第2話:蚊!蚊!蚊!
「暑い…」
見上げる空はむかつきを覚えるくらいに青かった。
トロブは今や夏真っ盛り、何日もうだるような暑さが続いている。
「エアコンと冷蔵庫のある暮らしが恋しい…」
寝返りをうつと汗にまみれた腕がべたりと床に張り付く。
いや、正確に言うとこの世界にもエアコンや冷蔵庫らしきものはある。
凍結スキル持ちが夏でも氷を作ることができるからそれを使って涼を取ったりものを冷やすことができるからだ。
それでもこう何日も暑さが続くようでは氷がいくらあっても足りやしない。
「せめてフラムがいてくれれば…」
火属性のフラムは熱そのものを操作できるから部屋を冷やすこと位なんてことない。
しかし当の本人がグランの村に遊びに行っていないのだ。
「俺も行けばよかった…」
他の三人はフラムにくっついてグランの村に行っている。
フラムの能力につられてついていったのは間違いない。
俺は町で打ち合わせがあって行けなかったのだ。
「今からでも行くかな…」
プ~~~ン
そんな事を考えていると耳元に不快な高周波音が聞こえてきた。
まさか?奴が来たのか?
身を起こして辺りを見渡すが何もいない。
それでも奴がいるのは間違いない。
その時首筋に微かな反応を感じた。
勢いよく叩いて手のひらを見るが何もいない。
しかし首筋は早くもうずき始めている。
「クソ!どこにいやがるんだ?」
俺は汗だくになりながら立ち上がった。
目の前を小さな影が通り過ぎる。
「そこか!」
俺は思い切り両手を打ち鳴らした。
手のひらを見ると小さな蚊がつぶれていた。
「ざまあみやがれ」
プ~~~ン
ほっとしたのも束の間、すぐにまた別の羽音が聞こえてきた。
「ぐああ~!!」
俺は絶叫と共に転げまわった。
夏は好きだけど蚊だけは我慢できねえ!
◆
「それでこんなものを作った訳か」
アマーリアが半ば呆れたような顔を見せた。
「しかしよく思いついたものだな」
ソラノは窓を見て感心している。
そこには細かに目を編んだ網が貼り付けられていた。
いわゆる網戸だ。
いくら叩き潰しても全く減らない蚊に業を煮やして土属性の力を駆使して網戸を作り、屋敷中の窓という窓に取り付けたのだ。
おかげで全身汗まみれになってしまった。
「大人しく蚊帳を使えば良かったのではないか?」
「蚊帳だと出たら刺されるだろ?俺はそれだけでも我慢できないんだよ」
「それもそうだな。なんにせよ私も蚊は苦手だからこれは助かるよ」
アマーリアはそう言って嬉しそうに網戸をさすった。
こちらの世界にも蚊帳はあるのだけど網戸はまだ発明されていないらしい。
ボーハルトで作らせたら結構人気でそうだな。
いや、その前に特許を取らないと駄目か。
俺の脳裏にジト目で睨んでくるリンネ姫の顔が浮かんできた。
「そういえばソラノは蚊は平気なのか?」
「私は全身に薄く風を風をまとっているからな。蚊は近寄ってこれぬし涼しいぞ」
ソラノはそう言って得意げに胸を張った。
魔法の空調服かよ、ずるいぞ。
「フラムは?」
「私は冷気をまとってるから蚊が近寄ってこない」
蚊は体温に引き寄せられるというから周囲を冷やしているフラムには近寄らないというわけか。
属性持ちでもこういうところに格差が生まれるんだな。
「キリも蚊は嫌い!大嫌い!」
キリが憎らしそうに叫んだ。
「グランのところも蚊がいっぱいだった!」
「そう、あまりに蚊が酷かったから早めに帰ってきたのだ」
アマーリアが相づちを打った。
「あんなに蚊が多いとは思わなかったぞ。村の人たちもうんざりしていたよ」
そう言って忌々しそうに二の腕を掻いている。
俺もそれは感じていた。
去年だって夏ごろにトロブに来たけどここまで蚊が酷くなかったように思う。
今年はおかしいくらい蚊が飛んでいるし町の人も異常事態だと言っていた。
「今年の夏は蒸し暑いからな。蚊が増えるのも仕方がないのかもしれない」
「だったらボウフラが湧きそうなところに銅でも入れてみるか?」
「銅?何故?」
アマーリアが不思議そうな顔をした。
「水たまりなんかに銅を沈めておくとボウフラが湧かなくなるんだよ」
「そうなのか?」
「いやまあ効果はかなり微妙だそうだけどね。やらないよりはマシかな、なんて」
俺はそう言いながら網戸に近寄った。
既に網戸の外には数匹の蚊がへばりついている。
見てるだけでむかついてきて俺はそいつらを指で弾き飛ばした。
「それにしても…みんなその恰好は…」
俺はちらりとみんなを横目で見た。
みんな薄着で腕や足をこれでもかというように晒している。
アマーリアに至ってはチューブトップで臍まで見ていてズボンもまるでホットパンツのように切り込んでいる。
真夏だから仕方ないとはいえ、これはちょっと目のやり場に困るぞ。
「こうも暑くては普通の服など着ていられんよ。しばらくは温泉もぬるま湯だな」
アマーリアはそう言うとごろりと横になった。
こぼれそうな胸がゆさりと揺れる。
「…フラム、屋敷を少し涼しくしてくれないか」
俺はため息とともにフラムにお願いした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます