不遇職『鍛冶師』だけど最強です ~気づけば何でも作れるようになっていた男ののんびりスローライフ~

木嶋隆太

第1話 

『前書き』


こちらの作品、実は小説家になろうにも連載していまして、その際に人気がでまして、書籍化することになりました。

レーベルはカドカワBOOKS様にて、4月10日に発売します。もしも、気になる方は手にとって頂ければと思います。


↓は小説家になろうの活動報告になりますが、書籍のキャラデザ、表紙絵などが貼られていますので、興味ある方は下から移動してみてください。

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/105954/blogkey/2528876/


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「今日は神託の儀だよ、レリウス」


 そんな声とともに、俺を幼馴染――リンは揺らしてきた。

 軽く目を開けると、可愛らしい女の子がそこにいた。

 

 歳は俺と同じ十五歳だ。少し薄めの赤い髪は、肩のあたりで切りそろえられている。

 そんな彼女はからかう調子でこちらを見ていた。

 まだベッドで眠っていたい俺はリンの言葉を無視するように寝返りを打つ。


「もう少し寝させてくれって」

「もう! 早く行かないと神託の儀が受けられなくなっちゃうよ!」


 別に神託の儀は一日受けられる。だからそんな焦る必要はない。

 それに、みんな今日という日を待っているから、朝から教会は人が多い。


 午後に行く方が、いくらか空いているくらいだ。

 俺が背中を向けると、リンの動きも止まった。

 どうやら諦めたようだ。俺が午後まで眠ろうと思った次の瞬間、ベッドにするするとリンが入ってきた。


「……おい。なんでおまえまで入ってくるんだ」

「だって、レリウスが気持ちよさそうに眠っているもんだから、私も横になってみたくなっちゃって」


 リンが嬉しそうに笑ってぎゅっと抱きついてくる。

 予想外の行動に、俺は少しばかりドキドキとしていた。


 まったく。


「わかったわかったって。もう起きるよ」

「うん、よろしい」


 リンが微笑んでからベッドから立ち上がった。

 俺は服を整え、部屋の鏡で確認する。

 部屋を出て、一階におりる。

 

 リンの姿はもちろんあった。玄関でいつでも出発できるようにと準備をしている。

 リンの父、母が食堂で仕事をしていた。ちらとこちらを見たリンの父が俺に気付いて近づいてきた。


「おう、レリウス。今日はいよいよ神託の儀だな」

「ええ、まあ」

「なんか、いいスキルと神器をもらえたらいいな、レリウス」

「……そうですね。ハズレ、ではないことを祈ります」

「まあまあ。おまえのことは神様もきっと見ているはずだ。大丈夫だぞ」


 とん、と背中を押された。

 俺は一度彼に頷いてから、リンが待つ玄関へと向かった。

 彼女とともに外に出る。

 街はすっかり賑やかだ。


 神託の儀は一年に一度きり。その日、神が暮らしている神界が地上にもっとも近づく。

 そして、神様によって、十五歳を過ぎた子たちに力が与えられる。


 それは神器や、職業といったものだ。

 まず、すべての子に神が生み出した武器である神器が授けられる。

 運が良ければ、さらに職業までも授けられることとなる。


 与えられた力によっては、将来大金持ちにだってなれる。

 隣を歩くリンが俺の方を見てきた。


「レリウスはどんな能力が欲しい?」

「そうだな。最低でも、騎士や剣士とかの戦える職業がいいな。リンはどうだ?」

「戦いかぁ。私はそういうのじゃないほうがいいかなぁ。ほら、うちは宿屋だし、お客様の気持ちがわかる、みたいな能力だったら、今以上に立派な宿屋にできるかもだし!」

「あー、そっか」

「まあでも、レリウスは冒険者になりたかったんだっけ?」

「そう、だな。魔物たちから大切なものを守れる力が欲しいな」

「そう、だよね」


 リンが少し視線を下げてしまった。

 ……悪いことを言ってしまった。

 俺の両親は五年ほど前に魔物に殺されて死んでしまった。


 仲の良かったリンの家に、俺は拾ってもらっていた。

 だからこそ、誰にも迷惑をかけずに生活できるような力が欲しい。


 理想的なのは、神器と職業だ。

 最悪でも神器だけはいいものが欲しいな。

 



 教会は物凄い列になっていた。

 並んでいる子は、俺たちと同い年くらいの子ばかり。


 たまに、少し大きい子もいる。もしかしたら、昨年の神託の儀に参加できなかったのかもしれない。

 その列に並んだ俺たちは、少しずつ教会の入口が近づくのを眺めていた。

 

 俺たちの番が近づいてくる。

 設置された神石も見えて、神託を受けた人々の喜びや悲しみが聞こえる。


「うわー、俺の神器なんかよわそー。それに職業ないし……」

「やった! 俺はファイアーブレイドっていう、百年前に活躍した騎士の人と同じ神器なんだって!」


 ……いいなぁ、と前の人を見ながら思う。

 有名な神器はそれだけで活躍が約束されているようなものだ。


「次の子たち、三名。こちらの神石の前に立ってください」


 教会の人がそういったので、俺とリンは並んで前に出た。

 いい神器と職業が出てほしい。

 ……ずっと眺めていたが、しばらく神器と職業両方が授けられた子はいなかった。


 そろそろ、出てもいいはずだ。

 そんな気持ちで、俺は自分よりも大きな神石に手を向けた。


 すぐに文字が浮かび上がる。

 ワクワクしていた俺だったが、隣が盛り上がっていたのに気を取られる。


「す、凄いぞ!」

「こ、この子の神器と職業は……まさに最強だ!」


 隣はリンだ。

 はっとなってそちらを見る。


「神器、エクスカリバーに、職業『勇者』……!?」


 なんという組み合わせだ。その組み合わせは、神託の儀について一度でも調べたことのある人なら知っているようなものだ。

 かつて、この帝国にいた最強の騎士。彼に並ぶ者は未だに現れないといわれるその人が、この二つの組み合わせを持っていた。


 ……俺がもっともほしい組み合わせでもあった。

 そうだ、俺の神器と職業ももう出ているんだ!


 リンが大当たりなら、きっと俺だって――!

 そんな思いとともに見上げたそこには、最悪の文字があった。


 神器:クリエイトハンマー

 職業:『鍛冶師』


 すべての人が、神様から武器を与えられるこの世界で、最も必要ないとされる職業。

 神器だって、鍛冶師のすべてに与えられるものだった。

 




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