第10話:世界的危機?
通信用水晶球がフェリエの姿を映し出した。
「姫様、テツヤさん、お久しぶりです。お元気にしていましたか?」
フェリエが笑顔で手を振ってきた。
「そちらも元気そうで何よりだ。エルフ国と獣人国との調印式依頼だな」
リンネ姫も笑顔で答える。
フェリエは相変わらず男性のような短髪だけど今は夏ということで大きく胸元が開いた開襟シャツを着ている。
それに加えて身を乗り出すように話しかけているからただでさえ豊満な胸元がかなり際どいことになっている。
これが無自覚系という奴なのか?
「そ、それで話がしたいというのは?」
俺は胸元に視線が移りそうになるのを必死にこらえながら尋ねた。
「そうでした、そちらで虫が大発生して大変だと聞いたのですが、大丈夫なのですか?」
「ああ、こっちはなんとかなってる。そっちはどうなんだ?」
「こちらもなんとか。でもかなり大変でした。こんなの初めてでしたよ」
「やっぱりそっちもだったのか。そっちはどんな感じなんだ?」
「そうですね…被害としてはワールフィア全域には広がっていません。おそらく一番被害があったのは私たちドライアド国でそれ以外の国で他の国はそうでもないようです。私たちも今は収まりつつありますね」
「そうなのか。そっちはどうやって対策したんだ?後学のためにも聞かせてくれないかな」
「こちらでは害虫を寄せ付けなくなるハーブを一緒に植えたのが功を奏したみたいです。ミントやマリーゴールド、バジルといった類ですね」
なるほど、いわゆるコンパニオンプランツという奴か。
「あと虫が食べても消化できない植物、食べたら死んでしまう植物を開発してたのも良かったみたいです」
「そ、そんなものまで作ってたのか!?」
「はい、やっぱり植物にとって虫は天敵ですからね。虫の時期に合わせてそういう殺虫植物を作って植えておいたのが役に立ちました」
そんな遺伝子組み換え植物みたいなものを作っていたとは…流石は
そこまで言ってフェリエが声を落とした。
「でも…ちょっとおかしくないですか?いくらなんでもこれは不自然すぎると思います」
「フェリエもそう思うか」
通信用水晶球越しにフェリエが頷いた。
「虫が大発生しそうな年というのは植物の育成具合で私にもわかるんです。でも今年はそういうことが全然ありませんでした」
なるほど、虫だって増えるのには餌となる草木の発育状況が関わってくるだろうからフェリエだったらそれを察知できるはず。
それができなかったということは…
「人為的なものかもしれない…と?」
リンネ姫の言葉にフェリエは頭を振った。
「まだそこまではわかりません。ただ今回の大発生は腑に落ちないところがあります。自然なこととは思えないんです」
「なるほど…」
しばらく思案していたリンネ姫だったが、やがて何かを思いついたように顔を上げた。
「わかった。其方の意見はありがたく参考にさせてもらう。また何かわかったら教えてくれぬか?あるいはこちらから協力を要請することがあるやもしれぬのでその時はよろしく頼めるだろうか?」
「もちろんです。姫様にはいつもお世話になっていますから。いつでも連絡してください」
こうしてフェリエとの通信は終わった。
「どう思う?」
「うむ…フェリエの言葉で大体わかってきた気がする」
リンネ姫が顎をつまみながら答えた。
「まずワールフィアでは危惧するほど虫が広まっていない、ということになる。そして我が国も大変ではあったが抑え込みつつある。しかしベルトラン帝国はどうだ?」
「リンネ姫もそう思っているのか」
俺の言葉にリンネ姫が首肯した。
「そう思うに足る根拠があるのだ。我が国で虫が増えてからまだ一月ほどだ。しかしベルトラン帝国の作物価格はそれ以前から上がり始めている。つまり…この発端はベルトラン帝国にあるかもしれない、ということだ。あくまで可能性でしかないが」
リンネ姫は慎重に言葉を選んでいるがそれは俺も同意見だった。
俺の場合はただの勘でしかないけど。
「いずれにせよベルトラン帝国からは協力要請が来ているのだ。これを機に彼の国の様子を見に行くのも悪くないだろう」
リンネ姫は軽いため息をつくとにやりと笑みを浮かべた。
「あの国に借しを作るのは悪い気分ではないしな」
「やっぱりそれが目的かよ」
苦笑する俺に当然だとリンネ姫は胸を張った。
「普段大国然と振舞っている連中が助けを乞うているのだ。気持ちよく力を貸してやろうではないか。連中がどんな顔で出迎えるのか今から楽しみだ」
「あんまり無茶な態度は取らないでくれよ」
こうして三日ほど経った後にリンネ姫とその護衛隊、俺、アマーリア、ソラノ、フラム、キリとで構成されたフィルド王国外交団がベルトラン帝国へと向かったのだった。
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