【アノニマス】
ランスが斬り掛かるが、明らかに俺と戦っていた時よりも遅い。
(脱皮で体力を消耗したのか?
半蔵のレベルだと本来はドラゴニュートには太刀打ち出来ない筈だけど…。)
ランスが斬り掛かるよりも速く半蔵はランスの背後に回り込む。
「うぜぇ!」
ランスが後ろに剣を振るが空を斬ると同時にランスの肩から血が噴き出す。
半蔵はランスの攻撃をかわしながら反撃していたようだ。
俺は半蔵の動きに違和感を覚えた。
(半蔵ってあんなに強かったか?何かがおかしい…精神支配だけじゃない…!)
「ミストナーヴ!!半蔵に何をした!!」
上空から見下ろすミストナーヴはニヤリと笑った。
「気がついたか…そこの半蔵は今までのお前の部下としての半蔵ではない。
アノニマスの技術を集結して作り出した魔道具によって力を増幅させている。
ちょうど、アインジソンが実験体を欲しがっていたのでな!俺が捕らえた半蔵を使ったのさ!」
「…実験だと?俺の姫を使って…?」
顔が熱くなる。
頭に血が上るのが分かる。
俺の魔力の増幅にランスの動きが止まる。
「おいおい…神威…その魔力は…今までのは本気じゃ無かったのかよ…!」
「ミストナーヴ…貴様は楽に死ねると思うなよ?」
体から魔力が迸る。
「ランス!半蔵を抑えておけよ…悪いがミストナーヴは俺が殺す!!」
ランスは気圧され、頷くしか出来なかった。
「凄いな!これ程とは!だが俺は死ぬつもりは無い。
勿論、半蔵を返す気も無い!」
ミストナーヴはランスを指さした。
「殺れ半蔵!」
半蔵は頷くとランスに向かって駆け出した。
ランスは我に返り半蔵の方を振り向くが半蔵が視界から消える。
「抑えておけよって言われても今の体力じゃキツイだろ!」
死角から死角へ半蔵は移動しランスに傷を負わせて行く。
「多少傷付いても文句は言うなよ!!」
ランスは双剣を腰に差した鞘に仕舞うと防御に徹し傷付きながら何かを詠唱し始めた。
「ミストナーヴ…覚悟はいいか?」
俺は飛行の魔法で宙に飛び上がる。
「覚悟なんて要らないだろ?俺は死なないんだから…!」
ミストナーヴは剣を引き抜くと自分の手首に当てる。
「血の祈り"断罪の鎌"!」
ミストナーヴが手首を斬り、溢れ出る血が大鎌を形作っていく。
「ニアと同じ能力か…って事はお前もヴァンパイアか。」
俺はレーヴァテインを引き抜きミストナーヴを見た。
「ほぉ、俺と同じヴァンパイアを知っているのか…。
ならば分かって居るよな!
人間ごときがヴァンパイアに勝てない事を!」
ミストナーヴは血で出来た大鎌を振り回し構えた。
「ヴァンパイアには人間は勝てないか…。
試してみるか?代償はお前の命になるが。」
俺は怒りを飲み込みミストナーヴを睨んだ。
ランスは防御をしながら詠唱を続けていた。
(…相手の力量も測れないバカが…。
そろそろ準備できたな。)
「…我が意思に応え、敵を捕えよ!"幻竜宮(げんりゅうきゅう)"!」
ランスが手を打ち鳴らし地面に手を着くと半蔵の周りに魔法陣が浮かび上がり、無数のドラゴンが飛び出し半蔵の周りを飛び回る。
半蔵は影移動で逃げようとするが足元からもドラゴンが飛び出し宙に逃げた。
すると無数のドラゴンが溶け合い、半蔵を取り囲む光の玉になった。
中では半蔵が壁に向かい攻撃を仕掛けるが弾かれてしまう。
「ちくしょう…これでいいだろ!神威!」
ランスはその場に大の字に倒れた。
俺はランスと半蔵を流し見てミストナーヴに視線を戻した。
(ランスは上手くやったみたいだな。)
「ミストナーヴ…大層自信があるようだな。
どうだ?俺がお前を一撃で倒せたら半蔵を元に戻してくれないか?
