動乱

第36話:アマーリアの危機

 俺たちは光る足跡を追って地下道を進んだ。


 足跡は城下町の下を通りぬけて一等住宅区へと続き、とある 鉄でできた梯子のところで上へと登っていた。


 梯子は頑丈な扉でふさがれ、外側から鍵がかかっているのか押しただけでは開かなかった。


 俺の力を使えば開けることは容易だけど今ここで出たところで見つかれば不審者扱いされるのが落ちだ。


 場所がどこかを探知で把握し、俺たちは一旦その場を離れて別の場所から地上へと出て改めてその扉がある場所へと向かった。


「ここは……」


 その場所を見てソラノが絶句した。


 そこは高い塀で囲まれた広大な敷地を持った豪邸だった。


 塀越しに見える屋敷はアマーリアのところよりも大きいかもしれない。


「誰なんだ、この屋敷の持ち主は?」


 俺の問いにソラノが唇を噛んだ。




「……ここは、ベルク領主、ランメルス・ベルグの別邸だ……」


 やはりか。


「あまり驚いていないのだな」


「ああ、ランメルスには最近会ったことがあるけどなんかそんな感じがしてたんだ」


 根拠は全くないけど、何故か納得できるものはあった。


 あれだけの剣技を持っていながら何故山賊を好きにさせていたのか。


 あの時点でランメルスの行動に矛盾を感じていたのだ。


 出来過ぎではあるけど彼が王都でこういう陰謀に加担していたとしても驚きはなかった。


「しかしこれからどうする?なんせ相手は領主だ。怪しいですと言ったくらいですんなり尻尾を出すとも捜査ができるとも思えないぞ」


「うむ……こればかりは私の手にも余るな。ひとまず調査を続けてアマーリア様が帰ってくるのを待つしかないか……」


「そうするしかないか……」


 釈然としないものを抱えながら俺たちはランメルスの屋敷を後にした。


 振り返った屋敷は俺たちの存在など気付きもしないかのようにそびえ立っていた。




     ◆




 しかし、それから数日間俺たちの調査は全くと言っていいくらい進まなかった。


 ソラノの方は結局男たちが捕まったことで休暇(謹慎)中に大立ち回りをしたのがばれてしまい、ほぼ軟禁状態になったことで全く動けなくなってしまった。


 俺はというと、この町の新参者であることが災いしてできることはほとんどないと言って良かった。


 ドワーフたちに話を聞いてみようと思ってゲーレン工房に行ってはみたものの、ベアリングの注文が殺到していてとても聞ける雰囲気じゃなかった。


 というか何日か彼らの仕事を手伝う羽目になってしまった。


 元々自分のまいた種だからこればかりはしょうがない。



 ついでに言うと実は何度かランメルスの屋敷に忍び込んでみたのだけど、確たる証拠は得られなかった。


 一つ収穫があるとしたら武器防具のあった地下室の足跡をたどると某大手商家の屋敷に繋がっていたことが分かったくらいだけど、これは俺たちが地下室を発見した時点で判明していたことだ。



 結局大したことはわからないまま、いたずらに数日が過ぎていった。


 地下道の足跡を発見してから五日ほど経った朝、今日も町へ行こうと屋敷の外に出たらそこにソラノがいた。


 謹慎が解けたのだろうか、今日は軍装だ。


「よお、自宅謹慎は解けたのか?」


「謹慎ではない!……少し反省して自重していただけだ」


「まあそういうことにしておこうか。ところで今日は何故そんな恰好を?」


「アマーリア様からの調査報告が上がったらしくてな。どうやらレッサーベヒモスが我が国に現れたらしい」


「レッサーベヒモスだって?南国の密林に住むと言われる伝説級の魔獣じゃないか?なんでそんなものがこの国に?」


「理由はわからん。だがレッサーベヒモスが現れたとなってはもはや災害クラスの対応をしなくてはならない。なのでこれから王立騎士隊が討伐に向かうのだ。なにせ討伐には一個中隊が必要だと言われているからな。」


「そうなのか…しかしなんでレッサーベヒモスが…?」


 その時、上空から影が降ってきた。


「うわっ!な、なんだ?」


 驚いてソラノを庇いつつ飛び退ったが、よく見るとそれはボロボロになった人だった。


 いや、その長い耳と褐色の肌からするとダークエルフだろうか。


 ベリーショートの銀髪で思わず見とれてしまうような美貌だけど今は方々から血を流し、着ている鎧や帷子もボロボロになっている。


「セラ殿!?」


 ソラノが驚きの声をあげた。


 どうやらソラノの知人らしい。


「その怪我は一体?アマーリア様は?」


 そう言いながらセラと呼ばれた女性に駆け寄り抱き起す。


「あ、あなたが……テツヤ殿か…ソラノ殿もいるとは丁度良かった……」


 息も絶え絶えにセラが口を開いた。


「ど、どうかアマーリア様を救ってくれ」


「アマーリアに何が!?」


 俺はセラに詰め寄った。


 いや、まずは彼女のけがを治すのが先決か。


 幸い疲労と何ヶ所かの骨折だけで致命的な怪我はないみたいだ。

 

 セラの持つ回復力を増幅し、更に自分の魔力も注いで怪我を治療する。


 セラの顔に少し血色が戻ってきた。


「魔獣だ。我々は国境沿いのパドレスという村に魔獣が出たと報告を受けて調査に向かったのだが、そこであり得ないものを目撃したのだ」


「レッサーベヒモスか!」


 俺の言葉にセラは驚きの表情を見せたが、ソラノを見てすぐに納得したようだ。


「そうか、もうこちらに連絡がいっていたのだな」


「それで、アマーリアは、アマーリアはどうしたんだ?」


 嫌な予感が頭を巡る。


「アマーリア様は……」


 振り絞るようにセラが言葉を続けた。


「我々を逃がすために一人で残られた……」


 セラが俺の腕を掴んだ。


「こんなことを頼む筋合いがない事はわかっている。しかし今はテツヤ殿しか頼れないのだ!あなたの実力はわかっている。お願いします、どうかアマーリア様を救ってください」


 言われるまでもなくそのつもりだ!

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