」

「アサヒーッ!」

「さて、じゃあ一緒に来てもらうわヨン」


 彼女はひょいとトリを掴むと拘束魔法をかける。こうして身動きの取れなくなった魔法生物は、そのままあっさりと連れ去られたのだった。

 フェルの魔法にふっとばされたアサヒは体を動かせず、その様子をただ目に焼き付ける事しか出来ない。


「ししょおおーっ!」


 こうして急襲の魔法少女も去り、後に残されたのは静寂の気配。体調が回復して動けるようになった彼の前に来客が現れた。


「あちゃー、遅かったかぁ……」


 それは魔女側でない方の魔法少女だ。服装でそれはひと目で分かる。魔女側の魔法少女の衣装は悪趣味で、魔法生物が力を与えた魔法少女の衣装は可愛いのだ。

 そんなひらひら衣装の魔法少女は、アサヒを見るなり意味ありげに笑う。


「へぇ、君が今のマスターの弟子なのね」

「だ、誰?」

「私はあなたの先輩。マスターが狙われているのを察知して阻止しようと思ったんだけど間に合わなかった」


 彼女の名前はシエラ。トリがアサヒに出会う前に育てた魔法少女らしい。彼から見る限り、頼りになるおねーさんと言う感じだった。この魅力的な先輩を目にしたアサヒは、ひとかけらの勇気を振り絞る。


「先輩、俺に力を貸してくれ!」

「うん、私もそのつもり。よろしくね、後輩」


 フェルの行き先はシエラが知っているらしく、アサヒは黙ってついていく。辿り着いたのはこの辺り一帯を仕切る魔女の城。城の前まで無事に辿り着いた2人は、お互いに顔を見合わせてうなずきあった。


「俺、上手くやれるかな……」

「マスターが選んだって事は君には素質があるんだよ。大丈夫、自分の力を信じて」

「そ、そうかな」


 先輩に褒められたアサヒは顔をにやけさせる。その顔を横目にシエラの目が本気モードに変わった。


「ま、使い物にならなくても、弾除けくらいにはなってよね。じゃ、行くよ!」

「ちょ、まっ……」


 彼がその言葉にショックを受ける間もなく、シエラは城に特攻をかける。この城の警備には魔女側の魔法少女が多数配備されていたものの、彼女はそれを難なく倒していった。


「ほら、何してるの? 行くよ!」

「お、おう!」


 シエラに急かされてアサヒも急いで後に続く。彼女の通った後はまるで戦争が起こった後のような有様だ。そうして、ついに2人は魔女のいる魔女の部屋に。


「待ってたわよん、目の上のたんこぶ」


 入って早々、フェルが2人の前に現れる。真っ黒な魔法少女の衣装で片手を腰に当て、上から見下すようなポーズを取っていた。

 シエラも負けじとステッキを握った腕を相手に突き出して、威圧感を出そうと胸を張る。


「私もあんたとようやく決着が付けられると思うと震えが止まらないよ」

「あら? それは変な病気じゃなくて? あたしが優しく殺してあげるわ」

「それはこっちの台詞!」


 挑発合戦が終わったかと思うと、2人はいきなり超スピードで戦闘を始める。その動きの素早さは、まだ半人前のアサヒの目では追えないほどだった。


 2人の魔法少女が死力を尽くしているその影で、アサヒはひたすら気配を消してトリの居場所を探る。魔女の部屋は濃い魔法の気配が室内全体を包んでいて、そのために見通しが悪かった。

 ゆっくりじっくり探っていると、やがて鳥かごのようなものが見えてくる。どうやらそこにトリが捉えられているようだ。鳥かごに鍵はかかっておらず、捕らわれの魔法生物は呆気なくアサヒの手によって自由の身となる。


「師匠、もう大丈夫だ」


 それはアサヒがトリを鳥かごから出した瞬間だった。突然トリの体が巨大化し、動くぬいぐるみから凶暴なクリーチャーへと変貌を遂げる。この唐突な展開にアサヒの頭は理解が追いつかない。


「し、師匠?」

「オマエヲ……コロス!」


 凶暴化したトリがアサヒを狙う。幸い、物理攻撃しか出来ないようで、彼はトリの攻撃を紙一重でかわしていた。


「師匠! 俺ですよ! アサヒです!」

「無駄ぞえ……そいつはアチシが変えてやったのだからのう」

「ま、魔女……」


 そう、暗闇の中で浮かび上がったのはこの城の主の魔女だった。黒いフードを被り、まるで闇が意識を持って喋ってるかのようにすら見える。トリを化け物に変えたのはこの魔女の仕業だったのだ。


 この非常事態に驚いたのはアサヒだけではなかった。シエラもまた戦いながらクリーチャーと化したマスターの姿を見て混乱する。


「嘘? マスターが魔女の魔法にかかるなんて……」

「知らないの? 魔法生物は四年に一度魔法抵抗力が著しく下がる日があるのよ」

「まさかフェル、あなたそれを狙って……」

「敵の弱点を狙うのは戦いの基本ヨン」


 フェルはそう言うと、シエラに向かって攻勢を試みる。そこから一旦防御に徹した彼女は何とか形勢を立て直し、闇の魔法少女とまた互角の戦いを続けるのだった。


「師匠、俺だ! 弟子のアサヒだ!」

「ヒヒヒ、もうそいつはただの怪物だよ。声など届かんねぇ」

「コロス! コロスゥ!」


 シエラとフェルの戦いも膠着状態のまま、決着は簡単に付きそうになかった。2人は正反対の魔法を同時に発動してお互いに力を打ち消し合っている。


「アサヒ、こうなったら君が頼りよ! マスターを元に戻して!」

「そんな魔法、まだ教えてもらってな……」

「君の心が思い出すから! 集中して! 君を見出したマスターを信じて!」


 シエラの激励が心に響いたアサヒは逃げから一転、襲いかかるトリに真剣に向かいあった。


「師匠、今から俺があなたを救う!」

「イーヒッヒッヒ! 無駄じゃ無駄じゃあ!」

「うっせえ!」


 魔女の挑発でキレたアサヒはここで突然膨大な魔法知識を知覚する。次の瞬間、彼の意識は飛んでいた。そうして溢れ出す膨大なエネルギー。それは魔女の城全体を包み込んで行く。


「な、何じゃこの力は……」

「アビル様、一旦引きましょう」


 彼が引き出した巨大な力は魔女の城を完全に破壊。その影響なのか、クリーチャーだったトリも元の姿に戻っていた。この大仕事をやり遂げたアサヒは力を使い果たしてその場に倒れてしまう。


 フェルと魔女アビルはギリギリで城を去り、倒す事は出来なかった。けれど、当初の目的は無事に達成する。倒れたアサヒはシエラによってトリの家まで運ばれた。


「あれ……?」

「やっと目覚めたかホ」


 アサヒが気が付くとそこは自室で、じいっとトリに見つめられていた。彼はびっくりして飛び起きる。


「師匠、俺、変な夢を……魔女の魔法少女が襲ってきて師匠が連れ去られて、最後は魔女の城で……」

「それは全部本当の事だホ。シエラがお前を家に運んだんだホ」

「あ、先輩は?」

「とっくに帰ったホ。彼女もプロの魔法少女として忙しい身なんだホ」

「そう……ですか。お礼も言えなかったな……」


 トリの話を聞いたアサヒは窓の外を見てため息を吐き出す。トリはそんな弟子を何も言わずに優しく見守っていた。



 ――これは、魔法少年アサヒが魔女を倒して世界を平和に導く5年程前の物語。

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