絡まれる②
「ちょっとキレイだからって、調子に乗って人の男に色目使ってんじゃないわよ!」
大学卒業を間近に控えた二月。
私は学部で行われた団体での卒業旅行に参加し、その日はロスの有名なテーマパークに来ていた。
先にアトラクションへ向かった友人を追って長い昇りエスカレーターに乗っていたら、前に立っていたどこぞのブスがいきなり振り向き、私にいちゃもんをつけてきたから驚いた。
「はあ? 私には婚約者がいるんですけど。まさか立志さんに横恋慕しているの、あなた?」
立志は、私の婚約者。五つ年上で、大手アパレル企業の御曹司だ。
私の大学のOBで、学祭で行われたミスT大コンテストで優勝した私に一目惚れし、猛アタックの末、卒業後に結婚する約束をこぎつけた人。
だからといって、彼が一方的に私を想っているわけじゃない。何度かデートを重ねるうちに、私も彼のことを好きになっていた。
彼も元ミスターT大のイケメンだから、これ以上ないほどお似合いの二人って言われているのに。
なのに、何なのこの不躾な女は。
「立志って誰。私が言ってるのは、翔平! 私の恋人なんだけど!」
「翔平なんて知らない」
「なっ――。人の物を取っておいて、忘れるってどういうことよ!」
「忘れるも何も、私は翔平なんて人は知らないって言ってるの。それにあなた、本当に国際政経学部の人? 見たことないけど――」
私は立志一筋だし、年上がタイプだから学部の男たちに惹かれたこともなかった。翔平という名の男性も、目の前にいる化粧がものすごく濃いこの女にも見覚えがない。
「なんなの、あんた! 四年間、同じ学部だったでしょ! 同じ講義を受けたこともあるのに! いつも人のことを見下したような目で見ていたじゃない!」
「ごめんなさい、ぜんぜん知らない。私、友人以外の子には興味なくて」
これは本当のこと。
顔がどうのという訳じゃなくて、話が合わない子は単に興味がないだけ。
でも四年も同じ学部でたまに同じ講義を受けていたなら、顔くらいは覚えていそうなものだけど。我ながらびっくりだ。
「だからあんたみたいな人は嫌いなのよ。しかもちょっとキレイだからって、男がみんな靡くと思ったら大違いなんだからね!」
私の一段上からものすごい剣幕でまくしたてるものだから、彼女の唾が飛んできた。
ああ嫌だ、気持ち悪い。
ハンカチで顔を拭いながら、一応突っ込みを入れてみる。
「あなたが私を嫌いでもまったく構わないんだけど、言っていることがさっきと食い違っていない? 私があなたの恋人を取ったって言ってたけど、それならその翔平っていう人は、私に靡いたってことだよね。どちらにしても私は、婚約者以外の男性に興味を持った記憶はないけど」
するとブスは顔を真っ赤にして、
「ばかにするんじゃないわよ!」
と怒鳴りながら、私をドンと突き飛ばした。
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