底辺ジョブ【清掃師】で人類史上最強~俺はドワーフ娘たちに鍛えられ、超強力な掃除スキルを習得する~
名無し
第一章
清掃師、迫害に耐える
「おい、早くしろよゴミアルファ!」
「は、はい」
リーダーで【弓使い】の逆毛の男ジェイクに尻を蹴られつつ、俺は迷宮山の雪原に横たわった狼のモンスター、スノーウルフの死骸をナイフで解体し、そこら辺に散らばった爪や牙、毛皮等を【収集】する。【清掃師】である俺のこのスキルを使うと、分離してさえいれば望むものを一瞬で手元に集められるんだ。
「ったく、のろのろしやがって!」
「うっ!」
今度は脇腹を蹴られ、痛みと息苦しさのあまりうずくまると笑い声が上がった。
「ねぇねぇアルファ、【清掃師】だっけ? あんたみたいなクソ底辺職の出番なんてモンスターを倒したときくらいなんだから、もっとてきぱきやりなってんだよ!」
「うくっ……す、すみません……」
意地悪そうな目を一層釣り上げた【回復師】の女レイラに平謝りする。
ただ、内心言いたいこともある。早めにモンスターを解体して【収集】スキルを使ったら使ったで、こっそりアイテムをパクったんじゃないかとか、どんなアイテムなのか見えなかったとか因縁をつけられるんだ。
正直理不尽だとは思うが、言い返せるような気力なんてもう俺には残っていなかった。
「ど、どうぞ……」
俺が拾った収集品を、さもつまらなそうに細目で見下ろしていた【鑑定師】の男クエスに渡す。
「まったく……僕に渡すのが遅すぎるよ。バカじゃないの?」
「ごめんなさい……」
「クエス、どうよ」
「クエス、どうだったかい?」
「――んー……ゴミだね」
「「「はぁ……」」」
「……」
ジェイク、レイラ、クエスの溜息が重なるこの瞬間が、俺にはたまらなく嫌だった。まるで完全に俺のせいみたいな空気になるからだ。
「あーあ、ちっくしょう! 水属性のついた牙とか凝魔石とか本当に出るのかよ? ゴミアルファと一緒だとぜんっぜんレアにありつけねえよな」
「多分さ、こいつが疫病神なんだよ」
「僕もそう思う。前回も前々回もモンスターが一か所に溜まりすぎてて撤収するしかなかったし……。いっそ悪運の元凶を追放しちゃったらどうかな?」
「おい、ゴミアルファ、聞いたか。お前のせいだぞ? ちっとは反省してんのか!?」
「は、はい。俺が悪いんです。モンスターが溜まっていたのも、収集品がゴミだったのも、俺が疫病神だからです。でも、次はもっと頑張りますから許してください……」
声が震えるのは、寒さのせいもあるが怖いからだ。もしこのパーティーに捨てられたら、俺は食べていけなくなる……。
「ったく、こいつのせいだと思うとうざいったらありゃしないよ。わかってんならあたいらに土下座くらいしたらどうだい!?」
「うんうん、レイラの言う通り、言葉だけじゃ失礼だよ。ちゃーんと僕たちに誠意を見せてくれないとね」
「くっ……」
俺がひざまずき、頭を冷たい雪に擦りつけると誰かに靴で踏まれるのがわかって涙が零れた。でも……こうするしかないんだ。捨てられたら終わりだから俺が全部悪いってことにしておけばいい。
思い返せば、六年前……十歳のときに天啓を受けて【清掃師】というジョブを授かってから、俺の人生はこうなると決まっていたのかもしれない。
世の中のジョブは大雑把に分けて二つある。一つは没個性のノーマルジョブ、そしてもう一つは個性的なユニークジョブだ。ジェイクたちは前者で俺は後者なわけだが、登山パーティーで需要が高いのは圧倒的に前者のほうなんだ。
何故なら、ノーマルジョブは誰でもイメージしやすい上に役割がはっきりしていて安定性もあり、パーティーでは特に好まれるというわけだ。
一方で俺のようなユニークジョブはというと、化ければ強いらしいが独特なために役割がいまいち理解されず、ほとんどが引け目を感じてソロでやっているためぼっち職として蔑まれ、パーティーを募集しても指を差されて笑われるだけなことが多い。
実際、俺も今のパーティーに拾われるには相当な時間がかかったしな。それでも、こんな不愉快な思いをするくらいなら抜けたほうがいいんじゃないかと言うやつもいるかもしれないが、抜けられないんだ。
それには切実な理由がある。ただのゴミ拾いとして日常を生きようとしてもまず食っていけないし、それだと当然だけど周りから乞食同然の扱いをされてしまう。
以前俺がそれをやっていたとき、心無い者たちからゴミ拾いの家族として親や親戚にゴミを投げられて笑い者にされたのが原因で縁を切られた経緯もあり、なんとか名声が欲しいというのもあるんだ。
俺たちが今いる迷宮山『アバランシェ・ブレード』は、人間族が挑戦できる山の中でも最下層のFクラスだが、それでも登頂すれば登山家として認められ、ゴミ拾いのアルファと呼ばれている俺にとっては汚名返上となり雪辱を果たすことにもなる。
「おい、いつまで土下座してんだ! とっとと立てよゴミアルファ!」
「がっ!?」
激痛がしたかと思うと、髪をジェイクに強く引っ張られて俺は無理矢理立ち上がらされた。笑い声まで上がって心身ともに痛むが、これでいいんだ。
どんなに笑われても、登頂にさえ成功すればその時点で俺は初心者ではなくなるし、そこからはもっとマシなパーティーに拾われる可能性だってある。
耐えろ、耐えるんだ、俺。自分さえ我慢すれば、きっと全て丸く収まる……。
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