【アヴァロンの鍵】
俺は倭の国の女王、咲耶姫に塔での経緯を話した。
アーサーの事は伏せて、最深部には戦闘の痕跡があったがもぬけの殻だったと伝えた。
「そうか…ご苦労じゃったの。
ミカエラス王と話を連絡をとった所、暫くは使者としての動きも無いからの。
少しばかしの時間じゃがヌシの自由にして構わぬぞ。
また何かあれば連絡を入れるからの。」
咲耶姫は袖で口元を隠しながら微笑む。
「わっちに会いたければいつでも待っておるぞ?」
俺は苦笑いを浮かべ倭の国を後にした。
ナイチンゲールに見てもらったが、アーサーの精神的な疲弊が酷く自軍での療養が好ましいらしい。
俺達は暫く自軍に戻る事にした。
アーサーは自室に寝かせた。
ルシファーはジャンヌと鍛錬に入った。
アーサーに負けたのが余程悔しかったらしい。
(あれは負けた内に入らないと思うが…。)
俺は隊長室で椅子の背もたれによりかかり天井を見上げていた。
「作られた世界か…。
トリガーの世界を作ったのはアヴァロン。
この世界はアーサーとルシフェルがアヴァロンに頼み作った。
アヴァロンは封印されていてルシフェルは不明または既に死んでいる。
クリスさんはアヴァロンを知っていて傍観している。
おそらく、ノエルが言っていた女神はアヴァロンの事だろう…女神の加護とはアヴァロンによって作り替えられた世界の事なんだろうな…。
女神の魔剣がアヴァロンの封印を解く鍵なのか?
魔王達は何か知っているのか…。
アシエルはルシフェルと同じ様に闇の魔力を注ぎ、対象をダークサイドへ堕とす事が出来る。
全ての魔王が出来ると考えた方がいいのか?
バアルともう1人の魔王は一応まだ敵ではない…機会があれば話を聞きたいな。
しばらくの間はアヴァロンを探しつつ、アシエルや機械国ギアの魔王の動きに注意しながら動かないとな…。」
俺は頭を抱えた。
「なんだか頭が痛くなってくるような展開だな…。
アヴァロンは何者なんだ?
世界を作る…いや…まてよ…。
クリスさんが俺の本体は病院で寝てるって言っていたな…。
て事はやはりこの世界はトリガーの延長線上?
それに、俺が承諾した?何を…?
思い出せないな…。」
机に突っ伏してうなだれる。
(なるようにしかならないのは分かってるんだけどなぁ…それにアヴァロンってどっかで聞いた事あるんだよなぁ…。)
再度背もたれによさりかかり腕を組み悩んだ。
部屋にノックの音が響く。
「誰だ?入っていいぞ。」
返事をするがドアが開く様子はない。
俺はドアに近ずいて開くが誰もいない。
首を傾げながら、ドアを閉め机に戻ろうとしてギョッとした。
机の後ろにある窓に人が張り付いている。
「クリスさん!?」
俺は窓に駆け寄り鍵を開けた。
ーーーーー
「いや~…入口から堂々と入ろうかとも思ったんだけどね。
ルシファーちゃんは優秀だね、バッチリ結界貼られてたよ!」
クリスは頭を掻きながら笑っている。
俺とクリスはソファーに座り対面している。
「いったいどうしたんですか?
クリスさんは傍観者だったんじゃ?」
俺が首を傾げているとクリスは俺を見つめた。
「そのつもりだったんだけどねー…ちょっとまずい事態にってか、かなりまずい事態になっててね。
ぶっちゃけるとアヴァロンを見失っちゃった。
今のアヴァロンは封印されて力が無いんだ。
だからもし、アヴァロンがこの世界で消えてしまったら君は帰れなくなってしまうんだよ。」
クリスは腕を組む。
唐突な言葉に声が裏返る。
「…は?
ってかアヴァロンって結局何者なんですか?
