第14話:嵐
グランと殴り合いをし、ヨーデン亭に温泉を掘ってからしばらくトロブ地方を大嵐が襲った。
何日も土砂降りの雨と強風が続き、とても外には出られないような状況だった。
幸い屋敷は細かい修理をしていたから雨漏りなどもなく快適に暮らせているけど、元のままだったら確実に詰んでいたな…
そんな土砂降りの嵐が続く朝、突然ドアを叩く音がした。
「た、頼む!助けてくれ!テツヤさんだけが頼りなんだ!」
ドアの向こうにいたのはグランの部下、バグベアのイノシロウだった。
「雨のせいで土砂崩れが起きて村に戻れねえんだ!このままだと村もやばいかも知れねえ!」
俺はその言葉に北にそびえる山を振り返った。
しまった、町や近隣のことは気にかけていたけどそっちのことを忘れていた!
「すぐに向かうから案内してくれ!ソラノ、アマーリア付いてきてくれ!」
俺たちは嵐の中を飛び出していった。
空を飛んで村に着いてすぐに状況の危険さを知った。
山体が水を吸って大きく膨らんでいる。
しかも足下からは微細動まで感じる。
時間が切迫しているのは土属性の力を使うまでもなくわかった。
「てめえ、何でここに居やがる!」
俺たちが着いてすぐにグランが飛んできた。
「お、おいらが頼んで来てもらったんだ。村のことが心配で」
イノシロウが俺たちの間に割って入った。
「はっ!こんな奴が何の役に立つ!さっさと帰れ!こっちは忙しいんだ!」
グランは吠えるとすぐに踵を返そうとした。
俺はその肩を掴み、強引に振り替えさせると胸ぐらを掴んだ。
「今すぐ避難するんだ!この村全体が土石流に巻き込まれるぞ!」
「なにを…」
その腕を振りほどこうとしたグランは俺の言葉に押し黙った。
「この村のすぐ上の地盤が水を吸って緩んできている。足元の細かな振動を感じないのか?今すぐ動かないと一時間もしないうちにこの村ごと下まで流されていくぞ!」
そう、もしそうなったらトロブの町まで土砂が流れ込んでいく。
なんとしてもここで止めなくてはいけない!
「…こいつの言っている本当なのか?」
グランの問いにアマーリアが頷いた。
「テツヤはS級の土属性使いだ。おそらくS級以上の力を持っている。今この場で大地のことに関して彼以上に把握できる者はいないだろう」
「……俺は、何をしたらいいんだ」
しばらくの逡巡のあとで絞り出すようにグランが言った。
「今すぐ村のみんなを一番でかい家に集めるんだ。ソラノ、村のみんなと町民をみんな避難させてくれ!俺たちの屋敷は高台になってるからそこに避難させるんだ!」
「わかった!」
「イノシロウ、今すぐみんなを俺の屋敷に集めろ!この嬢ちゃんも案内するんだ!」
「合点で!」
ソラノとイノシロウはすぐに走り去っていった。
「この山の近くで一番でかい、トロブの町から離れている谷はどこだ?水を流せるならどこでもいい」
「だったら山の西に谷がある!」
「わかった!」
俺はアマーリアに向き直った
「聞いてくれ、今から俺たちでこの山に溜まった水を抜くんだ。土石流を防ぐにはそれしかない」
「…は?山の水を抜く?」
突然の言葉にアマーリアが呆気にとられた顔をした。
「俺が山の西側に穴を開ける。アマーリアは地下水を操作してそこから水を排出させてくれ。水脈は俺が操作する」
「ま、待ってくれ、そんなことは無理だ。不可能だ。私ができるのはせいぜいそこにある水を操る程度で、こんな巨大な山のそれも地下を流れる水を操るなんて……」
流石のアマーリアも青い顔をして怯んでいる。
アマーリアが怖気づくのも無理はない。
俺にだってできるかどうかはわからない。でもやるしかない。
俺はアマーリアの両肩を掴んだ。
「聞いてくれ、アマーリア。今ここで俺たちが何もしなかったらこの村はおろかトロブの町も土砂に飲まれるんだ。この場で出来るのは俺たちしかいない。俺はアマーリアができると信じている。俺たちだったらきっとやれる!」
雨に濡れたアマーリアが俺を見つめた。
怯えたような色をした瞳に徐々に力が戻り、やがてアマーリアは頷いた。
「わかった、やってみよう」
そう言って踵を返すと崖を見上げた。
俺たちが見上げた崖はところどころから水が染み出し、今にも崩れ落ちてきそうだ。
ここが崩れたら連鎖的に崩壊が始まるだろう。
アマーリアが肩越しに振り返った。
その背中が少し震えている。
「…テツヤ、済まないのだが、だ、抱きしめてはくれないだろうか。やはり少し怖いのだ。私に…できるかどうか」
俺は後ろからアマーリアをきつく抱きしめた。
「アマーリアならできる!俺も一緒だ。俺がアマーリアを守る。絶対にだ!」
俺の言葉にアマーリアは小さく頷くと地べたに座り込んだ。
「グラン、あんたは村人たちの避難を手伝ってやってくれ!こっから先は俺たちに任せてくれ!」
「お、おう!」
グランはそう言うと村の方へ走り去っていった。
俺は後ろからアマーリアを抱くように座り、意識を地面に集中させる。
ここからが本番だ。
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