第三部:台頭 穏やかな日々
第1話:マンドラゴラ収穫
トロブへ戻ってきた俺たちは平穏な日々を送っていた。
新たな領地を貰ったといっても手続きだのなんだのでしばらくは動きがなかったからだ。
そういう訳でお礼もかねてアマーリアとソラノ、キリを連れてカーリンのお宅を訪問することにしたのだった。
フラムはトロブに着いてからすぐにグランの村に帰っていた。
「あらあら皆さんお揃いで~」
カーリンはいつもと変わらない柔らかな物腰で迎えてくれた。
けれど今日は背中に大きな籠を背負っている。
中に入っているのは……ベルや打楽器?
「こんにちは、ボーハルトでのお礼が済んでなかったのでお邪魔しに来たんですけど…その恰好は一体…?」
「ああ、これですか?今日は天気もいいしマンドラゴラを採りに行こうと思いまして」
マンドラゴラ?確か魔草の類だっけ?
「そうなんですよ~、マンドラゴラは様々な魔法薬の材料になるし滋養強壮にも良いんですよ。この辺りは地中の魔素のバランスが良いから色んな魔草が生えてるんですよね」
なるほど、でも確かマンドラゴラって抜く時に叫び声をあげてそれを聞くと発狂してしまうから犬に引かせるんじゃなかったっけ?まさか…?
「いえいえ~、そんな可哀そうなことしませんよ。ちょうどいいから皆さんも見ていきませんか?」
というわけで俺たちはカーリンの誘いを受けてマンドラゴラ収穫に付き合うことになった。
「これですね~。ちょうどいいくらいに成長してますね」
カーリンが見せてくれたのは何の特徴もない小さな白い花の咲いた草だった。
言われてみれば心なしか根元が太くて人参みたいに見える。
「じゃあここに目印を付けてから少し離れますね」
カーリンはそう言ってマンドラゴラをひもで縛って近くの木に結び付けてから根元に棒を立て、俺たちを少し離れた場所へ案内した。
「じゃあみなさんはこれをお願いしますね」
そう言って俺たちに籠の中の楽器を渡してきた。
「みなさん魔力が高いから叫び声を聞いても大丈夫だと思いますけど、人によっては多少具合が悪くなることもあるので抜く時は大きな音を立ててくださいね」
なるほど、これはそういう目的だったのか。
「では行きますよ~」
俺たちがベルや太鼓を散々打ち鳴らし、カーリンが呪文を唱えると遠くで何かが飛び上がったのが見えた。
「抜けました!さあ採りに行きますよ~」
先ほどの所に戻ると、人のような形をした根っこを持った先ほどのマンドラゴラが地面をのたうち回っていた。
「紐で縛っておかないと抜けたショックで逃げ出してしまうんですよね~」
そうだったのか。しかし植物がじたばたもがいてる様子はなんかきもいな。
「えい」
カーリンがナイフで根元を切り落とすとマンドラゴラは動かなくなった。
意外とためらいなくするのね。
「上の部分は埋め戻しておくと二年後くらいにまた収穫できるようになるんですよ」
カーリンはそう言って少し根の部分が残った葉っぱを埋め戻している。
「叫び声をあげさせずに抜くと魔素が多くて美味しいマンドラゴラになるという言い伝えがあるんですけどね~。そういう風に抜くのはなかなか難しくて」
「ふーん…だったらこういうのはどうかな?」
俺たちは別のマンドラゴラが生えている場所に向かった。
「土から抜くと叫び声をあげるんだろ?だったら…」
俺はそう言って水筒の蓋を取るとマンドラゴラの周りに水をかけた。
そうしてから周囲の土を操作してマンドラゴラの周囲を土ではなく水で囲むようにする。
やがてマンドラゴラは完全に水に浸った状態になった。
「こうしたら水から抜くわけだから叫び声をあげないんじゃないか?」
「そんな、頓智みたいな方法で…」
ソラノが呆れている。
「でもこれは面白い試みですね!上手くいくか試してみましょう!」
俺たちは再び少し距離をとって楽器を打ち鳴らし、カーリンが水の魔法でマンドラゴラを宙に投げ上げた。
どうでもいいけどこの人なんでもないように多属性魔法使ってるのね。
今更驚きはしないけど。
「す、凄い!本当に叫び声をあげませんでしたよ!しかも全然大人しいです!」
抜けたマンドラゴラに近寄ったカーリンが驚きの声を上げた。
確かにさっきのマンドラゴラと違って今回抜いたのは抜けてもじっとしている。
「しかも含まれている魔素の量が先ほどの三倍以上あります!凄い、凄いですよテツヤさん!この収穫方法は本当に画期的です!」
カーリンが喜びの声と共に俺に抱きついた。
豊満な胸が俺の身体に押しつぶされて柔らかく形を変えるのを感じる。
「あ、失礼しました。嬉しくて…つい」
カーリンはすぐに我に返って謝りながら離れた。
この人、いつもローブを着てるからわからなかったけど実はかなりスタイルが良いんじゃないだろうか。
「コホン、じゃあ続けて採りに行きましょう!この方法ならいつもよりもたくさん採れますよ!」
結局小一時間の間に十本程度のマンドラゴラを収穫して俺たちはカーリンの家へと戻った。
「なあ、マンドラゴラってどの位で売れるんだ?」
道中、俺はこっそりアマーリアに聞いてみた。
「ゴルドの魔法薬屋だと乾燥したもので一本金貨一枚が相場だな」
「いっ…!?金貨一枚?」
金貨一枚と言ったらゴルドの町で三か月、トロブだったら半年は暮らしていける額じゃないか。
「マンドラゴラは貴重だからな。生の状態だったらその五倍はするぞ。ましてや今回のは魔素の量が段違いだからな、一体いくらになるのやら」
……ひょっとしてトロブ地方には宝の山が眠ってるんじゃないのか?
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