310.【後日談】さっぱりした


ここは昼の魔獣都市マタタビ。

ネコ科魔獣は道のあちこちに、前足をたたんでのんびりしている。



「にゃー(火車、そろそろ時間だ)」


「んなおー(今日も荒れますな、確実に)」



魔獣幹部の火車が、これから起こるであろう騒ぎに対して憂鬱そうな顔をする。


既に察して都市から逃げ出そうとした奴が居たらしいが、そういった魔獣は門番が全員通せんぼして都市に留めている。



「うみゅうう(人員配置よし)」


「ガオ!(人肌に温めた水を、大量に用意したぜ!)」


「オァー……シ……ヤ……ン……プ……オケー」


「ヒヒッ、タオルも十分。準備完了だねぇ!」



魔獣幹部5匹が頷く。



「んな!(では……これより魔獣都市マタタビにおける、魔獣お風呂大作戦、開始ですぞ!)」



火車の声を聞いた近くの魔獣達が、さっそく逃げ出した。


人間と、魔獣幹部、ボランティアの非番魔獣がそれを追いかける。

逃げた魔獣の1匹が捕まった。



「ビャアアアアア!(離せーーー!)」


「にゃー(よし、第一号洗え!)」


「ンナルガー(了解です)」



中央広場に置かれた大樽の蛇口を、人間がひねる。

すると、ぬるま湯が出てくる。

湯を銅製の簡易浴槽に満たし、そこに魔獣を投入する。


わしゃわしゃ。

魔獣にシャンプー(ネコ科魔獣用)をつけ、湯で洗い流す。


水槽から出し、タオルで拭けば完了だ。



「なー!(わーん! おカオのヒゲがしなしなするー!

気持ち悪いよー!)」


「みゅ~(極楽にゃ!)」


「リリーちゃんはいい子です~」



アウレネが横で、リリーを洗っている。

リリーは別に洗うことに苦手意識を持っていたりはしない。

気持ちよさそうにしている。


小さい頃から洗ってもらっている奴らは、慣れているのかそこまで暴れたりしないのだが。

ま、その辺は個々の性格による。

濡れるのはやっぱり嫌という奴も、もちろん居る。



「うみゅう(新しいぬるま湯を用意した)」


「なお(よし、どんどん洗うのだ!)」


「痛ッ! ひっかくんじゃないよ!」



このお風呂イベントは、おおよそ1ヶ月に1度程度で実施している。

中央広場の洗い場の他に、100ヶ所ほどの洗い場を用意してある。

都市中に魔獣達の叫び声が響く。


いや、ほとんどの連中は大人しく洗ってもらっているはず。

暴れたりするのは、最近になって他所から来たネコ科魔獣だ。

この都市で生まれた奴らは慣れているので、今更騒いだりしない。


夕方近くになり、ようやくほとんどの魔獣を洗い終わった。



「なお(さて、我々自身も洗わなければ)」


「にゃー(そうだな)」



俺は簡易浴槽に飛び込む。

化け猫とキメラ以外の幹部達も後に続く。


お湯から顔を出して都市を見ると、人間達が使用済みタオルを洗っていた。

洗ったタオルは、錬金術師達が【加速錬成】で水を飛ばしていた。

魔獣の乾燥は既に終わっているらしい。



「なん!(肉球魔王様! お背中流しましょう!)」


「ガオッ!(いいや! 肉球魔王様の背中は俺が洗う!)」


「アォー……マ……カ……セ……テ……」


「うるさい連中だねぇ。こういうのはメス猫の仕事さ」


「うみゅみゅ(肉球魔王様の出汁……これは売れる!)」


「にゃー(俺はカツオブシじゃないぞ?!)」



結局、俺は幹部5匹に洗ってもらった。

さっぱりした。


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