第65話 人知れずグレた時期(笑)と「はみだしっ子」

 またまた転載。



 まんまである(笑)。


 正確に言えば、親にだけはバレないように、というポリシーのもと、小学校6年の冬のみグレた(笑)。

 12歳だから、35年くらい昔だ。

 何せはまっていたのが三原順の「はみだしっ子」。

 同世代の少女マンガ好きならご存じな方もあろうが、アレは7~8歳と4~5歳のガキ四人が親を見限って放浪することから始まる話である。

 で、この話の前半で年長組は煙草も酒もたしなんでしまうのだ(笑)。

 ちなみに最年長グレアムが童貞を失ったのは連載末期14歳だ(笑)。いやーあの末期は凄かった。いくら当時の「花とゆめ」とは言え、少女マンガでまるまる一ページ「字」を、横書き二段組で載せるってのはアリだろうか。あったんだよこれが。


 で、ワタシはこの話の中ではグレアムにはまっていたのだな。一番共感してた。

 彼は父親がこれでもかとばかりの毒。犬を殺してしまうついでにグレアムの片目も見えなくしてしまったというイカレた有名ピアニスト。母親はそういう夫との生活に耐えきれず他の男の所へ。つまりは彼を捨てたんだな。

 それ以来彼の保護者は母方の伯父夫婦になるんだが、その伯母が病弱で、角膜をあげて、と自殺してしまうんだな。するとそれまで放っておかれていた年上の従姉エイダはグレアムを「人殺し」とののしるんだよ。

 そんな環境で彼は家出。伯父さんが金は提供する約束をしたけど、何と言っても飛び出した当時が小学校低学年に当たる時期。おい。出した伯父もすげえな。それとも彼が飛び出したのか。その辺りは判らないが。


 ちなみに他の三人。年長組の下、アンジー(男)は女優の私生児。

 やっぱり親戚のとこで育てられて、時々母親が来るという生活だったけど、女優という仕事を選んだ時彼は捨てられた訳だ。そんでその時ショックで発熱。小児マヒも起こして足が片方動かなかった。これはその後リハビリで動けるようになるけど、初登場は松葉杖つきだった。

 母親に会いに行こうとするけど、パーティ会場で彼に気付かない母親と、彼に向かって「場違いだ出ていけ」という大人。ここで彼の母親不信は生まれましたね。最終的には彼等は「養子に行くからサインくれ」のやりとりで冷静に終わったようだった。

 彼に関しては、その足のせいで、「あきらめなくてはならないことがある」ってことをもの凄く早くから学んでしまっていたんだろーな。それが彼の時々出てくる道化的所作につながってた。残念ながら、その隙間につい出してしまう本音を養親に突き止められてしまったのだけど。そこで彼は養親に負けを認めたんだけど。


 年少組の方は生命の危険つきだった。

 上のサーニンは、抑圧された環境で狂った母親が死んでから失語症になった。持て余した父親が預けた妹の所で地下室に閉じこめられてしまったところをアンジーに助けられた訳だ。

 まじで地下室なんだから怖い。最初に彼等が会ったの、鉄格子ごしだよ。

 この「母親が狂った」ってのも凄かった。

 「はい……あなた……雪かきしておきます」ってひたすら雪の中作業し続け、倒れてしまい、そのまま。で、葬式でも普通より大きな身体に通常の棺では小さい、でも押し込める、という中で、サーニンは雪だるまを沢山作って「行ってママを助け出せ!」ってやったところで彼も世界と一時切れてしまうわけだ。

 だけどこれを、かわいがっていたオウムの「サーニン」が。繰り返し呼ぶことで現実に戻ってきたと。本名はマイケル。サーニンはロシア亡命者の祖父がつけたかったロシア風の名だった、と。


