516.【後日談4】3匹目は合体拒否する その3


・トミタ(肉球魔王様)視点



はた目には、俺たちがやっている事は、ただの猫の喧嘩に見えるだろう。

だが、水面下ではスキルや称号による応酬が繰り広げられている。



「ニャーン(ミルグラムの実験については分かった。

だが! 例え俺が【勇者】称号に縛られているとしても……魔王を許す理由にはならない!)」


「にゃー(そうか)」



これだけ情報を与えても、彼は考えを変えないのか。


事実をまっすぐ見ようとせず、自分の信じたい虚構を盲目的に信じる、か。

どこまでも不合理な奴。


だが、そこになんとなく人間味を感じた。


それは俺がこの世界で早々に捨て去った、おおよそ必要のないと思っていた物だった。

うん、そもそも猫に人間味は必要無いよな。



「にゃー(じゃあ俺と合体するのは)」


「ニャンニャー(当然却下だ!)」


「にゃー(魔王を沢山討伐したいのなら、俺の力を借りるのが効率的だぞ。

何たって俺にはコンピュータ世界で生まれた俺が入ってるからな。

最短ルートで、最速で目的達成出来る。

そもそも、魔王討伐を自分で黙々とやってる時点で非効率極まりない。

俺に頼れば、ホムンクルスを貸し出ししてやるぞ?)」


「ニャン(甘言かんげんには騙されないぞ!)」



提案もことごとく却下される。

どうすりゃいいのか。



「ニャン(む……どうした英霊……何っ、くそ!)」



勇者トミタが、配下からの通信を受け取ったようだ。

通信をハッキングする。

ホムンクルスが、勇者トミタの配下である英霊を壊滅状態に追い込んだ、という情報だった。



「ニャーン(今回は見逃してやるが、これで勝ったと思うなよ!)」


「にゃー(おい待て、おみやg)」



勇者トミタは、俺の神スペースから脱出し、英霊を連れて大慌てで帰った。

神スペースに入るのは制限していたが、出るのは制限かけてなかった。

まぁ逃げ道を塞ぐほど俺は鬼ではないので、そこは別に気にしていないのだが。


あと、お土産を渡しそこねたので、彼の住居宛に黒ぬこヤマモトで発送した。

きっと気に入ってくれるはず。



◇ ◇ ◇ ◇



・勇者トミタ視点


昼。森の石造りの自宅へと戻った。

独学で建てたので、たまーに崩れたりすることもあるが、ここ80年くらいは大丈夫だ。

やっぱ石は強い。


さて、俺の配下の英霊は酷い損害を受けていたが、完全に消えた者は1人もいなかった。


俺は家の前の空き地に英霊を集めた。

そして【魂操作】を使い、英霊を癒してやる。


英霊とは、武器や物に宿る残留思念に自分の魔力を注ぎ、霊化させたもの。

オリジナルの魂とは違う、言うなればクローン幽霊。



「ニャン(今回は準備不足だった。それに、まるで歯が立たなかった。

あちらが手加減していなければ、100回は消されていた)」


『つまり、あの魔王、偽トミタ様は、こちらへの害意は無かったと?』


「ニャーン(無かったのだろうな)」



英霊の問いに答える。


それにしても偽トミタ様、か。

実際はあちらも本物なのだろうがな。


とはいえ、人間を奴隷化している世界のおさには違いない。

例え俺自身の別の可能性の姿だとしても、俺が倒さなければならない。



『そういえば、あちらの魔獣都市マタタビの奴隷の人間は、あまり不幸な様子ではありませんでしたが』


「ニャン(どうだろうな。表面に見えているものだけが全てとは限らな「ちわー、宅配でぇーっす」ニャン(!!!???)」



黒ぬこヤマモト宅配便と書かれたトラックが家の前に現れ、中から出てきた宅配員が俺に荷物を渡した。

差出人は……オリバー?

知らない奴だ。だが宛て名が勇者トミタ、つまり俺になっている。


受け取り印として、肉球スタンプを押す。

宅配員は「あざしたー」と言いつつトラックに乗り、トラックごと四次元移動した。

何だったんだ一体。


とりあえず、包みを開ける。



「ニャン(木箱?)」



凄く上等な木箱の中に、まぐろちゅるるーんの袋が沢山入っていた。


……魔王トミタの仕業だろうな。

俺をしたう者のプレゼントである可能性も無きにしもあらずだが。


まあいい。

中に入っている物には何も仕掛けは無さそうだし。


まぐろちゅるるーんを四次元空間に収納し、木箱を見る。

魔王トミタによって巨大化を解除され、普通サイズとなってしまった今の俺がぴったり入れるサイズだ。


ひょい。俺は木箱にダイブする。


う~ん、木の良い香り。そして素晴らしい閉塞感。



「ゴロゴロゴロゴロ……」


『勇者様……』



英霊たちがあきれた顔で見てくるが、この箱はとても良いものだ。


魔王トミタと戦いの緊張の糸が切れ、どっ、と疲れが押し寄せてくる。

そのまま昼寝することにした。


おやすみなさい。





□□□□□□□□□□□


□後書き□


勇者トミタはエルフとの交流を拒否したので、オリバーに会う機会がありませんでした。

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