第76話 やばい規模、だが!
彼らは元々は、空に魅せられた者たちの集団だった。
自分の飛空艇をカスタマイズし、そのデザインや性能を見せあって楽しんでいたのだ。そして飛空艇を維持するには資金がいるため、プレイヤーは国家持ちであることが多かった。
だが、AROにおけるパワーゲームが激化してくると、プレイヤーは飛空艇と国家を同時に管理することが難しくなった。
多くのプレイヤーは同盟を結ぶことでそれに対応した。
そうして出来たのが風の騎士団だ。
だが一部のプレイヤーは国を捨て、空で生きることを選んだ。
大鷲空挺団を名乗り、志をともにする者同士で集まって、資金を得るための狩りや生産活動を行うようになったのだ。
だがプレイヤー1人の手で飛空艇を維持するのは困難だ。
空で生きると言いながら、飛空艇を動かすための燃料や魔石を買うことができず、何ヶ月も空に出られないこともザラであった。
そこで飛空艇のオーナー達は、協力者を募るようになった。
他の同盟に所属する領主と契約を結んだり、飛空艇のクルーになってくれるプレイヤーとNPCを集めるようになったのだ。
やがて代表者が選出され、同盟と似たような性質をもつ集団へと発展していく。
当初の大鷲空挺団は、自由な気質を持つ集団であった。
何となく集まってはレイドモンスターの討伐に向かったり、各々が、好きな時に好きなように空を飛び回った。
懐事情は相変わらず寂しかったが、彼らの心の中には、常に自由の二文字があったのだ。
だが、ある出来事をきっかけに風向きが変わる。
当時勢力を伸ばしつつ合ったBS同盟が、とある浮島の攻略に失敗する。
入国料の9999億9999万9999アルスを手に入れたその浮島の首領は、大鷲空挺団に近づいて自らがファウンダーになることを申し出たのだ。
それが現代表のダグラス・プルンプリンである。
資金に困らなくなった大鷲空挺団は、急速に規模を拡大していく。
人が増えれば収入も増え、活動範囲が広がることで知名度も増していった。
国持ちのプレイヤーが国を捨てて参加することも多くなり、出資額に応じて地位と権限をふりわけるシステムが確立されてからは、金がものを言う社会になった。
入国料を掠め取られたことを根に持つBS同盟に度々襲撃を受けたが、その足の速さを生かして逃げ延び、時には逆に、相手の資産を奪うことすらあった。
また襲撃を受ける毎に武装化が進み、ますます好戦的な集団になっていった。
他の同盟に加わろうとする新規プレイヤーを敵とみなすようになり、徹底した略奪を行うまでになった。
当初の自由気ままな空気は薄れてゆき、その統治体制は、徐々に専制の色合いを濃くしていく。その変化を嫌ったプレイヤーが離脱していったため、ますます空賊化が加速していった――。
――バババババババババ!
一際大きい、白く塗装された飛空艇を先頭にして、空挺団が侵入してくる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ジャスコール王国
総資産 : 1兆1147億2938万4868
(↑9999億9999万9999)
NPC : 3012→4809
プレイヤー: 4→1252
計 : 3016→6061
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「キターー!?」
一気に3045人も侵入してきたー!
飛空艇1隻あたり、100人以上の人員を乗せているようだ。
「これは流石にヤバいのでは!?」
「すげえ規模だな!」
飛空艇の側面には、ずらりと砲門が並んでいる。
あれによる集中砲火を受けたら、流石のオトハ迷宮もどうなるかわからない。
山ひとつくらい消し飛ばしてしまいそうだ。
どうする……!
迷宮の一番深いところに立て籠って、何とか耐えるしかないのだろうか……。
「オトハ様!」
「サーシャ!?」
巨大な侵略者の来訪を知った村人たちが集まってきた。HPを回復させていた血気盛んな人達も、青ざめた表情で迫りくる船団を見上げている。
「わたくし達、どうなってしまうのです!?」
「どうもこうもないね、圧倒的な武力を誇示して、一方的な要求をしてくるんだろうよ……。あたしらに与えられた選択肢は、イエスかノーだ!」
「ルナさま! 大抵の選択肢は『はい』か『いいえ』ですわ!」
「…………」
どっちを選んでもロクでもないというパターンかな?
さあどうする!
