【第二章】女神の魔剣 編
【モンスターとイケメン】
俺がギルド本部で依頼書の確認をしているとギルドのドアが開く音がした。
すると他の傭兵や冒険者からざわめきが聞こえた。
気にはなったが先に依頼書を見てしまおうと依頼書を読み進めた。
「ご主人様!」
ざわめきの中からニアに呼ばれ、俺は振り向いた。
するとニアが誰かとこちらに向かってきた。
「ニア…人前でご主人様は止めろと…。」
俺はニアの後ろの人物に目を留めた。
(気配が只者じゃないな…。
それに…爽やかイケメン!腹だだしい…!)
ニアは俺の視線に気づき後ろの人物を紹介した。
「こちらは、この国のギルド所属のSランク冒険者の"クシャシー"さんです。」
クシャシーは俺の前に立ち頭を下げた。
「クシャシーさん。
こちらが私のご主人様で、いずれSランクの皆様を超える傭兵部隊の隊長、神威様です。」
ニアは自慢気な顔で俺を紹介した。
(やめろ。
まじで恥ずかしい。)
俺は依頼書を机に置くと頭を下げた。
「ニアが過大な紹介をしましたが、俺が神威です。
Sランク冒険者のクシャシーさんですね。
よろしくお願いいたします。」
クシャシーは優しく笑い手を差し出した。
「こちらこそ、お会い出来て光栄です。
神威殿の色々な噂は耳にしています。
近々Sランクへの昇格試験が発行されるらしいので、Sランク依頼での共闘を楽しみにしています。」
クシャシーは実力者と呼ぶに相応しい貫禄と、物腰の柔らかさがあった。
俺はクシャシーの手を取り握手をすると話を進めた。
「挨拶だけと言うわけではないのですよね?
何かお話があるのでは?」
ニアは慌てて口を開いた。
「そうです!そうです!
今日はクシャシーさんが、ご主人様に協力して頂きたい事があってクシャシーさんをお連れしたのです!」
「ここでは人目が多いですから会議室を借りましょう。」
クシャシーは辺りを見渡すと、他の冒険者達が一同にこちらを見ていた。
(確かに目立つよな。
いつも俺とニアだけでも目立つのに、Sランクのイケメン、クシャシーまで加われば余計に…。)
俺達は受付で会議室の鍵を借り、会議室へ向かった。
*****
「それでは本題に入ろうか。」
クシャシーが俺の対面に座り、何故かニアは俺の横に座っている。
「ち…近いな…。」
俺はニアを遠ざけようとしたが、ニアは含み笑いを浮かべ擦り寄ってくる。
「まぁいい。
クシャシーさん、すいません。
話を進めて下さい。」
クシャシーは苦笑いを浮かべながら話を始めた。
「お願いしたい事の前に状況の説明を。
私は主に帝国からの依頼を受けて活動しているのですが、今回お願いしたいのは私が依頼に赴いている場所の近くのモンスターの討伐です。
今まで何度も討伐に行っているモンスターなのですが、毎回トドメをさそうとすると配下のモンスターを呼び寄せ混乱に乗じて逃走されてしまうのです。
ですので、私が対象と戦闘に入ったら周りの近づいてくるモンスター達を排除して欲しいのです。
本来であれば、周りのモンスター達もAランク以上の扱いのモンスターになるのですがニア殿に相談を持ち掛けた所、神威殿と繋がりがあるとの事。
闇憑を退けるそのお力を貸して頂きたい。」
クシャシーは深々と頭を下げる。
「なるほど、分かりました。
微力ながら協力させて頂きます。
しかし条件をつけさせて頂いても?」
俺は条件を出してみたがクシャシーは問題ないと快諾した。
ニアはついていきたいと喚いていたが、クシャシーに別の依頼があるのだろと諭され、渋々依頼に向かっていった。
今回のクシャシーの依頼には俺が単騎で向かう。
恐らくSランクと言えど姫達ならば問題ない位のモンスターだろうが、姫達には変異種オーガの目撃情報のあった場所へ向かって貰った。
条件は2つ。
討伐対象モンスターの情報を提供して貰う事。
そして成功したら今後、俺がSランクに上がった時に国からの依頼を出す担当者を紹介して貰う事だ。
成功させれば群れを作る上級モンスターの情報も増え、人脈も作れる。
そうすれば今後の動きが組みやすくなる。
俺はクシャシーと共に討伐対象が住処にしている倭の国との国境近くの砂漠地帯へとやってきた。
「暑いですね…。」
俺は照りつける太陽と照り返す砂地に目眩を覚える。
「仕方ないですよ。
この地は神話の戦いの際に闇の女神が大地の魔力を吸い上げ、砂漠と化してしまったらしいですから。」
クシャシーは額の汗を拭いながら先に進んだ。
(イケメンは汗をかいてもイケメンか…!)
