夢のダイエット

八柳 梨子

第1話

斉藤雛子は、物心ついたときから周囲より二回り以上ふくよかな身体つきをしていた。


両親とも共働きで、昼間預けられていた祖父母が孫に甘く、欲しがるものはすぐに際限なく与えていた。おやつも同様で、どんなにカロリーが高いものでも欲しがるだけあげてしまう。当然といえば当然の結果なのだろう。


思春期を迎えた頃には偏食がたたって肌も荒れ、男子にはまったく相手にされず、さすがに焦りが出始めた。


一念発起。ダイエットをしようとしたのだが、やはり好物の香りを嗅ぐだけで決意は崩壊する。


ただし趣味がスノボやスキー、サーフィンが好きで、大学生まではよく友人と遊びに行っていた。おかげで大学生までは「軽肥満」で済んでいたのだが……。


社会人になり、葬儀社の営業補佐として勤務するようになってからは、ストレスの連続でさらに食べる量が増えた。週末は仕事で疲れていたり、友人とシフトが合わずに予定が組めないなどでスポーツもできない。


おまけに帰宅が21時頃になることもざらだ。必然的に夕食の時間も遅くなる。


悪循環な日々が半年も続いた頃には、入社当初に来ていた服はパツパツで1ミリの隙もないほど。スカートのファスナーも上げるのに四苦八苦している。


(やばい)


会社の制服は、今のサイズが上限だ。これ以上になると前代未聞の特注の申告をしなくてはならず、さすがにそれだけは避けたかった。


同期も先輩社員も、恋人や夫についての会話が多い。そこに自分はまったく入っていけない。というより、最初から「いないでしょ」の前提で対応されるのがつらい。


(楽なダイエットないかなー。飲むだけで痩せるとか)


そういう食品は試したことがあるが、いくらカロリーが少なくても量を食べれば大差なく、カロリーゼロを謳っているものを選んでも効果なし。


飲むだけでドバッといった広告のお茶系を飲めば悶絶するほどの腹痛に襲われたり、吹き出物ができたり。副作用が強い割には体重に変化がない。


ネットや雑誌の広告に惹かれていろいろ手は出し、数万単位の痛い出費を後悔する。


(でもジムに行く時間なんてないし)


 雛子が勤務する葬儀会社は定休日がないし、夜勤もある。シフトで回しているが、社員が少なく、勤務時間もブラックすれすれだ。だから定期的にジムに通うなんてことも無理。


 ダイエットの記事をネットで検索しまくっていたところ、ある記事の広告がふと目に入った。


『一週間で、50キロ~70キロの方は体重の5パーセント、70キロ以上の方は10パーセント減を叶えます。最初に体重を申告していただき、それに合わせた配合だから、効果も確実。減らなかったら、開封していても全額返金!』


 まず、〇キロではなく、パーセントという点に惹かれた。


(じゃあ例えば100キロを超えたわたしは少なくとも10キロちょっとは減るってことだよね)

 

 俄然興味が沸いてきて、広告をクリックして詳細を確認した。



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