455.【後日談4】魔獣都市マタタビ誕生祭 その4
お昼になった。
ネコ科魔獣達は朝に美味しいお肉を食べたので、満足そうに昼寝モードに突入する。
起きているのは、お腹が小さいからお昼も食べたい子どもネコ科魔獣達。
「みー!(朝と比べて美味しくなーい!)」と人間に文句言っている。
高級お肉はもう売り切れたからな、仕方ない。
俺も昼寝するために、宿屋に向かった。
◇ ◇ ◇ ◇
・ある旅行客視点
魔獣都市マタタビ誕生祭。
今日から3日間開催されるそのお祭りは、例年なら食べ物屋台が並ぶだけの普通のお祭りに過ぎない。
だけど、今年は肉球魔王様の取り計らいで、人間も楽しめるようにと、学校区画にて人間向けの催しや出店がある。
ということは、
私は中央都市チザンの大商人魔獣の娘なので、お金は沢山ある。
休暇を取って遊びに来た。
それにしてもさっきのコンサート、良かったなぁ。
エルフのイケメンってどうやって知り合いになれるんだろう。
雇ったら女性客増えそうじゃん?
などと考えていたら、喫茶店っぽい出店発見。
ここでお昼ご飯にしよう。
席に着き、メニュー表を眺める。
字が読めない人向けに、料理の絵も描かれている。
こういう気遣い、いいね。
……それにしても値段が安い。
かなり安い。
味が不安になるくらい安い。
でも周りからいい匂いがしてくるし、他のお客さんは美味しそうに食べている。
ええい、女は度胸!
注文だ!
「ミネストローネセット。セットのミニパンは、フランスパンとフレンチトースト」
「かしこまりましたぁ」
メニュー表の裏には、当店のパンをお求めの方は、宿屋『アモルドルチッス』までお越し下さい、と地図と一緒に書かれていた。
ふーん、美味しければ検討しようかな。
接客してくれた女の子が厨房に入って、鍋を温めている。
人手不足かな?
と思ったけど、中年夫婦っぽい人間も居るみたいだし、単純に彼女が料理好きなだけか。
「お待たせしましたぁ」
まるで王宮にでも務めていたかのような所作で、料理が運ばれる。
まずはミネストローネを一口。
……美味ッ!
え、待って。何これ。
私の知ってるのと違う。
この数十倍以上の値段の店で食べたのよりも、普通に美味しい。
続いて、フランスパンのカットされたのを、ミネストローネにつけて、食べる。
くぁぁぁああ~~!
口が、口が幸せぇぇえええええ!!
気がついたら、全部食べてしまっていた。
ごちそうさまでした。
私は給仕をしてくれた女の子に話しかける。
「すみません、シェフとお話がしたいのですけど」
「何かしらぁ?」
「ですからシェフと……え? 給仕さん?」
私、私、と自分を指差す女の子。
マジ? 若くない?
まあいいか。
早速交渉といこう。
「中央都市チザンで邪眼商会に属している、ナーガのニョロニョロです。
よかったら、中央都市チザンでレストランを開きませんか?
かなりの高待遇で雇えると思いますよ」
「商会の
給与明細、と書かれている紙を見せてくれた。
へー、勤務時間だけでなくて欠勤、残業時間まで書かれているんだ。
……有給って何?
で、彼女の給料だけど、普通に高かった。
時給で言えば、私より稼いでる。
そりゃそうか。こんな優秀な人、普通は放っておかないか。
この魔獣都市マタタビでトップの商会、雑貨屋クローバーと揉めるのは嫌だったので、引き抜きはやめることにした。
「ここだけの話なんだけどねぇ、パパとママがパン屋を開きたいらしんだけどねぇ。
私がお金出すって言っても、「娘に施しを受けるほど落ちぶれてない!」って怒鳴られちゃってぇ。
今日のパンどうだったぁ? パパとママが作ったんだけど、売れそう?」
「はい、ミネストローネに劣らない、上等なパンでしたよ」
「どこか大きい商会で、定期的に仕入れてくれないかしらねぇ」
「私の所属する商会で雇ってもいいですけど、中央都市チザンに引っ越してもらう形になりますよ」
「う~ん、そこ、人間の扱いがこの都市より悪いって聞くからねぇ、心配よぉ」
「だとしても、この都市でパンを作って運ぶとなれば、輸送コストもかかりますし、時間もかかりますし。
それだったら中央都市で作ってるパン屋で買いますよ、ってなりますし」
「……輸送コストと、時間が解決出来たらいいのねぇ?」
「はい。そうしたら、中央都市チザンで売れると思いますよ」
「ならヨツバちゃんに相談して、何とかしてもらうわぁ」
給仕の女の子と話を詰め、定期的にある程度のパンを仕入れるという仮契約をした。
もし魔獣都市マタタビから中央都市チザンまで安定して運搬出来ると分かったら、本契約にしようと思う。
後日、給仕だった女の子が大型魔獣の猫トラを雇い、その子の両親が焼くパンが邪眼商会に運ばれた。
猫トラは確かに素早い魔獣だけど、そんな速く走れたっけ?
というか変な服着てるのは何で?
と思って服をよく見たら、『快速! 空気抵抗カットにより空を従来の20倍のスピードで走れます! あと蒸れません』と書かれていた。
あぁ、この着ているやつ、魔道具なんだ。
運ばれたパンの販売は商会の者が行った。
売れ行きは好調で、商会から距離のある場所へは、猫トラがパンと販売員を乗せて運送、販売するスタイルをとった。
やがて邪眼商会はブランド名『猫トラパン』を立ち上げ、中央都市チザンの富裕層の間で密かなブームとなるのだった。
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