第6話 2034年2月某日 その1 (至 竜神池1)

 手帳をパタンッと閉じて横関は冷めたコーヒーを一気に飲み干した。

「行ってみるかな…」

 横関はボーッと天井を眺めていた。


 2034年2月

「3年間…探させてくれたね、どうも…」

 相良は田舎の駅前で煙草を大きく吸い込んだ。

「田舎は空気が美味いわ…」

「煙草吸いながら何言ってんです相良さん」

「花田くん、キミ…ヒマなの?」

「ヒマなわけないじゃないですか‼」

「なんで、こんな田舎まで付き合うの?」

「……いいじゃないですか…べつに」

「物好きだね…キミは…」

(刑事としては…利口じゃないよ…)

 言いかけて相良は言葉を飲み込むように煙草の煙を肺に落とした。

「で? どっちから行こうか?」

「まずは資料館です、館長の話を聞きましょう」

「はいはい…」

 タクシーを拾って、田舎の資料館へ向かう相良と花田。

「龍神か…信じたくねぇな~」

 相良が窓を開けてボソリと呟いた。

「寒いから閉めてもらっていいですか?」

 花田が不機嫌そうに相良を睨む。


「ここであってる?」

「はい、看板があります」

(過疎化で廃校を利用したって感じかな…)


「東京から、わざわざ、ご苦労ですね」

 館長はお茶を入れながらニコニコと笑っている。

「コレが龍の歯ですか?」

 相良がケースに入った化石を指さす。

「えぇ…水棲爬虫類の歯だそうです」

「恐竜ですか? ネッシーみたいな」

 花田の目が輝く。

「ハハハ、昔、竜神池という大きな池がありましてね、私が子供の頃ですが」

 相良がお茶を、ズズッとすすって

「その池の件で…伺ったんです」

「えっ、ネッシーの?」

倉部 恵子くらべ けいこ…1984年の夏の件でして…」

 相良は花田を無視して話し始めた。

「浅田館長…アナタの知っていることを聞きに来たんです」

「産まれる前の事件ですよ…噂程度にしか知りませんよ」

 浅田館長は机の上に置いてある古いランプに目を向けた。

「手作りですか?」

 相良が浅田館長の視線の先を指さした。

「えぇ中学生の頃…まぁ思い出の品ってヤツです」

「大切な思い出…なんでしょうね」

「えぇ…とても…」


 相良は浅田館長から、色々と話を聞いたが、その大半は竜神池という池の話だった。

「まぁ…今はARKの研究施設が建ってますが…何を研究するんでしょうねぇ」

 浅田は窓からARKのビルを見て、フッと笑った。

「ネッシーの研究だったりして」

 花田がヘラッと笑う。

「そっとしておいたほうがいい…そんな事実もあるんでしょうけどね」

 振り返った浅田館長が真顔で言った。

「いや…まったく同感ですね」

 相良も真顔で浅田館長の目を見返す。


 タクシーに乗って花田が

「あの絵巻物を見て私はネッシーの存在を確信しましたよ相良さん」

「あぁ…いなきゃいいのにな~」


(あのランプで、何を照らしたんだろうね…まったく)

「運転手さん、ARKの研究所へ寄ってくれる」

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