そうすれば命までは取らずにいてやるぞ?」
俺の提案にミストナーヴは笑った。
「一撃で俺を倒す?人間風情がイキがったモノだな…!いいだろう。
お前が俺に一撃でも当てられたら半蔵の洗脳は解いてやるさ!元々俺を気絶させるか殺せば洗脳は解けるが、一撃でも当てられたらでいいさ!」
ミストナーヴは大鎌を振り回し突進してきた。
「当てられるモノならなぁ!!」
「気絶させるでもいいのか…。」
ミストナーヴの大鎌の刃が俺の首筋に掛かる直前に俺は左手でレーヴァテインを振り下ろす。
レーヴァテインはミストナーヴの腕ごと大鎌を切り裂いた。
切り落とされた腕から血が吹き出し返り血が俺に掛かる。
「おまけだ。」
俺は反対の右腕でミストナーヴの顔面を殴りつける。
ミストナーヴはそのまま地面に落下していき、大の字に倒れ込むランスの横に叩きつけられた。
泡を噴き、気を失ったミストナーヴはピクピクと痙攣していた。
俺は地上に降りるとミストナーヴを眺めた。
「これで六芒星なのか?アノニマスって最大の裏組織なんだよな?」
拍子抜けした俺はランスを見た。
「こいつが雑魚なんだよ。
相手の力量を見定められないような…っても俺も似た様な物かぁ…神威の隠してた力に気が付かねぇんだから…。
さぁ…殺せよ!アノニマスの幹部の首だ!2つも持って帰れれば十分だろ!」
ランスは大の字に倒れたまま動けずにいた。
「殺さないよ…ランス、お前はもう六芒星じゃないんだよな?まだアノニマスに残るのか?」
俺はランスの魔法の中で気を失っている半蔵を眺めながらランスに問いかけた。
「さぁな…ボスには切り捨てられたみたいだし、もうアノニマスに居ても意味は無いけどな…ってか俺を殺さない気かよ!?」
ランスは飛び起きようとしたが傷口から血が吹き出しまた倒れ込んだ。
「ちくしょう…強くなりてぇなぁ…。」
ランスは腕で目元を隠す。
「お前はまだ強くなれるよ。
闇に堕ちても、自分を保ててるんだから。
俺が闇に堕ちたら…きっと這い上がれないな…。
そん時は、姫達と協力して俺を止めてくれよ?」
俺はランスに笑いかけた。
「アンタを止められる奴なんか、うちのボスか魔王達くらいなんじゃねぇのかよ…。」
「なら強くなれ。俺を超えて魔王にでもなれよ。
俺は近々、魔王アシエルと戦うつもりだ。
もし倒せたらお前が魔王になればいい。
お前なら魔王でも成れるだろ?」
俺の言葉にランスは目を見開く。
「魔王と戦うだと!?はっ…!アンタ本当、何考えてるんだよ…。」
ランスは驚きながらも笑みを浮かべた。
「魔王達もそうだけどよ…うちのボスにも気を付けろよ。
名前は"メドラウド"、見た目はただの人間の女だ。
だけど、中身は化け物だ…魔力は大した事はねぇ…けど…剣術で右に出る者は居ない…。
本人曰く、光の女神の血を引くらしい。」
(光の女神…って事はアーサーの血を引く?
そんな馬鹿な…。)
「なるほどな…肝に銘じておくよ。」
俺は半蔵の居る球体へ近づく。
俺が触れて無効化スキルを使うと光の玉は弾けて消えた。
「マジかよ…幻竜宮を簡単に消しちまうのかよ…アンタも十分化け物だな!」
ランスが後ろで喚いていたが俺は気にせず半蔵を抱きとめた。
「半蔵…大丈夫か?」
俺が呼び掛けると半蔵はゆっくりと目を開けた。
「隊長殿!?あの…拙者はなぜ故隊長殿に抱えられて居るのでしょうか?」
半蔵は顔を赤らめながら慌てふためく。
「覚えていないのか?…気にするな。
疲れて寝てしまっていただけだ。
ところでランス…。」
俺は空を見上げランスに話かけた。
「何だよ…。」
「あのゴーレムはいつまであの場に飛んでいるんだ?」
ランスはハッとしながら空を見上げた。
「は?なんで落ちてないんだよ…操者の魔力が供給されなくなれば…まさか…ミストナーヴが操者じゃない!?」
ランスは横で気絶しているミストナーヴを見た。
するとゴーレムはゆっくりと地上に降りてきた。
「やべぇな…俺は動けねぇぞ…!」
少しづつ傷が癒えてきてはいるがまだランスは動けないようだ。
俺は溜め息を付きながら半蔵を降ろした。
「あっ…。」
半蔵は少し寂しそうな顔をしながら地面にへたりこんだ。
「操者には聞こえてるんだろ?
お前は誰だ?」
俺は剣の柄に手をかける。
『あー、あー。聞こえるかい?ランス、そして炎帝。
初めましてだな。
俺はアノニマスの頭領メドラウドだ。
うちの部下が世話になったな。
近々、俺の方から挨拶しに行くから待っててくれよな。
それと、ランス。
ミストナーヴはお前が気に入らなかったらしくてな。
俺はランスのやり方に任せると言っていたんだが、ランスを試したいとか何とか言って暴走しちまった。
だからお前はまだ六芒星だ。
どうする?戻ってくる気はあるか?』
ゴーレムから声が聞こえたが、音質が悪く声色までははっきりとは分からなかった。
「は?ボス…残念だけど俺はもう戻らねぇよ…。
六芒星として荒事専門で喧嘩にゃ負け無しだったのに負けちまったからな…。
もう六芒星の資格はねぇや。」
ランスは何故かスッキリした顔をしている。
『そうか…最後に友人として言わせてくれ。
今まで、ありがとな…。』
ランスの頬を涙が零れる。
「俺こそ…世話になりました…。」
そんなやり取りを俺は聞いていた。
(………俺場違い感半端ないな…。
何?組織を抜けるってこんな友情溢れる感じなの!?)
『炎帝…いや、神威!』
俺はドキッとしながら冷静を装う。
『近々、合間見えよう。』
そう言い残すとゴーレムはミストナーヴを担ぎ飛んで行った。
ランスは腕で目元を隠していた。
俺はゴーレムが飛んで行った後を見詰めていた。
(早く帰ろう…。)
ーーーーー
俺はレインにあるギルドに用意された宿屋で横になっていた。
(結局、前のゴーレムもアノニマスが動かしていたのか?
アノニマス…六芒星の内、ランスとミストナーヴは人間では無かった…。
六芒星は異種族で構成されているのか?
ボスのメドラウドはランスの話だと人間なのか?でも、女神の血を引くと自称しているらしいな…。)
俺は寝返りを打つ。
(そろそろ、アシエルやバアルをとっ捕まえて色々聞き出すか?
その為には、まずはアヴァロンの確保が先か…。)
「頭が痛いな…。」
ベッドから起き上がり、俺は窓の外を覗いた。
窓の外には雨が降り出していた。
「この世界でも偏頭痛はあるのかよ…。
痛覚無効化発動させたい位だよ…。」
再びベッドに倒れ込んだ。
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