 で、最後の一人、マックスは、母親が死んだ後、酒びたりの父親に首を絞められかかって飛び出すと。

 滅茶苦茶である。


 で、何がこの話で影響大きかったかというと、「親だって決して信用ならない」ということだったらしい。

 もしくは、何となく感じていたことに言葉をつけてしまったというべきか。


 まあ思春期である。しかもマセガキだった。

 35年前の小学生でオフコースや甲斐バンド聞いてるのはマセてると言わずして何と。

 甲斐バンドの曲なんて、露骨にセックスにおわせるものも多かったし、オフコースの歌詞は、曲が綺麗だからすぐには判らないのだが、かなり暗い。

 ともかく当時は五年生の時に買ってもらったラジカセで、FMのエアチェックをするのに夢中だった。

 中島みゆき(当時は暗かった……)だの吉田拓郎(当時は……)やらチューリップ(悲しいメロディに明るい歌詞を、明るいメロディには悲しい歌詞を、なんて財津和夫は歌ってたんだそら暗くなるわ)やらも同様。

 あ、それと忘れちゃいけない八神純子とゴダイゴ。この二つはミュージックテープを買ってもらう程好きだった。おかげでゴダイゴの英語曲(世相とか反映)は未だにそらで歌えるものもある。そのくらい聞き込んで歌い込んだ(笑)わけだ。いやだって当時まだ周囲に家が殆ど無かったですから。

 んで、歌詞カードなんか無かったから、歌詞はひたすら耳で聞いて書き取りだ。記憶するする。刻み込む程だから思考に影響はしたろう。

 相当後になって空耳だったのに気付いたことも多々あったが。

 

 で、そんな下地の上に、彼等にはまってしまった訳である。

 そうすると憧れるのが飲酒喫煙だ。ちなみに今はどっちもしない。飲酒もあかん。これは薬飲んでるからだが。

 まず喫煙。

 当時英語塾に通っていてなー。その帰り道にちょっとだけ本屋(雑誌屋)に寄ることはあった。だが基本マジメな優等生だったので(笑)そういうことはしないことに親には見せてた(笑)。だがそういうスキに当時はまだ目新しかったマイルドセブンを買い込んで、部屋で窓空けて吸ってた訳だ。だがしかし、これがどうも次から次へと吸いたくなる、ということに気付いてしまったのだわ。そこで依存性の怖さに、川に投げ込んだ(笑)。何つか、この「川に」って辺りがやっぱり自分に酔っていたとしか思えない。

 つぎに飲酒。

 これは家にてきとーにしまってあるワインとウイスキーをちゃんぽんにして、瓶にくすねて部屋の本棚の奥に隠しては、ちょっとずつ飲んでた。実際頭は正気だったが、体温がすぐに上がるのが面白かった。一度だけバレそうになったけど、火照っただけ、とごまかしたが。これは結構長くつづいて、高校までちまちまと口にしていた。ちなみに大学で寮に入った時禁酒した(笑)。寮生の呑み方というのは滅茶苦茶なんで巻き込まれたくなかったんだな(笑)。まあそれはいずれ。

 んでアムカ。

 リスカじゃなくアムカである。これだけは病的だったよなあ、と今になっても思う。

 これもまあ、厭世的な感情はマンガから伝染してはいたんだが…… これが結構はまってしまったんだな。

 ともかく「何か辛かった」らしい。でも切れば「痛ければ少しマシな気分になる」。カッターで左腕が結構ずたずたになっていた。未だに残っている跡もある。

 だけどこれを「絶対」親に見つかりたくなかった。

 この「絶対」が何かどうかしているのだが、小学校の「クラブ」の時間に切ったこともある。皆びっくり。当然だ。だがそれで家に伝わったのか伝わらなかったのか。ともかく後に家計簿見てもそのテの記述はなかったし、気付いていなかったと思っていい。

 鬱屈していたのだと思う。当時親に見放された感があったのは確かなので。

 ちょうど兄がブラスの関係で「海外遠征」とかしていたんだよ。中学だったんだけど。

 東海大会まで行ったし、ヨーロッパ遠征メンバーにも選ばれた。高校もそのためにブラスが盛んな工業に決めた。全くもって理解できないが、彼はそういう奴だった。で、そういう立場になると、親の手間もかかる。クリスマスに最寄りの温泉街のホテルにブラスの連中が招かれて演奏しにいったこともあり、母親もついてったのかな。母親達、なんだろうが。

