第2話

「山手台高校2年A組、樋口涼介か」


「勝手に人の物を見るな!」


「悪魔にそんな倫理観を求める方が、間違っているとは思わないか?」


俺は能力を使って、部屋中をひっくり返した。


漫画雑誌に参考書、性癖も趣味も、特に変わったことはない、ごくごく普通の平凡な男子高校生だ。


楽勝だな。


涼介は一瞬にして散らかされた部屋を見て、慌てたようだった。


「やめろ! どうしてそんなことをするんだ!」


「じゃあ、それにサインしてもらおうか」


俺は、机に置かれた契約書をもう一度指差した。


「お前は俺と契約し、何でも望みを叶えてもらう。俺はお前が死んだら、魂をもらう」


「魂をもらう?」


「そうだ」


「なんだよそれ、俺はもうすぐ、死ぬってこと?」


「いや、寿命に関する情報は、重要な個人情報にあたるので、いくら悪魔といえども、そう簡単には手に入らない」


「悪魔、個人情報」


「天界の奴らが管理してる。その情報が流出すれば、もうすぐ死ぬと分かってる奴を洗い出せるからな。手早く簡単に魂集めができるんだ」


「魂集め」


涼介は視線を契約書に戻した。


「悪い話しではないだろう。俺と契約を交わしたところで、お前は何の不自由もなく生活できる。いつ来るか分からない命日まで、全てが思い通りだ。なんなら、寿命だって半年くらいなら伸ばすこともできる」


涼介はため息をついて、腕組みした。


「お前、頭おかしいんじゃないか? どこぶつけた」


「おかしくはない。あまり慣れたような口をきくな」


「ひとんちにいきなり入ってきて、それはないだろう」


涼介の態度に、俺は口をつぐんだ。


魔界では俺に対して、こんな口のきき方をするような奴はいない。


「靴。まず靴を脱げ」


そう言われたので、素直に靴を脱ぐ。


「これはどうしたらいいんだ?」


「外に置く!」


俺は脱いだ靴を、二階の窓から屋根の上に置いた。


「これでいいのか? じゃ、契約してくれ」


「やだね」


立ち上がってみたら、結構背が高い。


しまった。


もうちょっと俺の身長を、高めに設定しておけばよかった。

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