「なるほど。
この砂漠は神話の名残りと言う訳ですか。」
俺はクシャシーに着いていきながら辺りを見渡す。
辺り一面砂漠が広がり、太陽の照り返しで風景がボヤける。
しばらく進むと朽ち果てた祭壇の様な物が見えた。
「あの地下に対象のモンスターが居ます。
私は中に入り討伐しに行きますので、神威殿は入り口で待機して、他のモンスターが入ってこないようにお願いします。」
「分かりました。」
俺が頷くとクシャシーは祭壇の裏にある階段を降りていった。
俺はクシャシーの姿が見えなくなったのを確認し、辺りを見渡した。
「さて今の所、近くにモンスターの気配はないか…。」
近くにある崩れた柱に座る。
「しかし何の遺跡なんだ?何かを祀っていたのか?それともエジプトのピラミッドみたく墓なのか?」
俺は祭壇の様な物を見つめながら考えた。
しばらく考え込んでいたが答えは出るわけが無い。
「暑い…暑さ無効のアイテムって在庫あったかな?」
俺はゲートを開き中を漁っていると、絶対なる創造主が発動した。
獲得スキル
【熱源無効】
上位スキル。
熱を持った物を無効化できる。
「熱源無効化…って事は実質、属性はほぼ無効化できるんじゃね?
炎はもちろん無効、大気の熱を無効って事は風無効、水や氷を使い発生させる為の熱源も無効化。
光もそうか。
雷や電気を使い発生させる熱源も無効化…。
いよいよ俺も人間辞めた感が出て来たな…。
後は闇への耐性だけだな。」
俺は暑さを感じなくなり少し不安を覚えながら待機した。
ぼんやり空を眺めていると地響きが鳴る。
「だいぶ派手にやっているな。
そろそろこっちにもモンスターが湧くかな?」
俺は立ち上がりズボンを叩き砂を落とすと剣の柄に手をかけた。
「ん…砂漠地帯だから剣は炎属性のレーヴァテインじゃない方がいいか…。」
俺はレーヴァテインをゲートに仕舞い、他の剣を取り出す。
「これでいいか。
"氷剣 アイシクルリボルバー"斬りつけた相手を凍らし、魔力を込めれば氷の弾丸が打ち出せる銃剣。
実際、ガンランスやガンソードって男の浪漫だよな!」
俺はアイシクルリボルバーを肩に担ぎ悦に浸る。
すると今まで何も無かった場所にモンスターが湧き出す。
「きたか…。」
俺は武器を構えた。
現れたモンスターはミイラやジャイアントスコーピオン、サンドリザード。
「本当にただの露払いだな。
配下のモンスターがこれじゃ、討伐対象とやらも大した情報にはならなそうだな。」
俺は溜め息をつき向かってくるモンスター達を次々と斬り捨てていった。
包帯を伸ばし俺を拘束しようとするミイラを撃ち抜き、毒針を飛ばしてくるジャイアントスコーピオンは尻尾を斬り捨てる。
再生持ちのサンドリザードは斬りつけ、断面を凍らせて再生出来ないようにして頭を撃ち抜いた。
無数に湧いてきたモンスター達も段々と数が減ってきた。
「そろそろ、こっちは終わるかな?」
俺は最後のモンスターを倒す。
すると階段の下から瘴気が吹き出してきた。
「なっ!討伐対象って闇憑かよ!?
しかもこの感じは魔人化したんじゃないか?
クシャシー大丈夫かな?」
俺は階段の下を覗き込む。
奥は暗く、先は見えなかった。
「どうするかな…クシャシーが死んでしまったら元も子もないよな…。
本来ならばイケメンなぞ助けたくもないのだけれど。
一応、入口に結界を張っていけばいいか。」
俺は入口に結界を張り、階段の奥へと入って行った。
道は狭いが、別れ道などは無くただひたすら奥まで続いていた。
(この長さを瘴気が流れてきたって事は相当強力な魔人なのか?)
俺は更に奥へと進んだ。
*****
瘴気が濃くなってきた。
そこは玉座の間のようだ。
入口付近に倒れる人影を見つけ俺は駆け寄った。
人だった物は瘴気で肌は爛れ、もはや原型を留めて居なかった。
「これは…古い死体が瘴気に触れ過ぎて朽ちたのか…。
クシャシーではないな。」
俺は部屋の中を見渡すと、奥でクシャシーが戦っていた。
俺はクシャシーに駆け寄る。
「クシャシーさん!
外のモンスターは全滅させてきました!
入口には結界を張ってあるので邪魔は入りません!」
クシャシーは魔人の攻撃を捌きながら返事をする。
「ありがとう神威殿!
このモンスターは"パズズ"、ライオンの腕に鷲の脚爪。
4枚の羽を持ち俊敏に動き回り、サソリの毒針を持っている!
