第18話 エリキ茸と新たな仲間

「ありがとうございます助かりました」


 フォレストスパイダーの繭には、フォルディスが言ったように他にも人間が捕まっていた。

 一人は若い女の人。

 もう一人は小さな女の子だった。

 年の頃はミューリよりは少し年上程度だろう。


「お嬢様を助けていただいて本当に感謝します」


 女性はエイドリーと名乗り、女の子の付き人だという。

 その女の子の名前はミグ=サワーズ。

 かなりの名家の娘なのだそうで、たしかに身につけている服もひと目で高級品とわかる代物だ。


 彼女たちは別の町に向かう途中、街道の脇で休憩しているところをフォレストスパイダーに襲われたのだという。

 もちろん彼女たち以外にも何人もの護衛はついていたものの、あの巨大なフォレストスパイダーの前ではあっという間に倒されてしまったのだそうで。

 その人たちは多分もう……。


「それにしてもディアナさんの使い魔は本当にお強いのですね」


 エイドリーが伏せ状態のフォルディスを見ながらそう口にする。

 

「触ってもいい? 触ってもいい?」


 ミグが、フォルディスの顔をじっと見つめながらそうディアナに尋ねる。


「いいよねフォル。ミグちゃん、どうぞ」

「わーい」

「かまわんが、鼻の先はくすぐったいから止めろ」


 フォルディスはディアナとミグに顔をペタペタ触られてうっとうしそうな声を上げていた。

 どうやらミグという少女は、かなり物怖じしない性格のようで、まるでディアナが二人に増えたようだなとアシュリーはそれを眺めつつ思っている。


「それで貴方たちはこれからどうするんだ?」

「なんとかサワーズ家のあるタスパの町まで帰らねばなりませんが、荷物も全て失ってしまいましたのでどうすればよいのやら」

「タスパか。だったら私たちと一緒に行かないか? ちょうどこの近くの村での用事を終えたら次はタスパに向かう予定だったんだ」

「そうなんですか! ありがとうございます。フォルディス様とアシュリー様のような強い方々が一緒なら心強いです」


 こうしてディアナ一行に、タスパまでの短い間ではあるが二人の仲間が加わったのである。



     ◆◆◆◆◆◆



「ディアナ姉様」


 フォレストスパイダーの巣からインガス村に帰る途中、フォルディスの背中でミューリがディアナの服の袖を引っ張った。


「どうしたのミューリ?」

「えっとね。村に帰る前に寄って貰いたいところがあるの」


 ミューリが口にしたその場所は、インガス村から少し外れた森の奥にあるという崖だった。

 その切り立った崖の下にミューリは洞穴を見つけたのだという。


「僕ね、エリキ茸のある場所がなんとなくわかるんだ。それでね、エリキ茸を探して歩いてたら――」


 その崖の方からエリキ茸の気配を感じたのだという。

 茸の気配というのは謎だったが、その崖に近づいた時、その正体がわかった。


「むっ、これは」

「どうしたのフォル?」

「この先に何か不可思議な結界のような物を感じる」


 フォルディスが突然崖の手前で立ち止まり、そんなことを言い出したのである。

 しかしディアナにもアシュリーにもフォルディスが行っているような【結界の気配】は一切感じられない。

 だけど一人だけ、そのフォルディスの言葉に同調した者がいた。


「結界というのはわからないけど、エリキ茸の気配がするよ」


 ミューリである。

 どうやらエリキ茸の気配というのは、フォルディスのいう結界の気配と同じ物のようで。


「ふむ。もしかするとそのエリキ茸というのは魔物避けの力があるのでは無いか?」

「魔物避け?」

「たしかインガス村の周辺には魔獣がほとんど居ないと言ってなかったか?」

「たしかに。あんな森の中だというのに、魔獣の被害は無いって」

「それは多分そのエリキ茸のせいだろう」


 フォルディスが言うには、ミューリの言う【気配】は魔獣からするとあまり気持ちの良いものでは無いらしい。

 なので、エリキ茸が生えている近くには魔獣はあまり寄りつきたがらないのでは無いかというのだ。


「フォレストスパイダーが村の近くまで狩りに現れたのは、エリキ茸が少なくなって結界が緩んだからってことか」

「そういうことだ。アシュリーは頭の周りが良くて助かる」


 未だに頭の上にはてなマークを浮かべているディアナを横目に、フォルディスがそう呟く。


「我ほどの力を持つ魔獣ならいざ知らず、フォレストスパイダー如きでは近寄ることは躊躇するだろうな」


 フォルディスはそう告げると止めていた足を先へ進める。

 そして歩くことしばし。

 ミューリが言っていた崖にたどり着いた一行が見たのは――


「凄い……この崖一面に生えてるの、全部エリキ茸なの!?」


 上下左右十メルほどの範囲一杯。

 崖の面にびっしりと不思議な七色に輝く茸が生えている風景だった。



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