第30話 おお、友よ


 次の日も朝4時に起きてクマ狩りをし、ついでにリアルで朝ランしてみた。


「はぁ……はぁ……」


 昔、部活でよく走った河原の堤防を走る。

 リアルはゲームの中と違って息が切れる。しばらく走っていなかったから、かなりなまっているな……。


「ぜぇ……ぜぇ……」


 リアルは不便だと考えずにはいられない。

 3キロばかし走っただけで、足がへたってきている。


(やっぱり、何か部活やっておけば良かったか……)


 だが高校2年にもなってはもう遅い。

 俺はちょっとした後悔を感じつつも、残りの道のりを駆け抜けた。


 俺は中学の時、吉田と一緒にサッカー部に所属していた。

 あの頃の吉田はまだ色ボケてはおらず、純粋にプロ選手にあこがれるサッカー少年だった。

 俺はその体格を活かしてキーパーをやってみてはと薦められ、何となくその流れでキーパーになった。


 だが俺は、はっきり言って不器用だ。

 リフティングなんかどう頑張っても3〜4回しかできなかった。

 足回りの技術が心もとないので、キーパーとしての活躍はあまりできなかった。


 ただ、PKだけは誰よりも得意だった。

 そもそもの体格とバネがあったというのもあるが、どういうわけか俺には、キッカーの考えていることが読めたのだった。


(あいつがあの顔をしている時は、必ず苦手な右方向に蹴る……)


 何となく、そういうのがわかった。

 悪い言い方をすれば、相手の顔色を見るのが得意だったのだ。

 チーム内でのセーブ率は、4割近かったんじゃないだろうか。


 しかしながら、PK用キーパーが活躍する機会なんて、プロの世界でもそうそう無い。俺は結局、2年の終わりまでサッカー部に所属して、一度も試合に出ることは無かった。そして進級にあたり、受験勉強を理由に部活を辞めた。


 そんな経緯があるからか、部活には殆ど興味がなかったのだが……。


(オンラインゲームって、なんか部活動みたいじゃん……?)


 吉田がログインしたら、いよいよそんな感じになるだろう。

 どんなに頑張っても、リアル体が鍛えられないのが玉に瑕だが……。



 * * *



「はあー!?」


 その日の夜、俺は屋敷の庭で叫んでいた。


「とーすんだよ! もうかなりゲーム進めちまったぞ!」


 吉田がバイト先で、フツーに彼女作りやがったという話を聞いていたのだ。


『公野! マジすまーん!』


 すまんじゃすまん!

 本当にどーするんだよ!

 今更、公爵領のみんなを見捨ててゲームオーバーしろってーのか!?


「ぐ、ぐぬぬ……」


 ひとまず通話をブッチする俺。

 吉田に出会いの機会を設けてやるという、当初の目的を完全に失ってしまった。

 まるで地の底に穴があいたかのような虚脱感が、俺を襲った。


「む、むう……ひとまず婚約破棄は終わらせるか……」


 ただそれだけを心の支えに、俺は屋敷へと戻っていった。

 そして、一族用のダイニングの食卓につき、揺れる暖炉の炎をながめながらボンヤリとした。


「あら、こんな所で珍しいですね、オトハ様」

「あ、うん……」


 そこへ、キッチンで作業をしていたサーシャが通り掛かる。

 そういやチュートリアル以来、ここを利用していなかったな。


「どうかなさいましたか? 顔色が優れませんが……」

「まあちょっと、リアルで……」


 うおっ、ついメタいことを言ってしまう。

 メタな話は後ろメタい……なんちゃって。


「わたくしで良ければ、相談にのりますが……」

「えっ?」


 なんか、そういう発想は不思議となかったな。

 リアルの悩みをNPCに相談する。

 このゲームは、それをしようと思えば確かに可能だ……。


 しかし。


「いいや、大したことじゃないから……」

「そうですか?」

「それよりも、せっかくだから紅茶を淹れて頂けるかしら? おほほ……」


 特にこれと言った理由はないのだが、俺はサーシャの親切な申し出を断ってしまった。

 やんわりとしたお嬢様口調でごまかしながら。



――数分後。



「ふう……」


 改めて思うぜ、紅茶ってこんなに美味しいものなんだな。

 筋肉にはならないだろうけど、たまにこうして落ち着くのも悪くないな……。


(そうか吉田……願いが叶ったか)


