第41話
現状の力を確認するため、俺は迷宮に挑んでいたのだが、まだまだいけるな。
帰還の目安をいくつか定めていた。
戦闘が苦しくなってきた、あるいは疲労などが見えてきた段階で帰ろうと思ったが、戦闘において疲労することはまずなかった。
遠距離から剣を投げつけ、ウェポンブレイク。
それで処理できなくても、毒を食らっているのがほとんど。
近接戦闘でも、日々の鍛錬もあって無難にこなせる。
最悪、走って逃げて、近くの木々を装備してウェポンブレイクを発動すればいい。
攻撃的スキルを手に入れたことで、一気に火力が増したな。
あとは、このスキル構成でどのランクの迷宮まで戦えるかというところだな。
……この街周辺でもっとも難易度が高い迷宮がDランク迷宮だ。
いつかはそこにも挑んでみるのも悪くないかもしれない。
そんなことを考えながら、俺は第九階層を突破し、第十階層へ向かう。
まあ、最悪逃げればいいだろう。
前回戦った相手で、行動パターンもよくわかっている。
俺は毒耐性ポーションを一本飲んでから、第十階層に降りた。
大きな蛇が、こちらを見下ろしていた。
しゅるしゅると、長い舌が何度か出入りする。
蛇の両目がにやりと笑ったように見えた。
……少し湧いた疑問は、魔物の記憶についてだ。
迷宮で死んだ魔物の記憶は、他の魔物に引き継がれるのだろうか?
たぶん今、ポイズンスネークは俺が一人で来たから、ラッキーみたいに思ったのではないだろうか?
そんなことを頭の片隅で考えつつ、俺は剣を抜いた。
先制攻撃はポイズンスネークだ。
口から毒液が発射される。
まるで矢のような速度と鋭さだ。
それをかわしながら、投げナイフを投げる。
二本投げて、二本ともがポイズンスネークの体に傷をつけた。
時折、苦しそうな不自然な動きを見せるため、毒状態になっただろう。
あとは、毒耐性ポーションの効果を切らさないように戦えば問題ない。
ポイズンスネークの攻撃を捌くのは今回が初めてだ。
前回は前衛をメアさんに任せ、俺は援護に徹していたからな。
ポイズンスネークは、肉体を使った攻撃を行う際に、事前動作がある。
例えば、体当たりであれば一度体を折りたたむ。
尻尾で殴る場合には、尻尾に遠心力を持たせるように振ってから。
そんな事前行動があるため、見切りやすい。
攻撃範囲は体の大きさに比例しているので、かなり広い。
それでも、事前動作を見てからもかわせるものだ。
かわした後は、隙が生まれる。
俺が戦闘用に作製した剣を投げつける。
その剣に付与されているスキルは透明化とウェポンブレイクだ。
見えない剣が突き刺さり、同時に武器が破壊される。
剣の間近にいたポイズンスネークが痛みを訴えるような悲鳴をあげる。
ポイズンスネークの鱗がぺらぺらと剥がれ落ち、その肉が見えた。
紫色の血を流しながらも、未だ戦意が衰えている様子はなかった。
ポイズンスネークの毒液をかわし、ナイフを投げていく。
何本かマイナス効果のついたナイフもポイズンスネークに突き刺さっていく。
それもあってか、動きは最初に比べ、随分と遅い。
多少、反応が遅れても回避が間にあうほどだった。
それから少ししたときだった。
ポイズンスネークが勢いよく毒霧を吹きだす。
体力がある程度減ったところで見られる動きだ。
前回のメアさんですでに学んでいる。
その毒霧は俺には効かない。……とはいえ、一応状態異常回復ポーションは忍ばせていたが。
霧を吐いている間は、隙だらけだ。
ポイズンスネークの懐に入り、剣を突き刺していく。
刺した傍から新しい剣を造り、ウェポンブレイクを付与したのち、刺す。
合計五本。
一か所に集中して突き立てたそれらのスキルを発動する。
瞬間――耳を覆いたくなるような爆音とともに、すべての剣が爆発した。
ポイズンスネークもそれに巻き込まれ、大きくのけぞった。
まだ動くか?
じっくりと観察していたが、ポイズンスネークはそれ以上動かなかった。
……俺としても、トドメのつもりで放った一撃だったからな。
残った素材を回収しながら、俺は自分の拳を見る。
……思っていたよりもずっと、一人で戦えたな。
ウェポンブレイクを手に入れたことで、今まで足りなかった攻撃力を補えたのが大きすぎる。
この調子なら、もっと上の迷宮だって攻略できるかもしれない。
だからって、焦りは禁物だ。
あくまで慎重に、少しずつ進める必要がある。
それでも……今は成長を喜んでもいいだろう。
ただ、同時に自分の中での疑問が確信にも変わった。
俺はポイズンスネークが倒れていた場所を見る。巨体が倒れた姿を思い出し、自分の勝利を噛みしめたあと、俺は迷宮から出た。
〇
街に戻った俺は、クルアさんと会うために、いつもの店に来ていた。
元々約束をしていたのだ。俺が待っていると、クルアさんが急いだ様子でかけてきた。
「申し訳ありません! 待たせてしまいましたか?」
「大丈夫です。先ほど来たところなので」
「そうだったんですか?」
「はい。今日は少し冒険者としての活動を行っていまして……」
彼女とともに店に入る。
それから、お互い向かい合うように座った。
「冒険者としても活動していたんですか?」
「ええ、まあ」
「……そうだったんですね。けど、鍛冶師って……戦闘ってできるのですか?」
「できますね」
俺が言うと、クルアさんは驚いたようにこちらを見ていた。
やはり、そういう反応になるよな。
少なくとも、俺もその認識だ。
幼いころから、なぜか「鍛冶師だけはハズレ」と聞かされて育っていたからだ。
「あの、クルアさん。いくつか聞きたいことがあるんです」
「なんでしょうか?」
「クルアさんの鍛冶師への認識――世間一般の認識を確認したいんです。教えてもらってもいいですか?」
「……いいんですか?」
「はい」
クルアさんは一度顎に手を当ててから、頷いた。
「レリウスさんのことですから、何か考えがあるんですよね? それでしたら、私が教えられた鍛冶師について伝えますね」
「お願いします」
「……まず、鍛冶師は、武器しか作れないということですかね。それに、作製できる武器は微妙なものばかりだから、神器に劣ると聞きました」
「……そうですよね」
「……そうですね。それに……そもそも、鍛冶師は神から与えられた神器を否定するように武器を作成しますから、神への反逆を意味するというのも聞きますね」
「……確かに、そうですね」
教会が表だって、鍛冶師を嫌っているというのは聞いたことがある。
神を信仰する彼らにとって、神が与えたものを否定するのは悪だからだ。
「あとは……鍛冶師は、武器しか作れず、日用品などは一切作れないというのも気づけば頭に入っていた知識ですね」
……俺も同じだ。
「妙だとは思いませんか?」
「……そうですよね。鍛冶師はこれほど優秀なのに、どうしてそんな言われ方をしてしまったのでしょうか?」
「いえ、それももちろんですが……」
「他に妙な部分があるというのですか?」
「どうして、鍛冶師だけみんなそんなにハズレ職業だと詳しいか、です」
「……!? た、確かに、そうですね……言われるまで考えもしませんでした」
当たりハズレの職業なんて、鍛冶師以外にもある。
俺だって色々と聞いたことはあるが、ぽつぽつと思い浮かぶだけだ。
だが、どうして世の中の人々は鍛冶師だけはハズレと断言できるのか。
最近俺は、それが疑問でならなかった。
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