[Playoff] ワイルドカード-2066年1月16日(土)
ワイルドカード・プレイオフ、ロス・アンジェルス・チャージャーズとのゲームが終了。土曜日のナイト・ゲームとして組まれていたので、開始は太平洋標準時で5時15分。終了は9時前だった。東部標準時なら日付が変わる直前だ。俺たちとしては当然、それを基準に活動しているので、ゲーム後のミーティングが終わって、ホテルに引き上げてきたのが東部標準時の1時半。疲れているし、さっさとシャワーを浴びて寝たいのだが、これから人と会わねばならない。何しろ相手は太平洋標準時で生活している人物で、まだ10時半という“
とりあえずシャワーを浴びて身なりを整え、11時に1616号室のドアをノックする。ロックの外れる音がして、サイモン・マックイーンが顔を覗かせた。相変わらず、中途半端な表情だ。有能な探偵にはとても見えない。
「勝利おめでとうございます。いいゲームでした」
「前半は見ていて心配になったかい」
「いえ、前半は見ませんでしたので」
もちろん、探偵としての仕事をしていたからであって、悪気はないだろう。しかし今年のジャガーズのファンというのは――少なくとも俺が加入して以降だが――同じように「ゲームの前半を見ない」という奴も多いらしい。始まって1時間半後、第2
今日のゲームは前半を終えて0-27。相手に
しかし後半は一転してジャガーズのペース。全スナップをノー・ハドルでプレイしたのがリズムを変えてよかったようで、4ドライヴ連続で
だが第4
残り時間58秒。タイムアウトも残っていない状況から、最後のドライヴを開始。タッチバックで自陣25ヤードからなので、
それを4本連続で決め、敵陣39ヤードでボールをスパイクして
勝利をマギー改めメグに電話で伝えたりはしていないが、もちろんストリーム中継で見ていてくれただろう。ジャクソンヴィル市外の、例のホテルで。
さて、サイモンからの報告を、窓際の椅子に座って聞く。夜景を見たいところだが、カーテンは閉めておく。
「3人について順番に話しましょう。まずGについて」
「昨日の広報セッションにクリスって記者はいなかったみたいだけど」
「当然ですよ。少なくともテイラーという名前を出したら気付かれてしまいます」
「偽のIDには偽名も使ったってことか」
「ティナ・マックイーンです」
クリスティンのニックネームにはティナというのもある。それにマックイーンを組み合わせたのか。
「うまく行った?」
「完全に。彼女は演技ではなく、本気でGに取り入ろうとしたみたいです」
「どうしてそんな」
「それが彼女の将来につながるからじゃないですか。後々、大物になりそうな男性を捕まえておくというのが」
元大物から、次代の大物に乗り換えようと。フィリスの性格はそんなのじゃなかったはずで、姉妹とはいえ違うものなのかなあ。
「それで彼女は今後、どういう手筈で近付く予定?」
「今後も何も、昨夜、Gの部屋で泊まりましたよ」
「そんなに早く!?」
ジョルジオの手の早さは知ってる。大学時代も遠征先で相手の学校の女子学生に手を付けた。主にゲーム後。今はゲーム前になったってことか。その早さを、ベスやメグに発揮していたら大変なことになっていた。彼女たち、よく凌げたものだ。
ところで部屋って、このホテルじゃなかったっけ。もっと上の階? サイモンは見張りやすかっただろうが、チームの外向きの主担当である広報が、こんな人目に付きやすい場所でいかがわしいことに及ぶのは問題があると思うなあ。他人のことを探ってる場合じゃないだろう。
「じゃあ、この後、ティナはジャクソンヴィルへ来るのかい」
「そこまではまだ。ちょっと間を置きます。その方が効果があるはずです。次は来週末の予定です」
「バッファローだよ。遠いな。カリフォルニア州の記者が、そんなところまで行く必然性があるのかね」
ニューヨーク州の西端で、エリー湖のほとり。ゲーム当日は大雪が降ると予報されている。ちなみにバッファロー・ビルズはNFCの第1シードで、今週はゲームがない。
「Gはカリフォルニア州進出を狙ってますから、彼女を誘いますし、彼女だってそれに乗るのが自然でしょう」
「なるほど、もっともだ。しかしもう少し時間をかけるんだな?」
「そうです。少なくとも2、3週間は。その前に他の二人を何とかします」
「で、そっちは」
「チャーリーについては、昨日報告したこと以外に、今日、イリノイ州へ飛んだことを確認しました。たぶん、フィリスのことを調べに行ったんでしょう」
「今頃になって急に思い付いた? まさか君がそれとなく漏らしたんじゃないだろうな。カリフォルニアから追っ払うために」
「ご明察です。彼が付き合っている女性の何人かにそれとなく教えて、誰から伝わるかで、親愛度を推し量ろうと」
やるなあ。フィリスにたどり着いても、そこからクリスへ行き着くにはもう一段階あるわけで、それを調べている間に彼の弱みを握るか、ジョルジオとの関係を断ち切ってしまえばいいわけだ。そして二人のブリッジになるのがジョニーだが。
「実はジャクソンヴィルでの引き留め工作が難航しています。例の4人が頑張ってくれているのですが」
「もうこっちに帰ってきた?」
「まだです。今日のゲームは向こうで見たようです。が、明日には戻ってくるでしょう。時間がないので非常手段を使おうと思うのですが、僕の手際ではうまく行くかどうか」
サイモンは目を逸らしているが、どうも俺の協力を仰ぎたがっているように見える。俺ができることって何だ。まあ、一つしか思い付かないのだが。
「ヘイ、サイモン。俺は明日、チャーター便でジャクソンヴィルに帰るんだぜ。直行便だからフライトは4時間半ほどだが、夕食前に帰るためにこっちを10時頃に出発するんだ。起きるのは8時。十分な睡眠を摂りたいと思ってるんだが……」
「でしたらまだ8時間以上ありますね。夜中に1時間半くらい捻出してもらえませんか。ジョニーの家はグレンデイルで、ここから車で片道30分くらいなんです。何なら車に乗っている間、寝ていてもらっても……」
やっぱりかよ。
「何か盗み出すのかい。そんなにすぐに探し出せるほど狭い部屋なのかね」
「いえ、置いてくるんですよ。場所はいくつか候補があるんで、すぐに済むと思います」
置いてくる?
「電子錠ならお手上げだぜ」
「いえ、ツァイスイコンのマルチプロファイル型シリンダー錠という難物でして」
「それは大変だ。1分はかかるだろうな」
サイモンが視線を合わせてきた。そんな「
まあ、自分の道具を持ってきていないので、借り物のピックだとどれくらいかかるか読めないんだけどさ。
「それなら1時間半を1時間5分に縮められそうです」
「仮眠は自分の部屋でしてもいいよな。モーニング・コールをよろしく」
今からなら、1時間半後の1時がちょうどいいと思うんだが、彼の睡眠リズムと合うかどうか。
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