#16:第7日 (15) [Game] 2面目と3面目

 狭い階段を降りて、下のレヴェルへ。どうしてここや通路にゴーストがいないのか、ジュリアーナに訊いてみる。

「私にも判りません。ですが、祈りの間は精気の満ちている場所なので、ゴーストも好むのではないでしょうか」

 うむ。確かにあのゲームでも、弱体化してゴーストは、そこへ戻って回復するものな。

 階段を降りきると、さっきと同じような通路に出た。また1頭、蝶がふらふらと飛んできて、ジュリアーナの手に留まる。そして『ゴーストは“祈りの間”と、その前にいます……』から始まるゲームの説明。さっきとほぼ同じだった。

 これから2面目セカンド・レヴェル。“ミズ”の迷路だろう。先ほどと同じように、石板の欠片――今度はストロベリー――を壁の穴へ入れるのだが。

「その前に、訊きたい。今度はどういうルートを取るのが最適だと思う?」

 ウィルとフィルに訊いてみる。それが判れば、マヌエラも左右対称のルートを取ればいいはずだよな。

「いやあ、ゴーストが左右対称に動いてないから、同じでいいとは思わないけどさ」

 ウィルのアヴァターが、腕を組みながら――どうしてそういうポーズを取る必要があるのか――考える。

 このレヴェルでも俺の担当は、さっきと同じ右下のエリア。右へスタートし、すぐに右へ折れ、クランクを通って下の通路へ。端まで行って、その近くにある珠を取り、右の縦の通路を上がって、途中で左に折れて、祈りの間へ。

「そんな単純でいいのか」

「失敗したら、次にルートを変えればいいよ」

「無駄に1分経つじゃないか」

「相手の位置が見えないんだから、偶然遭遇してミスするのは仕方ないって。だから何分かロスするのは計算のうちだよ」

 ずいぶんと寛容だな。1分でも早くここをクリアしないと優勝できない、と考えないのか。

「最初に蝶は『四つ下のレヴェルの神殿へ行って』って言ったよね。つまりさっきのレヴェルを含むと、全部で5階層だ。なのに、森で見てきた迷路は四つ。石板の破片も四つだ。だから最下層には、このゲームとは全然関係ない、もっと難しい迷路のダンジョンがあるんじゃないかと思う。残り時間を考えると、勝負はそこで決まるね。そりゃ、途中で5分でも10分でも縮めたいけど、初見でミスなしってのはほぼ不可能なんだから」

 なるほど、リアル・タイムはまだあと2時間半ほど残っている。最下層まで30分で降りられても、かなりの時間が余るから、そこからが難しい、本番だ、と考えるのは理解できる。

 ではとにかく、2面目セカンド・レヴェル開始。ストロベリーの石板を嵌めるインサート

「レディー・ゴー!」

 右へ走り出し、すぐ右へ。クランクを通り抜けて、下の通路へ。このタイミングで、ゴーストに遭遇することはあり得ない。センター・ボックスからここへ来るまでに、時間がかかるからだ。なので、珠を取るまでは絶対安心。

 問題は、そこから先。突き当たりを左へ折れ、その先の三叉路で、右を窺う。に長い通路があって、そこにゴーストが見えなければありがたい。

 その通路から祈りの間へ至る最短経路は2通り。最初の十字路で左へ折れて、クランクを通り抜け、その先で2度曲がる。このルートは曲がり角が多い。つまり、先の見通しが利かない。曲がろうとした途端にゴーストが現れてミス、となる可能性がある。心臓に悪い。

 もう一つのルートは、二つ目の十字路で左へ折れる。そこから祈りの間の前までは真っ直ぐ。1回しか曲がらないので見通しが利く。ただ、途中の三叉路や十字路を通り抜けるときに、横からゴーストが飛び出してくることがあるだろう。

 とはいえ、そんなことを怖がっていても仕方ない。第2のルートを取ることにし、縦の通路を前進。曲がる直前、前に赤いゴーストが見えたが、気にせず左へ。

 と、ここで正面から黄のゴースト! ちょうど祈りの間の前辺りにいて、進むのは無理。こちらへ向かってくる。右からはさっきの赤いゴースト。引き返すしかない。

 一つ目の十字路まで戻ると、追いかけてくるのは赤のみ。じゃあ、黄は。ここから第1のルートへ行けるが、そちらに先回りされている可能性が高いな。クランクの途中で遭遇するだろう。なので、また“ワープ・トンネル”を抜ける。

 途中で後ろを振り返ると、赤と黄のゴーストが見えたが、スピードが落ちている。そういえば、あのゲームでもそういう仕様だった。

 トンネルを抜けた先では、第1のルートと左右対称の道を採ることにした。曲がるたびに冷や冷やしたが、ゴーストは遭遇せず、無事、祈りの間に到着。やっぱり俺が最後だった。

