第13話:ロッジァンでの一夜

 ロッジァンはフォージャスからベルトラン側に少し入ったところにある中規模の都市だ。


 フォージャスよりは乾燥しているけどそれでもムッとするような熱気に包まれていた。


 ヘルマはロッジァンに着いてすぐに別れを告げたけれど、ご丁寧にもこの都市で一番豪華な宿を用意してくれた。


 しかも最上階のフロア全てを使った一番いい部屋だ。


 フロア専用の侍女までついている。


 それはいいんだけど問題が一つ…寝床が一つしかないのだ。



 その寝床は透き通るような薄絹を幾重にも重ねた垂れ幕で覆われていて、足首まで埋まりそうな絨毯と金糸で刺しゅうを施されたクッションが幾つも置かれていた。


 …つまり、ここでみんなで寝るってことなのか…?



「テツヤ」


 寝床を凝視していると後ろから声が聞こえてきた。



「んなっ!?」


 振り返った俺だったが二の句が継げなかった。



 そこにいたのはこの地域の民族衣装に身をまとった四人だった。



 幅広の腰布がついた薄いゆったりしたズボンを履き、チューブトップブラのようなトップスを身に着け、金のレースにコインのような薄板を繋げたアクセサリを頭や腰に付け、髪の毛もこちらのスタイルに合わせて緩くウェーブさせている。


「そそそ、それは一体…」


「どうだ?侍女の人にお願いしてこちらの衣装を着させてもらったのだ。似合うか?」



 アマーリアが腰をくねらせながら近づいてきた。


 歩くたびに腰に付けたアクセサリがシャランシャランと音を立てて揺れる。


 しかもズボンは半分透けるほどの薄絹で出来ているから脚のラインがうっすらと見えている。



「そ、そんなに見るな。恥ずかしい…ではないか」


 ソラノが頬を染めて身をよじらせた。


 ウェーブのかかった髪が胸元に落ちる。


 想像を超えた光景に俺は目を離せないでいた。



「さ、今日はもう遅い。早く寝ることにしよう」


 そう言ってアマーリアが俺の手を引いた。


 待った、まさかその恰好で寝るつもりなのか?しかも…みんなで?



「しし、仕方ないだろっ、寝床は一つしかないのだ。だったらみなで寝るしかあるまい」

 いやいやいや、そんなことを言われましても。



「ふーん、そんなことを言うのか。シエイ鉱山ではフラムとキリと同じ寝床で寝たというのに」


 アマーリアが目を細めてすねたように口を尖らせた。


 でもその眼はいたずらっぽく光っている。


 フラムとキリがその言葉にうんうんと頷いた。



「な、何故それを…」




「私たち四人の中に隠し事はなしなのだ。さあテツヤ、今度は私たちの番だぞ」



 ソラノとアマーリアがにじり寄ってきた。


「私もテツヤと一緒に寝るのは別に構わない」


「キリもまたご主人様と一緒に寝たい!」



 フラムとキリまでそれに加わってきた。





「ちょ、ちょっと用事を思い出したから先に寝ててくれ!」


 俺は一瞬の隙をついて部屋から飛び出した。



「あ、こら、テツヤどこに行くのだ!」


「ま、待ってください、アマーリア様!その恰好では!」



 四人の声を尻目に俺は階段を駆け下りた。


 あんな格好の四人と一緒にいたら鋼の精神力どころかチタンかタングステンでも持ちそうにないぞ。



「しばらくどこかで時間を潰すか…まだこの街をゆっくり見てなかったしな」



 俺は宿を出て通りをぶらぶら歩くことに決めた。



 宿の外はロッジァンで一番の繁華街になっていて深夜だというのに屋台が立ち並び、人で賑わっていた。


 異国情緒あふれる音楽が通りを流れ、香辛料を効かせた串焼肉のいい匂いが漂ってくる。


 これは是非ともベルトランの名物料理を堪能しないとな。




「なんか…やけに兵士が多いな」



 ロッジァンはただの商業都市という説明だったけど通りを歩いているとやけに兵士の姿が目立つ。


 レストラン、居酒屋には必ずと言っていいくらい数人の兵士が食事をしていて、屋台にも兵士が何人も立っている。



「なんかあったのかね?」



 そう思いながら歩いていると裏通りから罵り声が聞こえてきた。





「このペテン野郎が!」


「さっさと金を返しやがれ!」



「冗談じゃねえ!俺はイカサマなんかしてねえぞ!」



「てめえ、よくもしゃあしゃあと」



 続いて裏路地に殴打音が響き渡る。


 どうやら金が絡んだ揉め事っぽい。


 しかも一人の相手に数人がかりみたいだ。



「なあ、その辺にしたらどうだ?」


 余計なおせっかいだと分かってはいるけどついつい口を挟んでしまった。



「なんだ?あんたは?こいつの知り合いか?」


 周りを囲んでいた男たちがこっちを見た。


 どうやら地元の人間みたいだ。



「いや、別に知り合いって訳じゃないけど…」


 そう言って地面にうずくまっている相手に目を落とす。



「リューさんじゃないっすか!」


 その男が突然叫んだ。


 は?リュー?誰だそいつは?と一瞬思ったけどシエイ鉱山で使っていた名前だとすぐに思い出した。


 同時にその声の正体にも。


 地面に転がっていたのはシエイ鉱山で出会った冒険者、キツネだった。

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