第12話 悲鳴が上がった。
管制塔の中心部、コントロールルームの扉が開いた時、銃を手に構えていたスタッフは、侵入者の姿に恐怖し発砲していた。それが命取りになるとは知らずに。
中佐は少し短めに出した爪を鋭く振った。
銃弾が弾かれ、その場に落ちた。
人間技じゃあない。
その場に居た六人程のスタッフは、急に力が抜けたようにその場に固まった。
侵入者は、手と言わず顔と言わず、既に幾つかボタンを飛ばしていたためにはだけた首筋と言わず、自身以外の血で染まっていた。
そしてその髪の赤が、瞳の金色が、彼を余計に人間以外の者に見せる。
軍人は、軍人という名目を持ってさえいれば、人間相手になら何処までも勇敢になれるのもかもしれない。
残虐になれるのかもしれない。
だが人間以外のものに対して、彼らは免疫というものがなかった。
「コントロールキーをよこせ」
彼はゆっくりと近付いていく。スタッフ達は恐怖で動けない。そして動けないのに、目が離せない自分に気付いていた。
中佐は同じ台詞をもう一度繰り返した。
スタッフは機械のある部分を指した。彼はちら、とそれを確認する。確かにそれはまだ差し込んだままだった。
あ、よせとその時声が飛んだ。
なけなしの勇気、もしくは無謀さがスタッフの一人には残っていたらしい。銃を両手で掴んで、彼めがけて引き金を引いた。
痛い! と固まっていた周囲のスタッフ達が銃弾がかすめていく衝撃に頬を、手を押さえた。
次の瞬間、撃った本人は信じられないものを見た。
確かに、当たったはずだ。いくら後方仕様の銃だって、至近距離で撃てば――― その位の威力は…
だが目の前の者は。
「化け物」
撃ったスタッフは全身から血が引いていくのを他人事のように感じていた。めまいと耳なりが同時にした。
コルネル中佐は、左胸の穴の開いた服に軽く指を突っ込むと、弾丸を取り出し、指で軽く弾いた。それは撃った当人の鼻先に命中した。
そしてそれが何処に命中したのか、確かめるだけの余裕はもはや彼らにはなかった。
*
最後の血溜まりを踏みつけると、彼は管制塔のキーを自動から手動に切り換え、全システムを自分の元に置いた。
てビル内の全ての扉という扉を閉鎖し、その中に睡眠ガスを送り込んだ。それは最初の計画から決まっていた手順だった。
全てのフロアにガスが行き渡ったことを確認すると、彼は通信回路を開き、中間待機の通信士官に向かって言った。
「聞こえるかアイボリー少尉? 作戦は何とかなったから、迎えに来い…」
通信機の向こう側で、ご無事でしたか、と若い少尉の明るい声が聞こえた。
「ついでにカーマインを通って、向こうの放送局に居るだろう連中を引き取ってこい」
はい、と弾んだ声が聞こえる。
セルリアン准将の遺体を見たらこいつはどう思うだろうか?
そう彼の頭をかすめた考えがあったが、それは大して大きくは広がらなかった。
髪から赤い液体がぽとん、と落ちた。ぬらぬらとして生臭い。
最初に浴びた血は、既に服の上に黒く乾いていた。そして一番新しいものは、まだその出所からとろとろと流れ出している。
出所は、自分を化け物と呼んだ。
確かにそうだろう。
彼は思った。こうまでしても、既に自分には全く罪悪感などないのだ。
無論、そんな行為で快感が得られる訳ではない。
かと言ってこれだけの血を浴びながらも、既にそれに関して感じる心は何処かへ行ってしまったかのようだった。
化け物か。
爪をぬぐって、彼はつぶやく。
確かにな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます