第4話 2050年4月某日 その4
「この
「しかしですね…デスク、VAMPの画なんて、こんなんばっかですって…ったく現場知らずも大概にしてくださいよ」
「…まぁ…使えて、この2枚くらいだろ」
指先で編集長がスマホからプリントアウトした画を2枚弾く。
1枚は少女の顔のアップ、口の周りが血だらけだ。
2枚目はフロアを引きで撮った現場の惨状。
「この2枚で2000文字、記事に仕上げろや」
「2000? たったの?」
「今時、VAMPなんて…さほど興味は惹かねぇんだよ‼」
「…解りました…」
横関は乱暴に自分が撮った画を編集長のゴミ箱へ叩きつけるように捨てて、ドカッと自身の椅子へ腰かけた。
「おい、横関‼ メインを張りたきゃ、このガキの詳細でも突き止めてきな‼ そしたら枠開けてやるよ」
横関は編集長に返事もせずに、記事を30分で書き上げ、そのままオフィスを出ていった。
送信された記事に目を通した編集長は、深くため息を吐いて
「あの野郎は…いい記事書くんだけどな…取材する方向が明後日だっての…ったく」
オフィスから出た横関は苛立ったまま、向かいの汚い喫茶店で薄いコーヒーを飲んでいた。
下品に啜りながら、手帳を眺める。
もう何度も読み返した汚い手帳、相良という刑事が使っていた手帳だ。
『VAMP』のことも記されてはいる。
ただ、確信に触れているようで、はぐらかされてもいるような、正直、落書き帳だと言われれば、そうとも見える捜査メモ。
手にしている横関自身、なぜこの手帳が『相良メモ』などと呼ばれているのか、手に入れた当初は解らなかったほどだ。
実際、何度も売り払おうかとも思った。
どうも、欲しがる連中が気に入らない…そんな子供じみた理由で、取引直前、彼らの目の前で偽物を燃やして見せたのだ。
だが…その手帳は未だ横関の手にある。
ペラペラと手帳をめくり、流し読みしながら、不味さに慣れたコーヒーを口に運ぶ。
やる気のないマスターが、辞め時を見失い惰性で続けているだけの喫茶店、奥のテーブルが横関の指定席になっている。
他は、毎日カウンターで囲碁を打つだけの近所の馴染みが数人出入りするだけの店、不味いコーヒーにしょっぱいナポリタン、それが横関の定番メニューだ。
黙っていても、運ばれてくるナポリタンをフォークに巻き付けると手帳にソースが飛んだ。
おしぼりでスッと手帳を拭く横関、手帳には染みひとつ付いていない。
手帳の最後に書かれてある一文。
『この手帳が、私の死後、誰の手に渡るかは知りようもない、だが…この手帳を破棄することは叶わない、この手帳は時を止めているからだ、もし、この手帳に興味が無ければ道端にでも捨てるといい、ここまで読んで信じられなければ、火を付けてみることだ、繰り返すが、この手帳を破棄することはできない、ただ放棄することはキミの自由だ』
「破棄も放棄も…拒んじまったな~」
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