第21話:火神教
「
「創火派と滅火派?」
「知っての通り
ゼファーの説明をキツネが継いだ。
「その創火派と滅火派が近々雌雄を決するんじゃないかって噂が立ってるんすよ。で、何か上手い話はないかと来てみたらこんなものが配られてたんで。おかげで裏の仕事をこなす荒事師や
「参ったな。まさか
「あんたら
キツネが仰天したように声をあげた。
「シッ、声がでかいって。
「知ってるも何も、この辺じゃ口にするだけで殺されるってくらい恐れられてるカルト教団ですぜ」
キツネがひそひそ声で話し始めた。
「ここ数年で一気に広がってきた新興宗教でさ、非教徒は火によって焼かれることで浄化されるなんて考えてるとんでもない連中なんすよ。しかも暗殺誘拐何でもござれって奴らで、親が子供を叱る時に”悪さをしてると
そこまでかよ。
そんな連中ならテロを仕掛けたりいきなり殺しに来たりするのも当然か。
「お国が宗教規制に乗り出してきてからここしばらくは大人しくしてたんすけど、最近動きが活発になってきてるなんて話もあるっすね。滅火派と裏で繋がってるという噂もあるっすよ」
「宗教規制?」
俺が振り向くとゼファーは肩をすくめた。
「宗教というのは国にとって劇薬と同じでな。上手く使えば国では手を回せないようなこぼれた人々を結びつける助けになってくれる。だが宗教は国とは別の教義を持つ全く異質な存在でもある」
そう言ってゼファーは皿の上のパンに串焼き肉を置いた。
「宗教が少数である間はまだいい。国が主体であることに変わりはないからな」
そう言いながらパンの上に肉をどんどん置いていく。
やがて肉はパンの上で山になった。
「だが増えすぎるとそれはもはや国の中に別の国があるようなものだ。やがて宗教は国を凌駕し別の国を作り上げる。古今より国と宗教の力関係が亡国と興国の連鎖を作ってきたのだ」
そう言ってパンの上の肉にフォークを突き刺した。
「いかに宗教を国の役に立て、なおかつ力を持たせ過ぎないように牽制するか、これは国を司る者の命題といっていい」
「確かに宗教っての人を救うけど同時に争いの種にもなってるもんな」
ゼファーの言うことはもっともだ。
「
ゼファーはそう言ってため息をついた。
「そういやこの辺の独立運動が盛んになってきたのも
キツネがゼファーの積み上げた肉を摘まみながら呟いた。
ううむ、難しい話になってきたな。
ゼファーの言いたいことはよく分かる。規制をせざるを得なくなった理由も。
でもひょっとして俺たちがここにいる羽目になったのってそれが原因なんじゃないのか?
「それはあるだろうな」
ゼファーはあっさりと認めた。
「俺は
そうなのかよ!じゃあ自業自得じゃないか!
「無論その通りだ」
ゼファーは俺の非難にも涼しい顔をしている。
「国を治めるというのはそういうことだ。万人の願いをかなえることなど出来ぬ。ならば何を優先させるか、それは国体を維持することだ。それによって起こる反発を覚悟できぬようでは王とは言えぬ」
とは言え主がそのとばっちりを受けたことは申し訳なく思っているがな、とゼファーは笑いかけてきた。
「ったく…」
俺はため息をついて背もたれに身を預けた。
事の成り行きで領主になっただけの俺に今の話は重過ぎる。
でもこれが国を背負うということなのか。
リンネ姫もあの笑顔の陰でそういう覚悟を抱えているんだろうか?
そう思うと無性にリンネ姫に会いたくなってきた。
「ともかく行くべき場所が決まったようだな」
ゼファーがパンをむしりながら答えた。
「どういうことだ?」
「我々は指名手配されている。そしてこの町の冒険者ギルドは全て
「つまり
「そういうことだな。全ての真偽はそこに行かねばわかるまい」
結局はそこに帰結するわけか。
どうやらこの状況を終わらせるためには
「ではそろそろ動くとするか」
「待て」
俺は立ち上がろうとしたゼファーの腕を掴んで制した。
「囲まれているぞ」
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