第8話:殺虫剤作り
「しかしどうすればいいのだ?テツヤでも駄目となると他に方法があるのか?」
「ああ、まだ手はあるよ。とりあえずボーハルトに戻ろう」
俺たちはボーハルトに戻るとリンネ姫の研究所へ向かった。
「蚊取り線香に使ってる除虫菊には殺虫効果があるからそれで農薬を作ろう」
「農薬…?」
「農薬というのは野菜のための薬みたいなものだな。今回は虫を殺すための殺虫剤を作ろうと思う」
作り方は簡単で蒸留酒の中に除虫菊のパウダーを入れるだけだ。
「そんなのでいいのか?」
リンネ姫も驚いている。
「唐辛子エキスを入れても効果が上がるらしいぞ。でも効果を出すには最低でも一週間は置いておかなくちゃいけないんだ」
「そんなに待ってはいられぬ。よし、ここは私がもっと早く作れるようにしてやろう」
「大丈夫なのか?」
「なに、任せておくがよい。こういうものの促進は紙を作る研究で散々してきたからな」
リンネ姫はそう言って得意そうに胸を叩いた。
そしてその翌日、俺はリンネ姫に呼び出された。
「できたぞ」
「早いな!」
驚く俺にリンネ姫は得意そうに胸を張った。
「まあ見ているがいい」
そういうとリンネ姫はガラスコップに入った液体に刷毛を浸すと葉っぱについているアブラムシに塗りつけた。
ほどなくしてアブラムシがポトポトと落ちてきた。
「凄いな!俺が作ったのよりも強力なんじゃないか?」
「ふっふっふっ、もっと褒めるがよい。木からパルプを取り出すために植物を溶かす方法を編み出したのだがそれを応用したのだ。ついでに効果を高めるために濃縮してみた」
実際これは大した効果だ。
正直言うと除虫菊スプレー程度では効果は期待できないと思っていたんだけどこれなら大丈夫かもしれない。
というか蚊にもこのエキスをアロマにした方が蚊取り線香よりも効くんじゃないだろうか?
リンネ姫恐るべし。
「後はこれを希釈して野菜にかければいいだけだ。殺虫効果はないけど虫除けには効果があるはずだ」
「なるほどの。で、どうやってかけたらいいのだ?柄杓でかければいいのか?」
う、そこからやらないと駄目か。
考えてみたら農薬がないんだから噴霧器だってあるわけないか。
「…じゃあまず噴霧器を作るところから始めるか…」
俺はふいごと壺、細い金属のパイプを組み合わせて簡単な噴霧器を作り上げた。
壺の口に金属パイプを取りつけ、外に出たパイプの口をふいごの吹き口に取り付ける。
吹き口のパイプと繋げた部分はより圧力がかかるように細くしてあり、壺には金属パイプの他にもう一つ空気穴を開けてある。
壺の中に除虫菊エキスを入れたらベンチュリ効果を利用した噴霧器の出来上がりだ。
ふいごを吹いたら金属パイプの口付近が負圧となって壺の中から除虫菊エキスが吸い上げられ、ふいごの空気によって周りに噴霧されるというわけだ。
「ざっとこんな感じだ」
俺はさっそく実演してみせた。
ふいごで空気を送り出すたびに吹き口から霧が吹き出されていく。
「なるほど!こうすれば効率的にその農薬とやらを撒くことができるわけか!」
リンネ姫が感心したように声をあげた。
「なるほどなるほど、空気を送り込むことで中の液体を吸い上げることができるのか。これは凄いものだな…」
興味津々と言ったように噴霧器を眺めている。
「しかしこれならばわざわざ手動のふいごを使わなくてもいいのではないか?」
「??どういう意味だ?」
「こういうものがあるのだが…」
そう言ってリンネ姫は棚の上から何かを取り出した。
それは筒のような胴体と細くすぼめられた銃口、グリップ、トリガーを備えたまるで銃のような形をした道具だった。
「これは魔導ふいごと言って風の魔石を使って空気を吹き出すことができる道具だ」
リンネ姫がトリガーを引くと銃口から結構強めの風が吹き出してきた。
エアコンプレッサーに取り付けたエアガンみたいな勢いだ。
確かにこっちを使った方が遥かに都合がいい。
「こういうのがあるなら早めに言ってくれよ!」
「すまない、火をおこすのに都合がいいかと思って開発したのは良いのだが、火の魔石があれば必要ないことが分かって放置していたのだ」
とにかくこれがあるなら更に労力が必要なくなる。
リンネ姫が言うには銃身の中に風の魔石を装填してあってトリガーを引くと反応用の魔石が風の魔石に触れ、風を発生させることができるのだとか。
何気にとんでもないものを開発している気がするぞ。
「…なあ、これって武器に転用できたりしないのか?」
「それも考えたのだがこれに入るサイズの魔石だと威力と持続時間が大したことなくてな。普通の武器を使うのとあまり変わらんのだ」
あ、やっぱり考えていたのね。
ともかく今は噴霧器作りだ。
俺は鉄板でタンクを作ると魔導ふいごに取り付けた。
これでさっきのよりも遥かに携帯性がよくなったはず。
試しにトリガーを引いてみると問題なく中の液体が霧となって吹き出してきた。
「これでよしだ、あとは実際に使ってもらうだけだな」
そう言って立ち去ろうとする俺の肩をリンネ姫が掴んできた。
「まさか試作を一つ作って終わりということはないよな?」
「…駄目?」
「お主以外に誰がこれを作れると思っておるのだ。私は薬液作りがある。お主にもしっかり働いてもらうぞ」
笑顔を向けるリンネ姫だったけどその眼は笑っていない。
「わかりました…」
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