第5話

「いつでもいいぞ。俺と契約を交わしたくなったら、すぐに呼んでくれ」


「ホントにさぁ、ふざけんなよ、お前」


立ち去ろうとした俺を、涼介はくるりと振り返った。


「何が目的だ。アラブの大富豪の第三婦人の息子とか、分かりやすいキャラ設定で来やがって。こんな金ばらまいて、イヤミかよ」


涼介の足は、悪魔の呪いのかかった紙幣を踏みつけた。


「俺をおもちゃにして遊ぶくらいなら、他所でやれって言ってんだよ。アホか」


「嘘じゃない、本当だ。俺はお前をおもちゃにしようとか思ってないし、俺だって遊びで来てるわけじゃない」


「なら、なんで俺なんだ。まずはそこから説明しろ」


俺はぐっと口をつぐんだ。


理由は簡単だが、それを涼介に正直に伝えることが、いいのか悪いのかが判断できない。


涼介は足元に散らばる札束を蹴り上げた。


「どこの大富豪のお坊ちゃんだかなんだか知らねぇが、中二病ごっこなら、他でやれって言ってんだよ。これ以上俺にまとわりついたら、本気で殴るぞ」


涼介の手が伸び、俺の胸ぐらをつかむ。


俺は生まれて初めての経験に、どうしていいのか分からなくなる。


「あ、頭に、矢が刺さっているからだ」


「は?」


「お前の頭に、俺の課題対象となる人間を示す、金の矢が刺さってるんだ」


涼介は自分の頭を両手でまさぐった。


そんなことで、その矢が抜けるはずもない。


「どこに」


「人間には見えない」


涼介は、盛大なため息をついた。


「どうせなら、もう少しマシなウソつけよ」


「だから、ウソじゃないって、本当だ」


「つーか、課題対象って何だよ」


涼介の全く俺の話しを信用していない、疑り深く薄く開いた目は、俺を観察する。


「じゃあ言うけど、お前は今、呪いを俺にかけたんだろ?」


「かけた」


「そうか。じゃあ俺がここから自分ちに帰るまでに、一回でも転んだら……、いや、角を曲がる度につまずいたら、お前が悪魔だって信じてやる」


は? なんだよそれ!


「お、俺の呪いのレベルは、そんなもんじゃないんだって!」


「へー」


全く信用していない目つきだ。


人間が角を曲がる度につまずく呪い? 


そんなもん、知るか。

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