世界を作ったり、俺を呼んだり…。」
俺はクリスを真っ直ぐ見つめた。
クリスは何かを考えているようだ。
「うーん…もうこの世界の事は大体分かっているよね…。
この世界のアヴァロンの話をするにはアヴァロン自体の話をしないとね。
アヴァロンはね、簡単に言えばAIなんだけど…かなり特殊なAIでね。
アヴァロンの基盤に使われているのは、オーパーツと言われる古代のオーバーテクノロジーで作られた金属片なんだよ。
未だに解明されていない素材で作られた特殊なAI…それが現実でのアヴァロンなんだよ。
そしてアヴァロンに学習させる為に電脳空間を与え、人格を与えたんだ。
ネットの海で情報を集めたアヴァロンは物語を紡ぎ出した。
それが【Q.E.D"TRIGGER"】の基盤となる世界なんだ。
トリガーの世界でアヴァロンは知識を更に身につけた。
そして、進化をもたらしたんだよ。
"感情"を求めたんだ。」
「AIに感情…?」
クリスは頷き話を続けた。
「そう。アヴァロンは感情を求めている。
そしてトリガーの世界で君を見つけた。
アヴァロンにとって君は特別なんだよ。」
「何故俺なんですか?」
「君は覚えていないだろうけど、君が小さい頃私とよく遊んでいたんだよ。
真宮教授の研究室に私もよく両親に連れられて遊びに行っていたからね。
真宮教授は感情を持つAIの研究をしていたんだ。
そして偶然君が遊んでいて割れた石の中から金属片が見つかった。
それがアヴァロンの基盤なんだ。」
俺はクリスの話を疑う事は出来なかった。
朧気ではあるが確かに両親の研究室で年上のお姉さんとよく遊んでいたからだ。
黙って話の続きを聞くことにした。
「それから間もなくして、君の御両親は事故にあい亡くなった…。
私の父が真宮教授の研究を引継ぎ私に託した。
私はアヴァロンと育った様なものだよ。
そこでアヴァロンの特別な能力に気づいた。
君はパラレルワールドって信じるかい?」
「選択の分岐によって存在したかも知れない別の世界?」
クリスは微笑み頷く。
「そう。
アヴァロンはパラレルワールドと言う外界を作り出す事が出来るとしたらどうする。
私達が現実と呼んでいる世界が、もし本来の世界線ではないとしたら?
本来の世界線…本界と呼ぼうか。
本界では誰かが物語を綴り、それがアヴァロンによって外界として作られているとしたら?
まだ不確定の推察に過ぎないけど、アヴァロンには特定の波長の人間の願う外界を作り上げる能力がある。
今は電脳空間での能力だけど、もし現実にも影響を与えられるとしたら…。
見てみたくはないかい?
