68話 胸に手を当てれば①

 姫歌先輩の周りに、みんなが集まっている。

 もともと席が隣の葵先輩、その反対側に立つアリス先輩、背後には真里亜先輩。

 私は自分の席に座ったまま、すぐそばで繰り広げられている先輩同士のやり取りを眺める。


「姫歌のおっぱいってほんとに大きいよね。いろいろ大変なのは分かるけど、羨ましいな~」


 葵先輩が姫歌先輩の右胸に手を伸ばし、下から持ち上げるようにして触った。

 女子校において稀に見られるスキンシップに、私は内心で大いに興奮する。


「ご、五分の一でいいから、わ、分けてほしい」


 アリス先輩は左側から、自分の頭よりも大きな乳房を撫でる。


「あたしもそれなりに自信あるんだけど、姫歌には勝てないわね」


 姫歌先輩に次ぐ巨乳を有する真里亜先輩が、自分の胸を軽く揉みながらつぶやく。

 まさに眼福。四人の様子を間近で拝める幸せを噛み締め、後で脳内再生できるようにしっかりと目に焼き付ける。

 ただ、私も創作部の一員であり、四人とは恋人関係にある。

 傍観に徹するのもどうかと思い、さりげなく手を伸ばす。

 そして、指先が乳房に軽く触れた瞬間――


「ひぁあぁぁんっっっ❤」


 姫歌先輩は嬌声を部室に響かせながら、体をビクンッと震わせた。

 私は反射的に手を引っ込め、なにかやってしまったかと不安に駆られる。


「ご、ごめんなさいっ」


「わ、わたしの方こそ、驚かせてごめんなさい❤ 不意打ちだったから、刺激が強かったみたいねぇ❤」


 頬が赤く、息が少し熱っぽい。先ほどの反応が演技ではないと、姫歌先輩の様子が物語っている。


「でも、葵先輩たちも不意打ちでしたよね?」


「あははっ、悠理とあーしたちを一緒にしちゃダメだよ~。恋人にいきなり触られるのって、信じられないぐらい気持ちいいもん」


 もちろん個人差はあるだろうけど、葵先輩の言葉にはこの上ない説得力を感じた。

 私もクラスメイトに遊び感覚で胸を触られたときはなにも感じないのに、部室で先輩たちに同じ場所を触られれば電流にも似た快感が走る。

 日常茶飯事に胸を触ってくる葵先輩に対しても、あらかじめ心の準備をしていなければ理性の崩壊は免れない。


「目隠しをしていても、誰が触ったか当てられるかもしれないわね」


「た、確かに、そうかも」


 真里亜先輩の言葉に、アリス先輩がうんうんとうなずく。


「あらあら❤ 面白そうだから、一度試してみようかしらぁ❤」


 本人も乗り気になったことで、誰が胸を触ったのかを当てるゲームが始まった。

 こういう突発的なイベントには、毎回ワクワクさせられる。

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