323.【後日談】肉球魔王様に文句言ってやる!
ここは雑貨屋クローバーのカウンター。
今日はお店はお休みだ。
商品棚は全て一時撤去し、椅子と丸テーブルを設置している。
雑貨屋クローバーのせいで潰れた、あるいは経営が苦しくなったという店主の人間と魔獣が居るらしい。
彼らが雑貨屋クローバーに対して意見を言う場を設けたのだ。
意見というか苦情か。
商人の1人が俺に意見する。
「交換レートについてですが、我々商人はお互い、一定の値以下にはしないという協定を結んでいます。
それ以上安くしてしまうと、生活に支障が出てしまいますから。
雑貨屋クローバーでは、それが守られておりません」
『協定は都市の決まりではなく、お前らが勝手に決めてやっていることだ。
こちらが守る必要はこれぽっちもない。次』とエメラルド版に刻む。
「待ってください! まだ言いたいことが」
「一人一つまでだッ! 言い足りないのなら、また列に並べッ!」
オリバー君が商人を引きずる。
「みゃんみゃん(肉球魔王様が経営に関わっているってだけで、お客さんが皆そっち行っちゃうよ!
ずるいよ!)」
「にゃー(俺の名前による人気なんて、一時的なものだろう。次)」
「私の店は、隣の都市に借金して、ようやく作った店なのですよ!
3週前から、ずっと赤字です! どうしてくれるのですか!」
『知るか。そのまま潰れてしまえ。次』と刻む。
「この悪魔! ……何をする、やめ、ちょっ!」
俺を罵った商人は、周りのネコ科魔獣に取り囲まれ猫パンチを喰らっている。
爪を立ててはいない手加減パンチだから、ケガはしないはずだ。
その後10人ほど商人や商売ネコ科魔獣の苦情を聞いたが、どれも似たような感じだった。
「猫さん、この方々、商人のくせに商売舐めすぎなのでは?」
ヨツバの言う通りなのだ。
話にならない。
ノウハウの蓄積が無いせいで、行き当たりばったりな対応をしている。
計算が得意でないので、自分の店の正確な収支すら把握していない。
客の求めている物を用意しようとする努力が足りない。
その他いろいろな欠点を、こいつらは抱えている。
ま、この都市は半閉鎖的なので、外から競争相手が来たりはしない。
外からの交易品は全て、この商人達を通すことになっている。
外の商品が欲しい場合、こいつらから買うしかなかったのだ。
仕入れた商品を考えなしで並べるだけで、今までは売れていたのだろう。
交換レートも、ぼったくり価格でも文句言われなかったのだろう。
そもそも客はぼったくり価格だったことすら気づいていなかったのだろう。
そんなぬるい商売をしていたら、そりゃ雑貨屋クローバーに勝てないわな。
というわけで、都市の商人の人間と商人魔獣達の教育が必要だというのが分かった。
首輪PCから、人気経営学講師の著作権切れビデオを数本ダウンロード。
ついでに音声に異世界言語字幕を付けるフリーソフトをダウンロード。
『よし、今からビデオを宙に流すから、見るように』と刻む。
昼13時からビデオを流し8時間経過。
途中で夕食を挟み、ようやく上映が終わる。
商人達は、ネコ科魔獣を抱えて出て行った。
これで都市の商人達が少しはマシになるといいのだが。
そんなにうまくいくわけないか。
後日、経営学の本や商売ノウハウの本が飛ぶように売れた。
感銘を受けた商人の数人が都市の外へ飛び出し、やがて世界を股にかける大商人になるのだが、それは数十年先の話である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます