[Game Day] プレゲーム・ショー - 2066年2月14日

「ウォルター・ペイトン・マン・オヴ・ザ・イヤーの発表が終わりました。さてこれから両チームの選手が入場しますが、今年は100回記念ということで、古い形式を採用することになっています。2001年、第35回までは、各チームの攻撃オフェンス、あるいは守備ディフェンスのスターター11人が、名前を呼ばれながらフィールドに入ってきていました。その次の第36回に出場したペイトリオッツが、自分たちのチームは一体なので、全員で入場したいという希望を出してそれが承認され、次の年からはどのチームも全員で入場するようになりました。解説の林さんは当時のことはご存じでしょうか?」

「さすがに65年前のことはよく知りませんけれど、第35回でレイヴンズの名LBラインバッカーレイ・ルイスが入場の時に“リス・ダンス”をするシーンは、過去の名場面の時によく見ます。それくらいですね」

「今回は攻撃オフェンスから5人、守備ディフェンスから5人、そしてスペシャルチームから一人選ぶという特別なルールになりました。ファンとしては、誰が選ばれるのかというの気になるところですね」

「はい。ただポジションごとの選択基準も細かく決まっているらしいので、プロボウルに選ばれるような選手だからといって、ここで選ばれるわけではないということらしいです」

「例として、攻撃オフェンスラインからは必ず二人選ぶ、とかですね。さあ、間もなくダラス・カウボーイズの選手の入場です。スーパーボウルのホームチームはAFCとNFCが交互に当たりますが、回数が偶数の年はAFCがホームです。つまり今回はジャクソンビルがホーム、ダラスがアウェイですので、ダラスが先に入場となります。フィールドの隅に設置されましたインフレータードームから一人ずつ順に出て、チアが作る花道を通っていきます。ダラスのサイドラインにはフィールド解説として村社むらこそさんがスタンバイしてくださっています。よろしくお願いします」

「はい、こちらこそよろしく」

「さあ、場内のアナウンスの後に選手が出て来ます」

 "Left tackle, from Tulsa, number 73, Terence Smith."

「ルーキーながらQBクォーターバックのブラインドサイドを守るLTレフトタックルのスターターを勝ち取りました。テレンス・スミス、タルサ大学出身」

 "Right guard, from Wisconsin, number 63, Tyler Martin."

「ダラスオフェンスの右へ展開するランプレイのキーブロッカー。プロボーラーRGライトガード、タイラー・マーティン、ウィスコンシン大学出身」

 "Tight end, from Stanford, number 86, Dalton Ferguson."

「ショートヤーデージ・シチュエーションの頼れるクラッチレシーバー。TEタイトエンド、ドルトン・ファーガソン。スタンフォード大学出身」

 "Quaterback, from Texas A&M, number 10, Roger Kauffman."

「ひときわ歓声が大きくなりました。テキサス州ウェストブルック高校時代から彼の名は全米に轟いていました。大学で2度の全米チャンピオン、そしてプロでも3度目のスーパー・ボウル制覇を狙う男。キャプテン・カムバック。QBクォーターバック、ロジャー・トーマス・カウフマン。テキサスA&M大学出身」

「すごい歓声ですね。ジャガーズのホームとは思えません。スタンドの半分はダラスファンじゃないですか。応援カラーが白なので目立ちませんけど」

 "Running back, from Memphis, number 20, Doug Davis."

「かつてダラスで活躍したスターRBランニングバック、ハーシェル・ウォーカー、トニー・ドーセット、そしてエミット・スミスの系譜はこの人に受け継がれました。プロボウラーRBランニングバック、ダグ・デイヴィス、メンフィス大学出身。続いて守備ディフェンスの選手の紹介です」

 "Defensive tackle, from Kansas, number 92, Daunte Armstrong."

「パワーとクイックネスを併せ持つトレンチの破壊者。強烈なブルラッシュで相手QBクォーターバックにプレッシャーをかけるDTディフェンスタックル、ダンテ・アームストロング。カンザス大学出身」

 "Outside linebacker, from Boise State, number 90, Malcolm Lawrence."

QBクォーターバックサック16回、そしてパスディフレクト10回は共にチームナンバーワン。変幻自在のラッシュが持ち味のLBラインバッカー、マルコム・ローレンス。ボイジーステート大学出身」

 "Middle linebacker, from LSU, number 50, Leighton Clark-Cox."

「インサイドランストップの要、ダラス守備のハート&ソウル。プロボウラーLBラインバッカー、レイトン・クラーク・コックス。ルイジアナステート大学出身」

 "Corner back, from Alabama, number 7, DeSean Wilson."

「この人のいるサイドにパスが投げられることはほとんどありません。今日もその守備範囲を“無人島”にしてしまうのか。リーグが誇るシャットダウンCBコーナーバック、デショーン・ウィルソン」

 "Strong safety, from Clemson, number 27, Jameis Kearse."

