第33話:スポーツドリンク作り
「我にぴったりのもの?それは何だ」
「これです」
俺はできたてのスポーツドリンクが入ったたらいを蛇頭窟のすぐ側まで持ってきた。
「普通の水なんかよりもずっと効くはずです」
「ほほう」
俺の身長よりも太い舌が現れたと思うとたらいを巻き取り、一瞬のうちに洞窟の中へと引っ張り込んでいく。
俺たちは驚きのあまり声を出すことすら忘れていた。
本当に山の中に蛇が眠っているとこれでみんなも確信したらしい。
というか魔力を感知していた俺も実物を見るのと見ないのとでは大違いだ。
「次」
しばらくして再び
「次?」
「おかわりだ。もっとないのか」
「あ、ああ、おかわりですね。もちろん用意してますよ」
そう言って俺は別のたらいを持ってきた。
いざと言う時のために三杯分用意しておいて良かった。
と思ったのも束の間、
「し、仕方がない。追加で作ることにしよう!アマーリア!水をじゃんじゃん持ってきてくれ!」
「了解した!」
アマーリアが
その間に俺は蛇頭窟の前にちょっとしたプールくらいの大きさの水濠を作った。
水濠の側面と底はガラス質にして土が混じらないようにしてある。
アマーリアが運んだ水をそこへ流し込んだ。
「次は塩だ!」
「わ、わかった!」
ローベンたち獣人族がその水濠に岩塩をどさどさと投げ入れた。
岩塩は獣人族の地域の特産品なのでたくさんあるらしい。
「次は砂糖だ!」
「……」
しかし返事がない。
「…ひょっとして、砂糖はもうないのか?」
「申し訳ない、この辺では砂糖は貴重品なのだ。蜂蜜だったら多少はあるのじゃが」
「こちらもだ。砂糖はヒト族の商人から買うしかないのでなかなか出回らぬのだ」
ルスドールとリオイが申し訳なさそうに告げた。
「それならば我が国から運んでこよう」
リンネ姫が前に出てきた。
「良いのか?」
「ここまできて引き下がるわけにもいかぬからな。しかし急がねばならないぞ」
「わかってる。みんな、ちょっと待っててくれ!」
俺とリンネ姫は空を飛んでフィルド王国に舞い戻り、大量の砂糖と共に帰ってきた。
フィルド王国の特産が砂糖で良かった。
でなければこの時点で詰んでいたところだ。
こうして運んできた砂糖とエルフ族のレモン果汁を足して大量のスポーツドリンクが出来上がった。
「できました!」
俺が言うが早いが再び蛇頭窟から舌が伸びてきてみるみるうちに水濠のスポーツドリンクが空になっていく。
「もっとだ」
「ど、どうするのだ?」
ソラノが青い顔で聞いてきた。
「どうするも…作り続けるしかない!」
そこから先は地獄のような忙しさで、俺たちは昼も夜もスポーツドリンクを作りまくった。
アマーリアはひたすら水を運び続け、ソラノは風の力で水濠を攪拌し、フラムは少しでも早く溶けるように水を温めた。
俺はと言うとリンネ姫と共にフィルド王国を何往復もして砂糖を運び、更には岩塩やレモン果汁の運搬も行った。
レモン果汁が底をつくと龍人国に行って酢をもらい、それもなくなったらドライアド国のフェリエに手伝ってもらって用立てた。
こうして一週間ひたすらスポーツドリンクを作り続け、ようやく
「よ、ようやく…満足してくれた…ようだな」
アマーリアがふらふらと倒れ込んだ。
「あ、ああ。終わってくれたみたいだ」
俺も地面にへたり込んで動けない。
魔力が空っぽになりかけてる。
その時、蛇頭窟から光の粒子が漂い出てきた。
その粒子はやがて一つにまとまり、人の影へと変わっていく。
それは、黒髪おかっぱ頭の少女だった。
「重畳である」
その少女は顕現したと思うと満足そうに笑みを浮かべた。
「ひょっとして、あなたが御巴蛇様?」
「いかにも、我が
「いや、少女の姿なのが意外だな、と。ひょっとしてそういう趣味だとか?」
「失礼なことを言うな!
「あ、そ、そうだったんですか。それはどうもご丁寧に」
「ふん、貴様には世話になったから許してやろう。こうして思念体を出せるようになったのも貴様が作ってくれたあの不思議な水のお陰だしな。おかげでここ数百年の頭痛がすっかり収まったぞ」
ウズナと名乗る
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