もし君がアヴァロンに、姫達との普通の生活を願ったとしよう。
アヴァロンが叶えたら、君は現実世界でアーサーやルシファーと普通の恋愛をし、普通の生活を送れるんだよ。」
クリスは優しく微笑む。
「そんな事が…まさか…。」
俺は頭では否定しようとしているがどこかで期待している自分もいた。
「まあ望むも望まないも君次第だけどね。
実際にアヴァロンの能力は通常のAIと異を期してる。
この世界だってほとんど現実と変わらない程の世界だ。
でも、アヴァロンの作り上げた世界の住人にも自我が目覚め始めた。
例を上げるなら、アシエルだね。
彼女はアヴァロンの力を自分の物にしようと考えているようだ。
まだアヴァロンの全てを理解している訳ではないだろうが、この世界を作り替えられる位には気づいている。」
「アシエルか…あいつは、トリガーの世界でのルシフェルの能力、ダークサイドを作り出せる…。」
「そうだね。
彼女はアヴァロンに作られた世界を嫌っている。
だから、この世界をアヴァロンから切り離したいんだ。
この世界を作り替え、存続する為に。
逆にバアル達、元トリガーの子達はトリガーは終わった物だと考えている。
だからこの世界を終わらせたいんだ。」
クリスの話を聞いている内に不安に駆られた。
「アシエルはこの世界の住人として世界を護りたいのか…。」
(確かにこの世界の住人からしたら、俺は異物だ。
だから敵対してもおかしくはないな…。
急に現れて、世界を終わらせてしまうかもしれない存在。
世界を護りたいアシエルからすれば悪は俺か…。)
クリスはそんな俺を見透かしたように口を開いた。
「世界を存続させるのも、終わらせてしまうのもアヴァロンに選ばれた君の考え次第だよ。
でも先ずはアヴァロンを探し出さないと何も始まらない。
アヴァロンを見つけるのを手伝ってくれないかな?」
「…そうですね…アヴァロンを見つけて保護しないと話は出来ませんから。
アヴァロンの特徴とか教えて貰えますか?」
考える時間が欲しかった。
この世界をどうするのか。
俺はどうしたいのか。
「あぁ…アヴァロンは…。」
クリスからアヴァロンの特徴を聞いて驚く。
以前、ニアが見かけた記憶喪失の女性と一致したからだ。
「なるほど…だからアシエルはあの時ミノタウロスを使ってギザの森を探させていたのか…。
バアルも変異種オーガを使って探しているんだな。」
魔王達が何を、誰を探しているのか合致した。
「分かりました。
俺の方もアヴァロンの捜索に力を入れてみます。」
クリスは頷き、「頼むね」と言うと窓から帰っていった。
(わざわざ窓から帰らなくても…。)
俺はクリスを見送り、ソファーに沈んだ。
(アヴァロンを探すにしても情報が少ないな…。
咲耶姫にも協力を依頼してみるか?
彼女ならノリで引き受けてくれそうだけど…裏神…魔王が後ろにいるとなると危険か…。
バアルにしろアシエルにしろアヴァロンを捕まえて世界の存在を変えたいんだから。
一応、ギルドで情報を集めてみるか…。
後は…ギアの魔王の動きだよな…。
倭の国は咲耶姫がいるからまだ情報を集められるけど…ギアは閉鎖的な国らしいから接点が何もないからな…。)
俺はソファーに横になり天井を見上げた。
「世界をどうしたいのか…。
この世界に生きる人達もいる…。
俺の選択でどちらかの願いが消えてしまう…はぁ…。」
ため息をつきながらうずくまる。
この時、俺は見落としていた。
ギアに繋がる接点を。
ーーーーー
倭の国の女王咲耶と侍女の鳴江は城下町を歩いていた。
「今日は雲行きが怪しいの…。
ひと雨来そうじゃな。」
咲耶が空を見上げ嘆いた。
「ですから城に戻り、政務に取り掛かりましょうと言っているではありませんか。」
鳴江はため息混じりに咲耶を見た。
「嫌じゃ!書類仕事は疲れるのじゃ…!
そう言うことは得意な奴にやらせておけば良いのじゃ!
わっちの今の仕事は城下を見て回り、住人達の生活を視察する事なのじゃ!」
咲耶は得意気な顔で両手に団子を持ち歩いていた。
「一国の女王が食べ歩きなど…他の者達への示しがつきませんよ?」
「いいのじゃ!これがわっちなんじゃから!」
咲耶は座れる場所を探し座り、嬉しそうに団子を頬張った。
鳴江はため息をつき咲耶に着いていく。
空は次第に暗くなり雷が鳴り出す。
「嵐が来そうですね…。」
鳴江は空を見上げた。
「まるで雷帝が暴れているみたいじゃな。
あやつは好かん。
自由奔放で何を考えているのか分からんからの!」
咲耶は最後の団子を頬張りお茶を啜る。
「貴女も似たような者ですけどね…。」
鳴江は深くため息をついた。
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