 それ自体は、友として喜ぶべきなのだろう。

 だが、何故こうにも釈然としないのか。


 胸の奥がムカムカとイラつくのか……。


(思えば、長い付き合いだった……)


 小学校に入学した時、隣の席になったのがきっかけだった。

 良く教科書を忘れてきて、貸してやったっけ。

 宿題なんてまったくやらないから、休み時間とかに丸写しさせてやった。

 でも何度もバレて、2人で一緒に怒られたっけ。


 牛乳が苦手で、あいつの分はいつも俺が飲んでいた。

 だからこんなに背が伸びてしまったんだろうな。

 その代わりにあいつは伸びなかったが。

 人参もピーマンもたまねぎもダメで、とにかく好き嫌いの激しいやつだった。


 俺はとーちゃんの影響でオタク趣味にハマり、一時は周囲に気味悪がられたこともある。

 ゲームもアニメも、今は一般的な趣味の一つだが、とーちゃんのコレクションの多くは90年代とか80年代とかの古いものだ。

 そんなコアなものにハマっては、同年代には変に思われるだろう。

 だが吉田だけは違った。基本的に能天気ではあるが、ある意味では懐の深いやつだったのだ。


 家で2人、マリカーで遊んだりもした。

 ロケットスタートだけは、何回教えても覚えなかったけどな……。


「むむ……」


 なんでこんなに、胸がムカムカするんだぜ。

 あいつは古い良き腐れ縁の友。

 それに彼女が出来たってんだから、ここは祝ってやるべきだろう。


 なのにどうして俺は「どーすんだよ!」って叫んじまったんだろう。


「……システムコール・アプリ」


 俺はゲームに組み込んでおいた通話アプリを立ち上げると、着信履歴を表示させた。

 そして一言「よかったな」と伝えるために、通話ボタンに指を置くが……。


「うむむむ……」


 不思議と、踏ん切りがつかないのだった。

 何故だ、何故なんだ。

 どうしてこんなにも、心がうずく……。


「……まあいいか」


 明日になれば、嫌でも顔を合わせるしな……。


 俺は通話アプリを切ると、お嬢様っぽく手を鳴らして使用人を呼んだ。


「だれかぁ」

「はい、お嬢様」

「……(シュタ!)」


 やっぱりというか何というか、常に側にいてくれるのはこの2人だ……。


「狩りに行きますわ!」

「承知いたしました」

「……(こくり)」


 この後メチャクチャ熊狩った。


 以下、この日のリザルト!



【資金 2329万6706 (-55万3000)】

【領内格闘力  70→77ベアー】


 クマ肉×50 毛皮(大)×60



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名前 オトハ・キミーノ

身分 公爵令嬢

職業 戦士

年齢 17

経験値 14591


【HP175→180】【MP 70】


【腕力 49→55】【魔力  20】 

【体幹力37→40】【精神力 45】

【脚力 41→45】


【身長 175】 【体重 62】


耐性   恐怖C 刺突D 打撃D

特殊能力 経営適正D 回復魔法D 宝石鑑定D 闇魔法D 受け流しC

スキル 猛ダッシュ 生産(宝飾)D 吠える スタンハウリング 掘る シールドスタン ナックルパリィ ドゥーム・ストライク

称号 拳豪 ゴブリン・スレイヤー 不屈の闘魂


装備


 淑女のドレス

 革のブーツ

 宝石バッタ


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