「どうやらゴーストはハンニバルを包囲するように動くみたいだね。それとも、ジュリアーナを目指してるのかな」

 ウィルがまた腕を組みながら分析を述べる。たぶん、後者が正解だろう。とはいえ、俺とジュリアーナは常に一体なので、どっちだって同じことだ。

 また階段を降りて、下のレヴェルへ。先の二つとは違って、三叉路に出て来た。3面目サード・レヴェル、“スーパー”の迷路であるはずだが。ウィルが解説する。

「本物のゲームでは、迷路内に“ドア”があって、その近くに“鍵”があるんだ。鍵を取ると近くのドアが開き、通路に入れる」

 ただし、出口のドアも開いていないと、行き止まりになってしまう、という仕様。

 ところが遺跡には、ドアなどなかった。当たり前だ。全部石造りなのだから。ただ、パワーエサペレットの置き場と思われる通路の出入り口だけ、狭くなっていた。ならば、そこにドアがあるだろう。そのドアを開ける鍵は、迷路の四隅に置かれているのではないか。

「ジュリアーナ、蝶に迷路の様子を訊くことはできるかい?」

 ここでも蝶が飛んできて、同じような説明を聞いたのだが、迷路の詳しいことは言ってくれなかった。ジュリアーナは蝶を見つめたままだが、思念波で語りかけているのだろうか。

『通路の壁に、ドアが隠されているところがあります。精霊のたまの置き場を開ける鍵は、神殿の四隅にあります。その他のドアは前を通ると、自動的に開きます。ただし内側からは開きません。通路の中には私たちの仲間が隠れていますので、全てのドアを開けて、解放して下さい……』

 そんな特別ルールがあるなら、先に言えよ。どこにドアがあるのかは憶えきれないから、全ての壁の前を通る必要がありそうだな。

「全てのドアを開けないとクリアできない?」

 ウィルが質問する。ルールの確認は奴に任せておけば心配ない。

『全てのドアを開けてからでないと、祈りの間に入れないのです』

「一度開けたドアは、ゴーストに捕まると、どうなる?」

『その場合は、開いたままです。二度開ける必要はありません』

「となると、誰がどのドアを開けるか、ちゃんと決めておかないといけないね。ただ、今回は上のエリアがセンター・ボックスに近いから、ハンニバルとローナに行ってもらうのがいいと思う。厄介なのは、一番上の通路の、真ん中のドアだね。通路が長いので、挟み撃ちに遭わないように注意しないと」

「横のドアを開けてからなら、逃げ道ができるじゃないか」

 5ブロックもある横長の通路で、上辺の真ん中と、左右の短辺にドアが付いている。

「そうだね。それさえ忘れなきゃ、大丈夫だと思うよ。ただ、上の真ん中のドアを開けるのは、ローナにやってもらおうか」

「お任せを。閣下スア・エセレンシア、ご心配なさいますな。甲冑を着ていても、私は身軽ですから」

 いや、動く速度は心配してないんだけどね。どうせ、コマンド・モードだから。こういうゲームは判断力と反応の速さがポイントだし。

 しかし、まずはドアを開けることを優先してルートを決める。俺は右上へ行く前に、右の中央あたりのドアを全て開けてから珠を取りに行き、祈りの間へ向かう。ローナは左右対称に動き、珠を取った後、上の真ん中のドアを開けに行く手順が加わる。下へ向かうウィルとフィルのルートは、彼らにお任せだ。

「よし、行こうか」

 ここで使う石板の欠片は、メロン。丸が一つだけ彫られていたのは、オレンジではなく実はメロンだったようだ。もちろん、本質的な意味はない。

「レディー・ゴー!」

 右へ走り出す。突き当たりに壁があるが、実はドア。黒い壁が崩れて、中から蝶が舞い出す。右に折れて、すぐ壁に突き当たるが、それもドア。開けながら、左へ。三叉路で右へは行かず、その先の三叉路を左へ行くが、右手の壁が実はドア。

 開くところは見ず、上へ。両側の壁が実はドアで、右へ行くと“ワープ・トンネル”だ。その先の突き当たりが、またドア。右、左と曲がり、真っ直ぐ行くと、その先に青白いランプが光っているように見える。あれが鍵か。しかし取りに行かず、その手前の三叉路を左へ折れる。両側の壁がまたドアで、右には精霊のたまがある。

 その先で、右に折れる。左の壁が、さっき話に出ていた長い通路の横のドア。突き当たりを右へ曲がると、その先に鍵……っと、ゴーストが!

 引き返すしかなくて、たまのある通路の周りをぐるっと回り込み、隅に到着。鍵を取ると、すぐ近くの壁が崩れた。これで俺の担当エリアのドアは、全て開いたはず。

 珠を取りに行く。紫だった。通路を通り抜け、右に折れると祈りの間まで一直線なのだが、そちらから赤いゴーストが。左へ行こうとすると、そちらにもゴースト! 赤と黄の挟み撃ちに遭い、捕まってしまった……

 気が付くと、スタート地点に戻っていた。他の3人が、俺の顔を見ている。

「すまん、ミスした」

「さっき言ったとおり、1回くらいミスするのは仕方ないよ。ドアは全部開けた?」

「ああ」

「ところが蝶が言うには、もう一度鍵を取ってからでないと、珠が取れないんだとさ」

 そんな話をいつ聞いた。ああ、もしかして1分間気絶してたのは俺だけ? ジュリアーナは気絶しないのか。

「とにかく、クリアするのに一度は隅まで行けと」

「そう。ただ、さっきよりはもう少し近道できるかもね。ドアはどこも開いてるんだし」

「再開には何をすればいんだ」

「石板の欠片が外れてるんで、もう一度嵌めろってさ」

 ジュリアーナが持っていたので、それを受け取って、壁に嵌めるインサート

「レディー・ゴー!」

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