#16:第7日 (18) [Game] シューティング・ゲーム

「もう少し詳しく説明してくれ」

 もちろん、ジュリアーナを通じて蝶に頼んでいるつもり。

『サファイア・ワンドは全部で四本ありますが、一度に使えるのは一つだけです。4人が順に、一つずつ使うことができます』

 どうしてそんな制限が付いているのかよく判らないが、それがゲームのルールだから仕方ない。

「ワンドをどう使えばゴーストを倒せる?」

『魔弾を撃つことができます。ゴーストの正面から当てると、倒すことができます』

 バトルじゃなくてシューティングだったか。正面に回り込まないといけないのよ。

『ゴーストは11列5段に並んで、左右に動きながら、少しずつこちらに近付いてきます。あなたも左右に動きながら、ゴーストを狙って下さい』

 こっちは左右に動くだけ? もしかして、それって。

『最前列にいるゴーストも、魔弾をランダムに撃ってきます。当たると倒されて、次の人と交代です。魔弾を避けるための柱が4本ありますが、少しずつ壊されていきます。隙間から漏れてきた魔弾に当たると、倒されます』

 やっぱりそうか。でも、それって本来の敵はゴーストじゃなくて、インヴェイダーだよなあ?

『全ての人が魔弾に倒されると、始めからやり直しになってしまいます。また、ゴーストが近付いてきて、こちらの陣地が占領されると、まだ人が残っていても始めからやり直しです』

 ぎりぎりまで近付けて撃つ裏技チートは使えるのか。いや、俺は知ってるだけで、やったことはないんだけど。ウィルが何か呟いてるな。「最後に来てこんな古典ゲームか」って?

 さっきまでだって、そうじゃないか。どっちにしろ、この時代からでも75年以上前のゲームだろう? それとも、穴を掘ってモンスターを埋めるゲームでもやりたかったか。

「いいよ、やろうよ。プレイの順番は? 僕が最初にやりたいね。すぐに片付けてやるよ。こういうのも得意なんだ」

『上のレヴェルで祈りの間に入った順となります』

何てこったいメウ・デウス! 僕は最後かよ!」

 ウィルが両手を挙げて“お手上げギヴ・アップ”のポーズ。そういえば、先にフィルが入ってきたんだったな。つまり、俺、マヌエラ、フィル、ウィルの順だ。何なら先の3人はさっさとやられて、ウィルまですぐに回してやってもいいが。

『最初の3人は、一人で10体以上倒さないと、始めからやり直しになってしまいます』

 どうして俺の心を読むんだよ、この蝶は!

「とにかくやろう。俺からだな。ところで、先に訊いておくが、ローナ、このタイプのゲームをやったことは」

「ありません。ですが、お任せ下さい。閣下スア・エセレンシアのために最善を尽くします」

 ローナが穏やかな笑みをたたえながら、真面目に答える。頑張るポイントが違っているような気がするが、まあいいか。フィルはやったことが一応あると。

 よし、始めよう。ワンドは? ああ、ここでも石板を嵌めないといけないのか。さっきの石のテーブルに。

 ジュリアーナから石板を受け取る。これはエスペランサの? ガスパールの? いずれにせよ、もう一つ石板を嵌めるところがあるということか。つまり、この先にまだゲームが。いや、それは後で考えるか。

「"INCERT A TABLET"、ゲーム・スタート!」

 テーブルの上にワンドがどこからともなく現れた。長さ2フィートくらいの杖で、先端に青い宝石が付いている。たぶん、サファイヤだろう。手に取ったが、使い方がよく解らない。というか、どこから魔弾を撃てばいいわけ?

 振り返ってジュリアーナを探したが、姿がない。それどころか、他の3人もいない。どこかへ移動してしまったのか、それとも見えなくなっただけなのか。しかし、自分のいる辺りは薄ぼんやりと見えている。ワンドが光っているようだ。

 足元を見ると、石畳の一部が、柱に沿って幅1ヤードくらいの直線を描いている。それに、前には太い柱。4本あって、直線はそれに沿っているので、どうやらここが撃つためのエリアのようだ。

 前を見ると、暗闇の中にゴースト! 55体と言っていたが、無数にいるように見える。しかし、整然と並んでゆっくりと横に移動している様は少々滑稽だ。姿は、上のレヴェルのゴーストと同じなのにな。

 おっと、何か光るものが飛んできた。あれが、ゴーストの撃つ魔弾か。赤い火の玉のよう。予想より速いじゃないか。しかし、避けられないことはない。

 それに、ぼさっとしてないで、こっちも早く撃たねば。どうすればいい? ワンドのサファイヤを相手に向けて「撃つシュート」。おお、青白い光の玉が飛んでいく。そしてゴーストに当たった。ゴーストが消えた。何だ、意外と簡単。

 次々に「撃つシュート」。おやおや、玉が一つしか飛ばない。連射はできないのか。ゴーストに当たるか、外れて向こうの壁に当たるまでは、次のが撃てないんだ。何となくまだるっこしい。

撃つシュート」、「撃つシュート」、「撃つシュート」……待てよ、当てやすそうなのばかり撃つのはよくないな。セオリーではどうするんだっけ。端から撃っていく? 列の数が少なくなるほど、折り返しに時間がかかって、相手の侵攻が遅くなるはず。では、左端の方へ行って、「撃つシュート」、「撃つシュート」、「撃つシュート」……

