第66話



「ゴブリン、数は四体ですね」

「……おっ、見えてきた。さすがの探知能力だな。羨ましいぜ!」


 ウォリアさんが声を上げ、斧を持つ。

 ほかの面々もそれぞれの武器を持っている。


「とりあえず、自由に戦闘ってことで、各自一体ずつと戦おうぜ」

「そうね。いきなりみんなで連携って言ってもこれだけの人数だと難しいだろうしね」


 ウォリアさんの言葉にラシンさんが頷く。

 ゴブリンは短剣、剣、斧、槍の四体だ。

 ちょうど、こちらの装備と似たような編成だ。


「どうしますか? 武器に合わせて戦いますか? それとも、ある程度有利に立ち回りますか?」

「ゴブリン相手よね? あたしは槍持ったゴブリンとやっても負けるつもりはないわよ」


 と、勝気にラシンさんが微笑む。

 すると、ウォリアさんも負けじと拳を固めた。


「オレも問題ないぜ! シイフはどうする!?」

「僕も大丈夫だよ。似たようなゴブリンなら何度も倒しているしね」

「よしっ。そんじゃレリウスはどうだ!?」

「大丈夫です、任せてください」


 俺は剣の柄へと手を向ける。

 ウォリアさんがこくりと頷いたあと、ゴブリンへと視線を向ける。


「そんじゃ、それぞれで戦うってことでっ」


 ウォリアさんが嬉しそうに叫び、それから走り出す。

 続いて、ラシンさん、シイフさんと続き、俺は周囲を警戒してから、遅れて走り出す。


「チユさん。一応俺が周囲の警戒をしていますが、チユさんもお願いします」

「わっ、わかりましたぁ! 頑張ります!」


 ぎゅっと杖を握りなおしたチユさんが、必死に周囲へと視線を向けている。

 まだ、緊張が抜けていない様子だが、彼女もこの依頼を受けられるだけの冒険者だ。

 大丈夫だろう。


 まっさきに突っ込んだラシンさんに、ゴブリンたちが群がりそうになっていた。

 そこへ、ウォリアさんが割り込んで斧を振りぬく。


 斧を持っていたゴブリンがそれを受け止めるが、ウォリアさんはその斧ごと吹き飛ばした。

 すさまじい力だ。

 ウォリアさんが好戦的な笑みとともにそれを追う。


 短剣を持ったゴブリンと剣を持ったゴブリンがウォリアさんへと仕掛けるが、そこにシイフさんが割り込んだ。


 俺も、負けていられない。

 ナイフを剣ゴブリンに向かって投げつける。


 突き刺さったナイフを一瞥したあと、剣先をこちらに向けて、ゴブリンが突っ込んできた。

 これで、それぞれが戦うことができるな。

 俺は周囲を警戒しながら、剣ゴブリンの攻撃をかわしていく。


 振りぬかれる剣はすべてゆっくりに見えた。

 ……この程度なら、問題なくかわせるな。

 すべてかわしきったあと、俺は剣を振りぬく。


 すっと、滑るようにゴブリンの首を斬った。

 ……まったく抵抗がなかったな。

 今使っているこの剣なら、この程度のゴブリンの皮膚など、問題なく切り裂ける。


 ほかの人たちは――まだ苦戦しているようだった。

 ……ちょっと、驚いてしまったが、これが普通のFランク、なのかもしれない。


 今まで、まったく他の冒険者と一緒に戦っていなかったからな……。

 それに、メアさんにしろ、リニアルさんにしろ、ランクの高い冒険者だったからな。


 俺が援護するかどうか迷ったが、今はそれぞれが戦う時間だ。

 よっぽど危険なら協力もしたのだが、そういったこともなかった。


 ウォリアさんは連続で斧をたたきつけ、相手の斧を吹き飛ばし、そのゴブリンを両断する。

 シイフさんは何度もゴブリンの隙をついてダガーを振りぬき、ゴブリンの背後を完全にとって、その首にダガーを突き刺す。


 ラシンさんは槍を振りぬいていく。ゴブリンも同じように攻撃するが、その技はラシンさんのほうが上だった。ゴブリンの腕をとらえ、怯んだその隙に喉を貫いた。


 チユさんはあわあわと周囲を見ていた。

 これで戦闘終了だな。

 周囲に近づいている魔物もいないし、血の臭いに誘われてやってくる、というのもなさそうだ。

 俺が周囲の警戒をしていると、真っ先にウォリアさんが駆け寄ってきた。


「お、おまえ倒すの異常に速くなかったか!?」

「……確かに、みなさんよりは速かったですが――」

「鍛冶師、なんだよな? 鍛冶師ってそんなに強かったのか!? オレ、戦闘能力はない職業だって聞いていたんだけど!」

「いえ、そんなことはないですよ。それなりに戦えます」

「それなりっていうか、めっちゃ強かったじゃねぇか! オレ戦士なんだぜ? 戦士の俺よりもずっと強いって!」


 鍛冶師が実際どのようなことができるかまでは、皆知らないだろう。

 だから、ある程度『鍛冶師の能力です』で誤魔化せるはずだ。


 ウォリアさんの言葉に合わせるように、シイフさんも頷いている。

 彼も驚いたようにこちらを見ていた。


「剣の振りが凄い速かったよね……。あれ、僕の目でも追いかけるのがやっとだったよ」

「……そうですか? 鍛冶師って案外戦えるんですよ」

「……案外、どころじゃないよ。あれは」


 槍を背負いなおしていたラシンさんもこちらに見開いた目を向けていた。


「……本当よ。あたし、さっさと倒して手伝った方がいいのかなぁ、なんて思っていたのに…全然そんなことないんだもん。ごめんなさいね、鍛冶師だからって勘違いしていたわ」

「いえ気にしないでください。自分も足を引っ張らないことを証明できてよかったですから」

「ええ。むしろ、あたしたちの中で一番強いんじゃないの?」


 ラシンさんの言葉に、ウォリアさんがむっと頬を膨らませる。


「オレだって負けちゃいないぜ!」

「ウォリアは無駄な動きが多かったよ? もうちょっとコンパクトに動いたほうがいいよ?」

「うっ!」

「そうね。ウォリアは大振りが多いし、斧に体が引っ張られているところがあったわね」

「そ、そんな! おまえたちだって――! いや、オレ周り見てないからわかんねぇ!」


 頭を抱えたウォリアさんが、その後、悔しそうにかきむしった。

 三人で笑ってから、ラシンさんがはぁとため息をついた。


「むしろ、あたしの相方のほうが足引っ張るかもしれないけど、そんときはごめんね」


 ラシンさんはくいっと親指でチユさんを指さす。


「魔物が近づいたらみんなに報告……っ! 魔物が近づいたらみんなに報告……っ!」


 そこでは、杖を持ったまま、今も周囲を必死に警戒しているチユさんがいた。

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