今までは闇憑では無かったのだが、この地に溜まる瘴気を溜めていたらしい!
そして、先程トドメをさそうとしたら魔人化したんだ!」
クシャシーはパズズの攻撃を紙一重でかわして反撃する。
しかし、パズズが巻き起こす熱風にクシャシーは中々踏み込めずにいた。
「埒が明かない…!"換装"!!」
クシャシーの鎧が剥がれ別の鎧に変わっていく。
(………!?)
クシャシーが纏った鎧は胸元の開いた赤い鎧、胸元には見事な谷間が。
クシャシーは女性である。
(お…女!?…………全然分からなかった…。
これは最初から知っていたフリをしないと…。)
俺は動揺を隠しながら熱風に押されているフリをする。
「神威殿は少し下がっていてくれ!
この"焔の鎧"は攻撃力を高める鎧。
巻き込んでしまう可能性がある!」
クシャシーは剣を構えパズズに向かって走り出した。
俺は柱の陰に身を隠した。
「まじかぁ…そう言われてみれば、両性的な顔立ちだよなぁ…男なら完全なる王子様タイプのイケメン。
あんな顔に産まれたかった…。
まぁ俺も不細工って訳ではない!…多分。」
俺は激しくなった戦闘音が気になり覗き込んだ。
(おお!あのイケメン女性クシャシー、やるじゃないか!魔人パズズを押してるぞ!
焔の鎧で攻撃力を高めて、ゴリ押ししてる。
ただ見た感じあの鎧は使用者の攻撃力を引き上げる代わりに、体力をどんどん奪うみたいだな…。
それでもまだ余裕がある感じだけど。)
クシャシーが魔人パズズに斬りかかっている。
パズズも4枚の羽を巧みに使い紙一重でかわす。
しかし、クシャシーの一撃が羽に当たり動きが鈍くなる。
段々とクシャシーの攻撃が当たり始める。
パズズの羽は刻まれ地面に這いつくばった。
「これで!!」
クシャシーも息を切らしながら大きく武器を振りかぶった。
クシャシーが武器を振り下ろしパズズにとどめを刺そうとした刹那、クシャシーの体が後ろに吹き飛ぶ。
「な…なにが!?」
クシャシーは受身をとりながら着地したが体力の限界の様で、膝をつく。
俺は柱の陰から飛び出しクシャシーの前に立つと武器を構えた。
パズズの前に人間が立っていた。
(この気配は…。)
「魔王アシエル…!」
俺は武器を構えアシエルを睨みつける。
「久しいな、異端者よ。
闇憑が魔人化した気配がしたから見に来てみたら既に殺されそうだったのでな。
此奴は私の配下にする。
なので邪魔をするでない異端者よ。」
姿は人間の少女だが気配がおかしい。
俺が見ている事に気づくとアシエルは手を広げた。
「この姿か?仮の姿だ。
人の世界を見る時に使っているのだ。」
アシエルの後ろで蹲るパズズが見上げた。
「魔王アシエル…我を配下に?」
アシエルはパズズを見下ろすとパズズの頭を掴む。
「パズズよ、私の配下になれ。
さすれば、あの女なんぞ簡単に殺せる力をくれてやろう。」
パズズは目を閉じ跪く。
「魔王アシエル様の配下にならせて頂きます。」
するとアシエルのパズズを掴む右手から魔力がパズズに流れ込む。
「契約はなされた。
まだ体に馴染んでは居ないが、時期に馴染む。
私の国に帰るぞ。」
アシエルはパズズから手を離しこちらを向いた。
「と言う訳で帰らせてもらう事にするよ。」
クシャシーは俺の肩に捕まり立ち上がる。
「まて!そいつは私の獲物だ!
私が倒さねばならないんだ!!」
クシャシーは武器を構えた。
「いずれ戦わせてやろう。
もし今、戦いたいのなら此奴を倒せたらな。」
アシエルが左手で魔法陣を描くとゲートが現れる。
そのゲートから魔人が現れた。
「よお、俺を覚えているか?」
魔人は俺を見つけるとニヤリと笑った。
「フェンリルか…。」
俺はクシャシーを支えながら武器を構え直す。
「ではフェンリルよ。
私はパズズを連れて帰る。
適当に遊んだら帰ってこい。」
そう言うと、アシエルは気を失ったパズズを引き摺りゲートに入って行った。
「まて!」
クシャシーが追いかけようとするが足がもつれて倒れ込む。
「姉ちゃん、俺が遊んでやるよ。
その人間もまとめてな!」
フェンリルの鋭い爪がクシャシーに襲いかかる。
俺がクシャシーをひっぱるとフェンリルの爪は空を切った。
「すまない…。」
クシャシーは疲れきった様子で項垂れる。
「クシャシーさん。
この魔人は俺が倒します。
少し離れて回復をしていて下さい。」
俺は武器を担ぎフェンリルの前に立った。
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