【戦国の弟達】第二話《伊達政道(ダテマサミチ)〈小次郎(コジロウ)〉》

兄を殺せなかった弟 『伊達政道〈小次郎〉』


 私は、どうすればよいのだ。母上からは過分な期待を寄せられ、兄上(伊達)にとって私はこの上なく邪魔な存在でしかないのではないか。家から嫁いだ母上にとって兄上は邪魔な存在なのは間違いない。兄上はその最上家と対立関係にあるからだ。母上からすれば、言いなりにできる私に家督を継がせれば都合の良いことこの上ないのであろう。逆に言えば兄上は母上にとってこの上なく目障りな存在であり廃嫡したくて仕方がないであろう。私には兄上にとって代わろうなどと言う大それた野心などないというのに。私の思いとは裏腹に、家中は家督争いで揉めた。父上(伊達)はそのような家中の混乱をいち早く収めるべく天正12年(1584年)兄上に家督を譲った。母上は無念そうであったが私は内心落ち着いた気分だった。これで板挟みが終わることを期待したからだ。それからしばらくして、天正15年(1587年)蘆名家の後継者問題が起こると私を蘆名家の当主にという推薦が出された。やめてくれ。私は当主などと言う器ではない。しかし、考えようによっては、母上からも兄上からも逃れられる最後の機会ではないかとも思い始めていたのだが、蘆名家の跡取りは、佐竹義重の子が継ぐことになってしまった。佐竹義宣と名乗るこの後継者に私は負けたのだ。様々な駆け引きがあった末の話だが結果としてやはり負けは負けなのだ。潔く受け入れよう。天正18年(1590年)豊臣秀吉による小田原征伐への参陣を巡り、母上と兄上が険悪になった。ある日、兄上に呼び出された。もう、お前を生かしておくわけにはいかぬ。そう言った兄上は私に刀を抜けという。私にはできない。私は躊躇った。しかし、兄上は容赦なく刀を抜き私をなで斬りにした。伊達政宗の弟『伊達政道』享年22歳。

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