ジャスコール王国始まって以来のピンチだ!
――あーあー、聞こえるかー! ジャスコール王国の民、そしてオトハ・キミーノ公爵令嬢! いや、今は国王か?
拡声器を通して響いてきたのは、シブめのダンディーボイスであった。
声の主は、白い旗艦の舳先に立ってるガタイの良いオッサン。丈夫そうな白い上下のつなぎを着て、猛禽類の羽で作られたマントを羽織っている。
短めの髪とあご髭もまた、猛禽を思わせる明るいブラウンで、いかにもヤンキー親父な風貌である。
顔の上半分は白マスクで覆われていて、その表情は良くわからないが、恐らくは自信満々な感じなのではと思われる。
何はともあれ、話をしなければ……。
俺は一歩前に出て、できるだけ大きな声で名乗りをあげた。
「俺がこの国の国王、オトハ・キミーノだ! あんたが噂のプッチンプリンか!」
プロペラの音がバラバラとうるさいけど、聞こえるかな?
――誰がプッチンプリンだ! あのような量産品と一緒にするな! 俺の名前はダグラス・プルンプリン! 専門店のこだわりプリンしか食わん性分だ!
「そ、そうですか……」
そんなこだわりのある名前だったとはつゆ知らず……。
――俺の名を知っているからにはわかるだろう! 無条件で降伏するが良い! その後は、素敵な空の生活がお前たちを待っているぞ! あと、プリンは食い放題だ!
「むむむ!?」
それは魅力的だ!
俺は思わずゴックンする。
「な、何か裏がありそうですわ……! ごくり……」
サーシャもまた気色ばんで言う。
領民のみんなが、こちらに目を向ける。
俺がなんて答えるのか注目しているのだ。
「素敵な空の生活って何なんですか!」
ぶっちゃけ、ちょっと惹かれるものがあったので素直に聞いてみた。
何となく思うのだが、ここはゲームの世界なんだし、金と腕力に物を言わせるだけでは、あそこまで集団を大きく出来ないと思うのだ……やはりプリンか。
――はははー! 空はいいぞ! なんたって自由だからな! 俺達はいつでも好きな所に行って好きなことができる! あとプリンな!
「ぐぬぬ……! じゅるり! 具体的に何をするんだよ!?」
プリン以外でな!
――食いたいものを食う! 狩りたい獲物を狩る! スピード違反を気にせずに飛び回る! 何でもありだ! 楽しいぞ!
た、確かに楽しそうだが……。
でも結局は、プリンさんの鶴の一声で全部決まるのだろう。
それは果たして、本当の自由と言えるのだろうか……。
「べべべ、別に飛空艇じゃなくても出来るんじゃないか!? 少なくとも俺は今の生活に満足しているぞ! 腕利きの料理人さんだっている! プリンだっていつでも作ってもらえるぞ!」
――ははは! そうか! だが、すでに侵略を受けているだろう! 見たところ、お前はネカマで竜人も抱えていないようだ。竜人同盟のようなヌルい環境にも身を置けぬのだろう! いずれどこかの同盟の下に与するしかないのだ! ならばこの俺の下につくほうが、よっぽど楽しい思いをさせてやれると断言できる! なんたって、アルサーディアで最高のプリン職人は、この俺のお抱えだからな!
――な、なにー!?
――そうなのか……!
はっ、みんなが動揺している!
空賊のくせしてお菓子で釣ってくるとは、エゲツねえことしてきやがる!
ぶっちゃけ、俺の気持ちまで少し揺れた……。
だがしかーし!
「悪いがお断りだ!」
――なにい!?
俺はきっぱり断った。
正直、ちびりそうではあったが断った!
「俺には俺の、やりたいことがあるからな!」
そして金塊を握った拳を、自分の胸にあてる。
「せっかく、みんなとの白金の絆を得たんだ! プリンも悪くはないけれど! こんなところでゲームオーバしちまうのは、あまりにもつまらなすぎるぜ! そうだろう! みんな! プリンなんていつでも食える!」
――ウオオオオオー!
――ソウダッタアアアー!
――俺達の力ああああ!
――俺達の誇りいいい!
――見せつけてやるぞーー!
――やってやるううう!!
「そうだぜみんな!」
敵は強ければ強いほど燃える!
みんなのハートに火がついた!
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