第16話


 次の日。


 前から思っていたが、基本的に作製不可能なものは生命に関するもの以外はないようだ。

 衣服はもちろん、食料に関しても作製可能であった。


 制限的なものでいえば、レベルがある。

 だが、それにしたって現在かかっている制限はほとんど装備品に関してだった。


 鍛冶師が武器しか作れない人だと広めたのは誰なのだろうか。

 そう思いたくなるほどに、優秀だった。


 自給自足は可能になった。

 あとは、とにかくレベルを上げていくしかないだろう。


 ひとまず俺は、宿内にあった家具を見て回る。

 そして、破損しているものや、傷が増えてきた家具を直していく。

 ベッドや椅子などは、すべて自動回復がついていたが、小物にまではつけていない。


 常に最高の部屋を提供したい。その気持ちとともに、俺は部屋を見ていく。

 ……熟練度稼ぎにもなるしな。


 特に、スキルをつけてからの家具たちは、そこらの高級宿で見るものよりも優秀なものばかりとなっている。


 だからこそ、修理してまわるのは俺にとっては良かった。

 ただ、あんまり熱心にしていると、休日なのになにやっているんだ? と義父に注意されてしまうので、そこだけは気をつける。


 家具の修理が終わったところで、俺は荷物をまとめて宿を出た。

 ここからは、魔物狩りだ。


 どちらかといえば、魔石集め、といったほうが正しいかもしれない。

 すでに、装備品は整っているので魔物狩りは苦ではない。


 ……それにしても、武器が優秀なおかげで随分と魔物狩りは楽だな。

 ただ、武器に負けないくらいの技術も身に着ける必要がある。


 技術面を意識しながら、ゴブリンを倒していく。

 ゴブリンを一定数倒したところで、切り上げる。


 魔石は三十個ほど手に入れた。

 これでようやく、新しいランクの装備品に手がだせるな。


 そう思いながら俺が宿へと戻った。

 宿についたところで、受付にいた義母が俺に気付いたようだ。


「あっ、レリウス。ちょっとあなたにお客さんが来ているわよ?」

「……お客? 誰だ?」


 心当たりはまるでなかった。


「二階の一番奥の部屋に泊まっている人だから、会ってあげて。……あなたにとって、悪い話ではないと思うわよ?」

「……はぁ、わかった」


 一体何だろうか?

 義母が悪戯っぽく微笑んでいるのを背にしながら、俺は階段を上がる。


 一番奥の部屋についたところでノックをする。


「はい、誰でしょうか?」


 女性の声だ。

 ……本当に誰なんだ?


「レリウスです」

「あっ、レリウスさんですか!? 今開けますね!」


 嬉しそうな声とともに出てきたのは一人の女性だ。

 年齢はたぶん俺と同じか、少し上くらいの人だ。


 きっちりとした服装からは、真面目さがうかがえるのだが、少しばかり胸の部分が苦しそうだった。

 お、大きい。思わず視線を向けてしまいそうになるが、失礼に当たる。


 必死に彼女の顔を見つめた。

 女性は俺を見て、少し緊張した様子をみせた。


「は、初めまして! 私はクルアといいます!」

「クルアさん、ですか……えーとそれで何のようですか?」

「私、商人をしていまして……」


 そういって彼女はこちらに商人の証である手形を見せてきた。

 ……偽物、ではないだろう。

 作製可能とか出てくるんじゃない。ハンマーで壊してみたくなるから。


「へぇ……商人、ですか。それをもらうのって結構大変とか聞きましたが」

「そう、ですね。商人ギルドに所属しまして、それから師について回り、師に認められる必要がありますね」

「……なるほど」


 確か職人ギルドも似たような感じだったはずだ。

 師に認められることで、ようやく自分の作りたいものを作製できるようになるとか。


「それで、クルアさん。俺に何の用ですか?」

「あっ、申し訳ありません。……そ、その私はこの宿の評判について耳にしまして……実際に何度かこの宿にも泊まりにきたんです」

「そうだったんですね。それはありがとうございます」

「いえ、そんなことは。……そして、私はこの宿でもっとも優れているのは家具だと思いました」


 ……まあ、確かにかなり評判は良いようで俺としても嬉しい限りではある。

 彼女が俺に会いにきた理由は、そのあたりなのだろうか?

 

 家具を俺が製作しているということは両親くらいしか知らない。

 義母の様子を思いだす。

 

 俺にとってのいい話ということもあったし、俺に関して話したのかもしれない。

 クルアさんはじっとこちらを見てきて、頭をさげた。


「もしよかったらでいいのですが、私と契約してくれませんか?」

「……ですが、俺は別に家具職人ではありませんよ?」

「それは、存じています。ですが、この家の家具は、すべてあなたが手を加えたことで高い評価を得ているのだと、あなたのご両親から伺いました。レリウスさんには、家具職人としての才能があると思ったんです!」

「……」


 なるほどな。俺にとっての悪い話ではないと、商人と組んで家具職人として生計をたてる道がある、ということなんだろう。

 ただ、先程もいったが、俺は職人ギルドにも所属していない身だ。


「あなたが職人ギルドに所属していないことはわかっていますが、そちらに関しては私がどうにかします」

「どうにかするって……どうにかできるものなんですか?」

「はい。職人ギルドと商人ギルドは近い立場ですからね。お互いに助け合っている部分が多いので、十分可能です」


 確かにそんな話を聞いたことがある。

 商人は職人が作ったものを売る立場にある。また商人が素材を集めたり、仕事をとってきたりすることもあるとか。


「レリウスさんの物作りを邪魔するようなことはしませんから……パートナー契約できませんか?」


 パートナー契約ともなれば、商人にとっては非常に重要なはずだ。

 俺の作ったものが売れなければ、彼女の商人としての立場だって危ういものになる。


 彼女の今後の人生も左右するような大事な選択だ。

 そして俺は、オリジナルを作製することはできないということ。

 これは確実に伝えておいたほうがいいだろう。


「両親から聞いていると思いますが、俺はあくまで今ある物からより良い物を作ることしかできません」

「……どういうことでしょうか?」

「そうですね……」


 俺は神器であるハンマーを取り出し、近くにあった椅子を破壊する。

 突然の行動にクルアさんは目を見開いていた。


 彼女が何かをいうより先に、俺はそれらの素材を用いて椅子を作りあげる。

 目をぱちくりとしたクルアさん。


「俺は職業『鍛冶師』なんです。出来ることは、素材を用いてこうして作り上げることだけですから……例えば、オリジナルの一品を作れと言われても俺にはできません。ですから、パートナー契約は――」


 職人は皆、自分だけの物を作れると聞いた。

 一から生み出す彼らと俺では根本的に違う。

 俺が一から作れるのは、武器や防具、アクセサリーだけだからな。


「す、凄すぎますよ! 普通じゃないですよこれは!」


 俺の想像とは違う反応をしたクルアさんであった。


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