05話 お姫様は密林にて。
マリー一行が中庭にいると、誰かが詠唱した。
「《不完全な世界の顕現》」
その誰かの中で発せられた淡い光が、水溜まりに落ちた水滴がつくる波紋のように拡がって、そのだだっ広い中庭がだんだんと波打っていき、そして
マリーは、
「急に、何よっ!」
じたばたするマリーであった。この行動により、返ってスカートがめくれようとしていた。
はて、今日のパンツはなんだったか。
メイドに着替えさせられたマリーは、記憶の中を探索する。
「て、あれ?下着を着けた覚えがないのですが……」
そう気づいたマリーであったがもう手遅れである。身動き一つ取れないマリーのそのスカートの中が見えようとしていた。
「ちょっとまった!それ以上はダメだから!PTAとかがうるさいから!ダメーーー!!!」
「今日のマリー様のパンツは縞模様です」
「あんた何言ってんのよ!」
「しかし、こう言って置かないと。マリー様のスカートの中は迷宮入りですわ。ブラックボックスの中身はいつでも書き換え可能なんですのよ」
スカートの中が見えるか見えないか。そのきわどいときほど 想像力が掻き立てられるというが、あえて中を示すことでその想像力を封殺しようという話である。
はやく下ろせーと言わんばりに、じたばたするもんだから、メイドがせっせと蔦をほどく。
「パンツが見られた時点で負けなのよ!」
「申し遅れました。メイドのアザレアと申します」
「あ、よろしくね。今朝着替えのときにいたわね」
「なんとっ!」
メイドは体を仰け反らせ、鼻を抑える。
「マリー様に覚えていただくなんて、至極光栄なこと…!?」
――うちのメイドは変なのしかいないのか?
「マーガレットとカトレアとも合流しないとね。てか、この密林はなんなのよ」
「これは想いの力。おそらく、この敷地が使われなかった世界線、密林化してしまった世界を、現実にしたのでしょう」
並行世界からあったかもしれない世界を現実にする力-《想いの力》。
「あなたもその力使えるの?」
「……では見ていてください。《不完全な世界の顕現》」
アザレアが詠唱する。彼女の中から発せられた淡い綺麗な光が、水面におちた水滴の作る波紋のように拡がると、現実が波打っていく。その波打った現実が
「あれ?終わった?」
「……はい」
「何か変わったの?」
「傷を消しました」
そもそも目に見える傷ってほどでもなかったんだけど、確かに綺麗になった気がする。
「ええ、確かに、綺麗になったの、かな?」
アザレアは泣き崩れた。
「ええ、私の力はしょぼいですよ。マーガレット様と違い、私は三等級ですから」
想像力が強いほどこの力は強くなる。見えるか見えないか際きわどいときに、想像力が掻き立てられるように、人の想像力もまた時を選ぶのだ。
「マリー様、ご無事でしたか」
カトレアが合流した。
――カトレアも私と同じ二等級だったし、そんなに期待はできないか、となると、マーガレットを探すのが手っ取り早い。
「皆、集まってきたわね。とりあえずマーガレットを探しましょう」
「「はい」」
マリーの指揮の元、密林を歩く。
こんなときサバイバルマスターがいたらなと思うが、そんな人物は、どの世界線を辿ってみてもいないのである。しかしながら、メイドたちの誰かが小さい頃から暗殺術を習っていた。なんてことは起りうるわけで、偶然にもアザレアが、小さい頃から密林を歩くのに慣れていた。なんてそんな世界があったかもしれない。しかし、残念ながら、そんな数%の可能性があったとしても、それを現実にするのは想いの力でも高位の能力であり、結局のところ、マリーたちは素人でありながら、この密林を冒険しなければならないのであった。
閑話休題。
隊長マリーの指揮する分隊は、三人で構成されており、分隊長マリーを筆頭に、二等軍曹カトレアと三等陸曹アザレアであった。
「隊長、この水飲めそうですよ」
「誰が隊長だ、誰が。てか、朝から結構経つよね。お腹空いてきたんだけど」
「マリー隊長、こんなこともあろうかと、このアザレア、非常食を用意しております」
「それはでかした。三等陸曹。それで、なにを持ってる」
「ビスケットでございます」
それはもう半分粉々であったが、形の残ってるところを食べる。
「てか、なんでビスケット持ってるの」
「女子はみんな、ポケットにお菓子を持ってるっていいますもんねー」
カトレアが粉々になったビスケットを頬張る。初めて聞いたわ、今の言葉。
順当にすすんでいくと、ちょっと広いところに出た。
「ここをキャンプ地とする!」
マリー隊長が両手を広げて宣言する。すると、たまたま居合わせた。甲冑を着込んだ五人衆と目が合ったのだ。
「やだ、もう、恥ずかしい」
と身を縮めるマリーであった。それはさっきマリーがあしらったローズ一行だった。
「マリー様、ご無事でしたか」
息のあった隊列を組み、跪く。彼女らはその甲冑のおかげで傷ひとつなく、この密林を攻略してきたのだ。
――これは頼もしいではないか。このまま私の指揮下に入れよう。
なんて考えてたら、眼下のローズがもじもじしていた。
「てか、ローズさんってロサ学院ですよね。なんでこっちの演習に参加してるんですか」
カトレアが核心をつく。
――そういえばそうだった。サボりか?
怪訝な表情でローズを見つめると、弁明をはじめた。
「ち、違います。誤解です、あの、マリー様と離れたあと――」
〜回想〜
「うっっっしゃぁああぁ!マリー様に名前を覚えてる貰えたぞぉぉぉ!!!」
「てか、ローズさんだけ、ずるいです。私も名前覚えてもらいたかったです」
「見損なったぞ、ローズ。一人だけいい思いして」
「ローズさん、あなた一人の騎士団ではないのですよ」
「……ローズ傲慢」
「なんだ貴公ら、私に文句あるがあるのか?ならば剣で語ろうではないか!」
〜回想終わり〜
「それで喧嘩してたら巻き込まれたの?」
「気がついたら密林で、その、面目ない!」
彼女の剣技もまた、こういう内輪もめで鍛えあげられたといっても過言ではない。
――頼もしいと思ったけど、どうも心配よね。
「それで熊がでたので、シバいていたら、マリー様と出会ったわけです」
「クマ?」
彼女らの後ろをみると二メートルはある巨熊が
――わお。実は言うと物凄く強いんじゃない?この子達。
そういう事で、頼もしい家来を連れたマリーは密林の最奥に進むのであった。
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