 で、それを迎えに父親とワタシが行ったと思うんだが、煌々と光るホテルの宴会場の灯りと、クリスマス音楽、だけど外側で白々と見ているこっち、というのが無性に「何だかな」という気分だったことは覚えている。こっちはクリスマスどころではなかった訳だし。

 で、そっちに忙しかったこともあり、ワタシは「手のかからない子」だったんだと思われる。放っておいても成績はよかった。体育以外は(笑)。

 まあ別に彼女がそれで全く構ってくれないということではなかった。何せ中学の制服のセーラー服は

手作りだったんだし。それだけの腕はある人だった。一度だけだったけど。単にサイズが合わなかったからかもしれないが。太かったし。

 それでいて高校の箱ひだスカートが破れた後に替えを買ったり作ったりしてくれなかったのかは謎だが。自転車で十センチくらい裾を引き裂いたんだが、結局自分゜で繕って三年間履いてた。替え無し。

 ともかく鬱屈が根本的にあったのだと思う。そもそも無くちゃ「はみだしっ子」に共感はできないだろう。アレは相当クセのあるマンガなのだ。

 

 でまあ、兄が高校に、ワタシが中学に入って以降、ますます彼は忙しく、ワタシは部活で鬱屈し、飲酒とアムカはちまちま続けていた。

 ただ絶対に見つかるものか、と思っていた。特に母親に。

 直接対決を避けたのか、その事態に酔っていたのか、まあどっちもだろう。何せ中二がピークなんだから。

 

 さてダイエットの項でも書いたが、その辺りの鬱屈はやがて摂食障害につながっていく訳で。

 そもそもそんな色んなことを細々と覚えている辺りの執念深さが(笑)母親へのとらわれの深さとか業とか感じずにはいられない。


 ちなみに「はみだしっ子」は一応養親を「信じることに賭けてみよう」って辺りでぶちっと最終回させたが、これは養親が相当ねばり強く四人と話し合ったり行動したり、時には茶々いれたりした結果だ。

 特に一番共感していたグレアムは、この話の中では、かつてマックスが犯した罪を、自分が肩代わりして死ぬことを目的に生きてきたふしがあった。

 だが自分の計画通りに大人達は動かない。代わりに自分に死ぬ、と提案したら、けんもほろろに断られる。

 そらそうだ。ガキがそんなこと言って、はいそうですかどうぞ、なんて言えるかい。だから大人なのだ。

 ま、それで彼の「全て終わらせたい」という望みは終わった。

 その上で、また別の事故に巻き込まれ、彼が当事者とされそうになった時、養親は彼にとって頼れる言葉を告げてくれた訳である。


 ちなみに何がマックスの罪かと言えば、「殺人」だ。無意識の上の。

 マックスは元々、父親に殺されそうになった。

 似たような状況を極限状況の中、自分でない誰かに見た時、夢うつつの彼はそこにあった引き金をひいてしまった。たまたまそれが致命傷だったということだ。

 だがそれは延々年長組を苦しめた。

 グレアムはしばらく完全にメンタルがイカレてた。幻覚見てる描写も多かったし、現実感も無かった。従姉のエイダによって療養生活をしていたんだが、この事件の結果、四人がばらばらになってしまい――― 再会するのに2~3年かかった。

 ガキもガキなこの時期のこの年数は、大人のそれとは全く違う長さだ。その間に皆それぞれの価値観を持ちつつあって――― その上で、おそらくは忘れて生きていこうとするアンジーと、自分がひっかぶってこの面倒な世の中とおさらばしようとしたグレアムは気付かないうちにずれてきて。

 そのグレアムに一番共感していたのだ。危ない危ない。


 ちなみに、大学時代四年間を寮で一緒に過ごした友人は一番共感できるのはアンジーだと言っていた。「普通に生きて行く」ことを求めて、まあたぶんそうなった彼女は元気だろうか? 当時文章なぞワタシよりずっと客観的で上手かったんだけど。ずっと上手く生きていたけど。

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