121話 すごろく大会④

 目を覚ました時、私はしっかりと服を着た状態で先輩たちに取り囲まれていた。

 壁の時計に目をやると、最後に時間を確認してから三十分ほど経っている。

 それにしても、本当にすごかった。

 軽く思い出しただけでも、体が疼いてしまう。


「お待たせしました。リビングに戻って再開しましょう」


 ゆっくりと起き上がり、その場で屈伸をして体をほぐす。


「うふふ❤ そんなに待ってないから大丈夫よ❤」


「寝顔を見たりこっそりキスしたりして楽しんでたから、あっという間だったよね~」


「しゃ、写真も、ちゃんと、残してある」


「ずぶ濡れになったバスタオルも堪能させてもらったわ」


 腰を上げた先輩たちの口から、驚きの事実が告げられた。

 気絶してたから記憶はないけど、言われてみればところどころに感触が残っている。

 写真は後で送ってもらおう。




 リビングに戻り、飲み物のおかわりを用意してから、ゲームを再開。

 アリス先輩がサイコロを振り、3を出す。

『スクワット100回(できるとこまで!)』という、誰が書いたか一目瞭然なお題だった。

 ちなみに、準備中に見た腕立て100回はゴール付近のマスだ。


「そこに書いてあるけど、無理せずできる回数でいいからね~」


「わ、分かった」


 みんなに見守られながら懸命にスクワットを行うアリス先輩。

 記録は残念ながら一桁だったものの、己の限界に挑もうと頑張る姿に一同が感動を覚えた。


「よーしっ、6出すぞ~!」


 元気いっぱいにサイコロを振り、出た目は5。

 6ではないけど大きい数字であることには変わりな――


「って5!?」


 私はイスから転げ落ちそうになりながら、食い入るようにサイコロを凝視する。

 小さな丸が五つある。どこからどう見ても、天地がひっくり返るような事態になろうとも、これは5だ。

 つまり、姫歌先輩と同じ『ランダム』のマスに止まってしまう。


「やった~っ、6よりいいじゃん! どんなお題が出るかな~」


 無邪気な子どものように、見るからに楽し気な様子でお題箱から一枚取り出した。

 折り畳まれたメモ用紙を開き、内容を公開するべく葵先輩が口を開く。


「えっと、『みんなで悠理の●●●と●●を舌と指で●●●●』だって! また和室に行った方がよさそうだね!」


「そっ、そんなのもあるんですかっ!?」


「あらあら❤ わたしが書いたお題だわ❤」


「な、なんて凄まじいお題を……」


 戦慄する私は先ほどと同じく先輩たちに和室へ連れて行かれ、快楽の頂に何度も至らされた。

 文字通り足腰が立たない状態になり、少し休憩してから和室を離れる。

 しっかりと水分補給をして、ついでにプリンとバナナを食べてエネルギーを蓄えてからゲームに臨む。

 真里亜先輩が6を出し、お題は『最近興奮した出来事を言う』だった。


「そんなの、ついさっき起きた出来事に決まってるじゃない」


 あっけらかんとした様子で告げられた言葉に、みんなが深く納得する。

 先輩たちに興奮してもらえたことが嬉しくて、私の表情がだらしなく緩む。

 こうして一巡目が終了し、私に二度目の手番が回ってきた。

 大いに盛り上がりながら着実にコマを進めていき、ランダム性の強いゲームであるにもかかわらず順位に明確な差が生じない。

 接戦はゴールに近付いてもなお続き、誰が勝ってもおかしくない展開が繰り広げられた。




 手に汗握る戦いを制して優勝を飾ったのは――この私、露原悠理!

 完全な運勝負とはいえ、この嬉しさは筆舌に尽くしがたい。

『ランダム』のマスはそれなりに多く、一度止まったマスが封じられるわけでもないので、お題箱の中にはメモ用紙が一枚も残らなかった。


「おめでとう❤ 優勝賞品として、好きなお願いを言っていいわよ❤」


「世界征服とかは無理だけど、あーしたちにできることならなんでもいいよ~!」


「え、遠慮せず、な、なんでも、言って」


「どんなことでも、あたしたちは喜んで受け入れるわ」


 拍手と共に発せられた先輩たちの言葉を聞いて、私はすぐさまお願いを決めた。


「それじゃあ、『ランダム』のマスで出たお題の内容、先輩たちも受けてください」


 ニッコリと微笑みながらそう告げると、四人の表情が凍り付く。

 先輩たちにしてもらったことを、今度は私が先輩たちにする。

 単純に考えて、所要時間は四倍以上だ。


「ふふっ。今夜は寝かせませんよ♪」


 動揺を隠せない先輩たちに向けて、私は自分でも驚くほど嬉しそうに言い放った。

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