「インターセプト8回はチームナンバーワン。そのうち2回はリターンTDタッチダウン。パスコースに入るスキルは相手QBにとって脅威です。SSストロングセーフティー、ジェイミス・カース、クレムゾン大学出身。続いてスペシャルチームの選手です」

 "Kicker, from Nebraska, number 2, Bryan Anderson."

「ルーキーながらレギュラーシーズンのFGフィールドゴール成功率はリーグトップ、PATポイントアフタータッチダウンはパーフェクトでした。キッカー、ブライアン・アンダーソン。ネブラスカ大学出身」

「今年のカウボーイズはオフェンスが強いので、FGフィールドゴールの数自体が少なかったですし、蹴るにしても距離が短かったですからね」

「そしてHCヘッドコーチビル・ジョンソン以下、他の選手が入場してきます。ものすごい歓声です」

「やっぱりダラスのホームのような気がします」

「さあ、続いてはジャガーズの選手紹介です。こちらは守備ディフェンスからとのことです。ジャガーズのサイドラインにはゲストとして、以前ジャガーズの守備コーチアシスタントを務めておられた中村つかささんをお招きしています。中村さんは学生時代からアメリカンフットボール部のコーチを務めておられたそうです。選手経験がなく、最初からコーチというのは日本では非常に珍しいことだと思いますが、中村さん、よろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします。今回は大役をいただきまして」

「ジャガーズの練習を何度かご覧になったそうですが、選手にインタビューもされましたか」

「はい、QBクォーターバックのナイトとも話をしましたし、その他の選手のことも、ゲーム中にいくつか紹介していきたいと思います」

「よろしくお願いします。ジャガーズの選手紹介が始まりそうです」

 "Defensive tackle, from Oklahoma, number 92, George Shackerford."

「ステータスレポートでは肋骨3本にひびが入っているとのことですが、『俺の番号92が相手にプレッシャーを与える』と豪語し強行出場。ジャガーズが誇るインサイドラッシャー、DTディフェンスタックル、ジョージ・シャッカーフォード。オクラホマ大学出身」

 "Defensive tackle, from Kentucky, number 96, Mat Thompson."

「大学時代は“ケンタッキーの巨大ハンマースレッジハマー”の異名を取りました。絶妙なハンドテクニックを駆使してオフェンスラインを翻弄し、今日も相手QBクォーターバックに迫れるか。DTディフェンスタックル、マット・トンプソン。ケンタッキー大学出身」

 "Linebacker, from North Dakota State, number 47, Donnie Unverzagt."

「インサイド、アウトサイドのいずれもこなすマルチパーパスLBラインバッカー。今シーズンは攻撃にも参加してTDタッチダウンパスレシーブも記録しています。ドニー・アンバーザト、ノースダコタステート大学出身」

 "Corner back, from Ohio State, number 3, Carl Gales."

「4年前に4巡で指名され、今シーズンその才能がついに開花。見事スターターを勝ち取りました。CBコーナーバック、カール・ゲイルズ。オハイオステート大学出身」

 "Corner back, from Aramaba, number 29, Teddy Messenger."

「3年前の1巡指名、ルーキーイヤーからスターターに定着。相手レシーバーを寄せ付けず、付けられたニックネームは“孤独なソリタリーメッセンジャー”。ジャガーズセカンダリーの守護神、プロボウラーCBコーナーバック、テディー・メッセンジャー。アラバマ大学出身」

「声援が大きいです。やはりジャガーズの中では彼が一番人気がありますね」

 "Center, from Miami Florida, number 52, Bobby Raymer."

「メッセンジャーが守備ディフェンスの中心なら、攻撃オフェンスの中心はこの人。史上初めてセンターのポジションでハイズマントロフィーを獲得。NFLデビュー以来4年連続プロボウルファーストチーム選出。センター、ボビー・レイマー、フロリダ州マイアミ大学出身」

 "Right tackle, from Texas Tech, number 58, Vaughn Panos."

「大学入学時にスポーツと学業の二つのスカラシップを獲得。学位を取得し、卒業時には総代も務めました。ジャガーズ攻撃オフェンスの頭脳、RTライトタックル、ヴォーン・パノス。テキサス工科大学出身」

 "Wide receiver, from Utah, number 11, J. C. Dawkins."

「レギュラーシーズン4年連続1000ヤードレシーブ達成。40ヤード4.25秒はジャガーズ最速。シングルハンドのサーカスキャッチも難なくこなす、頼れるナンバーワンターゲット。WRワイドレシーバー、J・C・ドーキンズ、ユタ大学出身」

 "Wide receiver, from BYU, number 88, Keith Jackson."

「相手がドーキンズにカバーを集中させられないのはこの人がいるからです。一撃必殺のロングボムレシーバー。WRワイドレシーバー、キース・ジャクソン。ブリガムヤング大学出身。今日はもしかしたらこの人がキーになるかもしれません」

 "Running back, from TCU, number 34, Darrell Fletcher."

