第14話:よくある展開

 気付いたら夜が明けていた。


 太陽が顔を出し、建物の側面が明るく輝きだした頃には事後処理のために様々な役割の役人が集まりだしていた。


 囚われていた子供たちも別の人たちが他の場所へと案内している。


 尋ねたところ、この町で孤児院を運営している人たちで、こういう時の一時受け入れもしているらしい。


 近頃ミネラシアでは奴隷のために子供をさらう事件が多発しているのだとか。


 アマーリア率いる調査隊も何度か人身売買を摘発したのだけど組織の全貌はまだつかめていないらしい。


 それを聞いて俺は改めて怒りで血が熱くなるのを感じた。



「我々は報告のために一旦王城に戻るが、テツヤはどうする?」


「ああ、まずはキリの身の回りをさっぱりさせるよ。こんな格好じゃ連れて回るわけにもいかないしな」


「そうか。それならばよろしく頼んだ」


 アマーリアはそう言って俺の耳に顔を寄せてきた。


「テツヤ、やはりお主は私が見込んだ通りの男だったようだ。今回のお主の行動、確かに軽率だったかもしれんが私はぐっと来たぞ」


 アマーリアが顔を離した直前に頬に何かが触れたような気がした。


 ひょっとして俺、キスされた?


 いやいや、でも、もしかして?



「アマーリア様、何故奴のことをテツヤなどとファーストネームで呼んでいるのですか!」


「ふふん、それはテツヤとの秘密だ」


「な、なんですか!それは!」


 そんなことを言いあいながらアマーリアとソラノは王城へと戻っていった。


「俺たちも行くか?」


「うん!」


 俺とキリも今は誰も残っていない地下室を後にした。





    ◆





「さて、この辺でいいかな」


 地下室を出た後、俺とキリは町からほど近い森の中にいた。


 近くには小川が流れている。


 森に行く前に町でキリのための新しい服も買っておいた。



「なあなあご主人様、こんなところで何をするんだ?」


 キリが不思議そうに聞いてくる。


「そのご主人様っての、本当に続けるつもりなのか……まあいいけど」


 俺は地面に手をおいた。


 俺がイメージをすると共に地面がせりあがり、瞬く間に石造りの湯舟が出来上がった。


 同じように石造りの巨大な桶を作り、それで川の水を汲んで風呂桶の中に入れる。


 やってから川底の石を使って湯舟を作れば二度手間にならないと気付いたけど、まあ結果オーライか。


 次に河原の適当な石を選んで持ち上げた。


 俺の土属性の力は岩石や鉱物を自由に操ることができる。


 だったらこの石をマグマの状態にすることも可能なはずだ。


 案の定、イメージすると石が熱を帯びて真っ赤になってきた。


 その石を湯船に放り込んでしばらくするとちょうどいい湯加減になった。


 即席の石焼き風呂だ。


 ブータンという国ではドッツォという石焼き風呂が伝統だと師匠が言ってた。


 一度入ってみたいと思ってたんだよな。




「さあ風呂に入るぞ」


「いや、俺は風呂なんかいいよ!」


「何を言ってるんだ。そんな恰好でいいわけないだろ。それに顔もちゃんと洗わないと傷を治せないだろ」


 とりあえず俺も入りたいから服を脱ぐか。


「な、何してるんだよっ!」


 何故かキリがぎょっとしている。


「なにって、風呂に入るんだろ。いい加減お前も服を脱げよ。お湯が冷めちまうだろ」



「い、いいって!入るんなら一人で入れよ!」


「なに言ってるんだ。元々お前を入れるために用意した風呂なんだぞ。さあさあ脱いだ脱いだ」


 嫌がっているキリを捕まえて強引に服を脱がす。


「いいってば!入るんなら一人で入るったら!」


 キリが顔を真っ赤にして暴れている。


 いや、元々赤い肌だから本当に赤くなってるのかはよくわからないんだが。


 こら、顔をひっかくな。暴れるな。


 しかし、本当に痩せてるな。


 かなり食生活が悪かったのか?胸だってこんなにふにゃふにゃで……



 待て、ふにゃふにゃ?



 俺は弾かれるように腕を離した。


 キリは涙目で胸元を押さえている。


 まさか…いや…しかし…本当にこんなことが?




「おまえ、女だったのか?」




「だから悪かったって。そんなに怒るなよ」


「ふんだ、無理やり服を脱がせようとしたご主人様が悪いんだからな!」


 キリがぷりぷり怒りながら湯船に浸かっている。


 一方で俺はというと湯舟を背にして河原に座り込んでいた。


 引っ叩かれたりひっかかれた顔が痛い。


「俺、なんて言ってるんだから男だと思うのは仕方ないだろ。体つきだって棒っきれみたいだし…」


 うおっ、危ねえ!


 キリの奴、石を投げてきやがった。



「ば、馬鹿にするな!これはずっと満足に食事もできなかっただけなんだからな!ほ、本当はむちむちのばいんばいんなんだからな!」


 いやいや、その骨格でむちむちとかばいんばいんは無理でしょ。


「わかったわかった、謝るよ。それよりも顔の傷をよく洗っておけよ。あとで治してやるから」


「べー、だ!」


 今度はお湯が飛んできた。


 だいぶ元気になってきたみたいだな。

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