 火の玉が来た。避ける。この程度では当たらない。「撃つシュート」、「撃つシュート」。よし、10体倒した。責任は果たした? おっと、火の玉が二つ並んでくる。意外に間隔が狭いじゃないか。しまった、避けられ……

 目の前が暗くなって、明るくなって、周りを見ると、ジュリアーナたちがいる。ウィルとフィルはいるが、マヌエラはいない。ここはどこだ。

「あんたが走り回ってたところの、後ろだよ。少し高くなってて、ゲームの様子が見られるんだ。観客席みたいなものだね」

「ゲームが始まった瞬間に、ここへ移動したのか。で、俺の動きはどうだった」

「下手だね、と言いたいけど、ここから見るのと床を走り回るのとじゃ、勝手が違うんだろうなあ、と思ってるよ」

 たぶん、そうだよ。フットボールだって、フィールド上で味方や相手の動きを把握するのは大変なんだ。もっとも、俺は全員の動きをちゃんとるけどな。

「ローナが苦戦してます」

 ゲームを見て、フィルが言う。それはもしかして、俺よりも下手ということか。

「彼女、あんたにはあんなこと言ってたけど、ほんとはシューティング・ゲームがすごく苦手なんだよ。避けずに撃つことばっかり考えるみたいで」

 ウィルが呟く。自身は早くやりたそうにしている。

「他のゲームだって、たいていは見てるだけなんだろ」

「まあね。ときどき、後ろからアドヴァイスアデンドをくれるよ。意外に使える」

「でも彼女、ダンスは得意なんだろう?」

「そうだよ。どうして知ってるの?」

 それこそカリナのアドヴァイスでね。ただ、それを言う必要はないだろう。

「動きを見ればね。慣れてきて、リズムに乗ってくれば、うまくいくさ」

「そう簡単に行くのかな。あー、やられたよ。あと一つで10体だったのに、惜しい」

 ということは、また最初からか。ゴーストの数も55に戻る?

 しかし訊いている暇はなく、下の、石のテーブル前へ勝手に移動していた。石板が外れて、床に転がり落ちている。また嵌め直せと。

 マヌエラにちょっとしたアドヴァイスをしておきたかったんだが、どうすればいいのかな。後ろに向かって言えば……おっと、振り返っても観客席が見えないじゃないか。向こうからは見えるのに。マジック・ミラーワンウェイ・グラスで置いてあるのかよ。

 いや、これはゲームで、見える見えないはヴァイザーの映像で自由自在なんだった。きっと声も聞こえないだろう。思いっきり大きな声で叫べば、ゲーミング・ルームの中に響いてマヌエラが聞き取ってくれるだろうけど、そこまでするようなことでもない。

 "INCERT A TABLET"、ゲーム・スタート。

 ワンドを手に取って、今度は左端からゴーストを「撃つシュート」。なるほど、相手の数は元に戻っている。柱の傷が全部消えてるのが、不自然でいけないねえ。

 相手の火の玉を避けながら、一列ずつ倒していく。2列、10体倒した。これで一安心。3列目を撃とうとしたが、柱が邪魔になる。斜めに撃とうとしても、玉は真っ直ぐにしか飛んでくれない!

 しばらく柱の陰で待って、そろそろ撃てるようになったかと思い、陰から出て「撃つシュート」、「撃つシュート」、「撃つシュート」……

 3列目を倒した。4列目を撃つ前に、また柱の陰で待機。出ていって「撃つシュート」……しまった!

 出会い頭にやられてしまった。相手は、こっちを見てから撃つんじゃないからな。フットボールで守備ディーのブリッツなら避けられるのに、どうしてこんな遅い火の玉が、しかも真っ直ぐにしか飛んでこないのが、避けられないんだろうか。

 観客席へ自動的に移動した。フィルが「さっきのアドヴァイスアデンドは、彼女に伝えておきましたよ」と言う。

「何か言ってたかい」

「感激してました。『閣下スア・エセレンシアは私のことをよくご覧になっていらっしゃる。ご期待に添えるよう、最善を尽くします』と」

「気合いが入りすぎて、空回りしなきゃいいんだが」

「ですねえ」

「順番はどうでもいいから、とにかく10体倒せ、あとは僕とB.A.で何とかする、とも言っておいたんだけど、聞こえてたかなあ」

 ウィルがぶつぶつと呟きながら、マヌエラのゲームを見ている。彼女、前のステージでは活躍したけど、あれは頭脳戦だったからな。身体を動かすのが優先すると、頭が働かなくなるんだろう。

 しかし、動きのリズムはだいぶよくなったようだ。テニスのように、細かく左右にステップを踏みながら、魔弾を撃っている。当たらないことも多いけど。左右に並んで飛んでくる火の玉は、柱を使ってうまく避けているじゃないか。

「おっと、10体倒したな。これで一安心だ」

「あー、やられた。12体ですね。じゃ、行ってきます」

 ウィルの姿が消えて、マヌエラが現れた。しょんぼりした顔で俺の前に跪き、「閣下スア・エセレンシアの前で無様な負け姿をさらしてしまい……」と謝罪の言葉。

「いや、よくやった。十分だよ。だって、俺と二人でほぼ半分倒しただろ」

「ありがたきお言葉! そうおっしゃっていただけると……」

「旗を持って、B.A.を応援してやりな」

はいスィン閣下スア・エセレンシア!」

 旗竿を取り出し、斜めに倒して旗を掲げる。行進の先頭の旗手のよう。ゲームの間は、アイテム化してあったようだ。というか、獲得したアイテムでもないのに、どうしてそんなことができるんだか。

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