「ジャガーズラン攻撃オフェンスの核は彼とリッキー・モスが担います。ショートヤーデージのレシーバーとしても活躍し、パスプロテクションも一級品。万能バーサタイルRBランニングバック、ダレル・フレッチャー。テキサスクリスチャン大学出身」

QBクォーターバックのナイトは呼ばれなかったですね。次はキッカーです。ベテランのブレット・ベルデンですか……ああっと?」

 "Punter, holder and quarterback, from Miami Florida, number 13, Artie Knight."

「画面にはブレット・ベルデンが映っていましたが、名前を呼ばれた途端にタッチをして後ろと替わりました。QBクォーターバック、アーティー・ナイト。フルネーム、アーサー・パーシヴァル・ナイト。QBクォーターバック陣の相次ぐ故障のため、ウィークエイトから加入。それまではアリーナフットボールのQBクォーターバックでした。しかしマイアミ大ではオレンジボウルで大逆転を演じたことで有名です。NFLデビューからこれまで13ゲーム中、実に12ゲームで逆転勝ちを記録。ドラフト外アンドラフテッドQBクォーターバックとして初めてスーパーボウルでスターターを務めることになります。フロリダ州マイアミ大学出身」

「なるほど、パンターとして紹介されました。いや、すごいフェイクでした」

「私も危うく原稿を読み間違えるところでした。ポストシーズン前に、ポジションをスペシャルチーム兼任になるよう変更していたそうです。続いて暫定HCヘッドコーチのジョー・ブルックスと他の選手が入場してきます。この後は、国歌斉唱です。今回は100回目を記念して、世界中からゲストが招待されています。ナショナル・アンセム・シンガーはロシアからイタリアに帰化したオペラ歌手のニュシャ・エイヴァゾワ。演奏はノルウェーからオスロ交響楽団の若手バイオリニスト、イングリとサンドラのハラルセン姉妹です」


  "Oh, say can you see, by the dawn's early light,

   What so proudly we hailed at the twilight's last gleaming,

   Whose broad stripes and bright stars through the perilous fight,

   O'er the ramparts we watched, were so gallantly streaming.

   And the rocket's red glare, the bombs bursting in air,

   Gave proof through the night that our flag was still there;

   Oh, say does that star-spangled banner yet wave

   O'er the land of the free and the home of the brave."


「歌い終わると同時に、4機の戦闘機がフライオーバー、スタジアム上空を通過していきました。この4機もアメリカ空軍サンダーバーズとイギリスのロイヤルエアフォース、2機ずつの編隊飛行。しかもどちらも一人はパイロットが女性だそうです」

「凝ってますねぇ」

「続いてフィールドではコイントスです。トスを行うオノラブルトサーも4ヶ国から招待されていまして、いずれも過去にインターナショナルゲームを開催した国、メキシコ、イギリス、ドイツ、そしてスペインからということです。それぞれ記念品を持参して、両チームに贈られます。順に紹介しますと、メキシコは政府スポーツ庁代表ダーニャ・シウさん、イギリスはロンドン大学の学生代表ルイーザ・スタントンさん、ドイツはバーデン・ヴュルテンベルク州知事のお嬢さんのギーゼラ・フォン・リッツェルさん、そしてスペインは政府文化庁代表のドロレス・エラスさんと、なぜか全員女性です」

「イギリスはどうして学生さんなんですか」

「大学側の発表では、ジャガーズのアーティー・ナイトが学生時代に書いた学士論文を彼女が引用して修士論文の研究をしていて、去年の11月にマイアミ大に論文のことを問い合わせたところ、話がなぜかロンドンゲームズの事務局まで行って、いろいろな交渉の結果、今回の派遣が決まったということらしいです」

「スポーツじゃなくて学術の交流なんですね。そんなことってあるんですか」

「本当かどうかはよく判りません。さて、今日のレフェリーのホキュリーさんからコイントスの参加者が両チームの選手に紹介されています。代表のトスはどうやらドイツのギーゼラ・フォン・リッツェルさんが行うようです。表か裏かの宣言はアウェイチームのダラスですが、表を宣言しました。ギーゼラさんがコインを投げて……表が出ました。ダラスは前半をチョイス。ジャクソンビルのキックオフ、ダラスのレシーブでゲームが開始されます。

 第100回スーパーボウル、フロリダ州ジャクソンビルのジャクソンビル・ミューニシパル・スタジアムからストリームライブ中継です。解説は東京学院大学アメリカンフットボール部ヘッドコーチの林将之さん、サイドラインレポーターは叡山大学アメリカンフットボール部ヘッドコーチの村社むらこそきよしさんと元ジャガーズ守備コーチアシスタントの中村つかささん。実況はジャパンストリームブロードキャストの松田隆夫でお送りします」

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