299.【後日談】別行動:トミタの場合、マック君の場合
現在、雑貨屋クローバーの品並べの最中である。
魔獣都市は基本的に物々交換だ。
つまり、客がお金を持っていない場合がほとんどなのだ。
なので、雑貨屋では交換品を限定し、大まかな交換レートを決めておく方法を取ることにする。
例えば、普通の肉は1グラム1G扱いとする、など。
こうすれば、こちらが商品を売る時に、いちいち相手と交換レートの交渉をする必要が無くなる。
同じ肉でも、ドラゴン種の肉はレートの5倍扱い、傷んだ肉は交換拒否など、細かいルールも決めてある。
俺は、ガラスケースにオーク種の肉を茹でた塊を並べる。
生肉を食いたい奴は自分で狩って食べるのだが、ネコ科魔獣は不器用な奴が多く、料理ができないので茹でる焼くなどが出来ない。
ゆえに肉の調理は基本的に、奴隷に頼まなければ食べられない。
で、猫語を理解できる奴隷はほとんど居ないので、茹で肉が食べたい場合は、店の前にて魔獣が奴隷におねだりするのだ。
棚には、魔石による流水発生装置を飾る。
ネコ科魔獣は、流れている水を飲みたがるのだ。
その横には、ミスリル製の爪とぎ、木製の爪とぎを並べる。
爪切りも作った方がいいな。
リオン君に作ってもらうとしよう。
あとは何を置こうかな。
そうだ、チャールズ君には、後で大きな木箱を作ってもらおう。
絶対に売れるぞ。
商品を並べ終わり、俺は棚の空の引き出しを空けて、そこに入る。
うーん、なかなか良い閉塞感。
お客さんが来るまで、昼寝することにした。
◇ ◇ ◇ ◇
・錬金術師マクドーン視点
猫さんによれば、ここは1000年後の世界だというじゃないか。
つまり、目新しいことがたくさんあるに違いない!
そう思ったのに、町を見る限り、特に目ぼしい物は見つからない。
猫さんに教えてもらった錬金術工房に寄ってみて、棚の文献を漁ってみたけれど、ぱっと見る限り、それほど変化はないみたいだ。
ボクは棚に本を戻す。
「うーん、微妙だなぁ。
年月は経っているというのに、錬金術の進歩は、全然大したことないや」
「重要な文献は、こんな場所にはありませんよ。
中央都市に集められています」
ボクの独り言に、奥に居た人間が答える。
15歳くらいの少年だ。
どことなく、パーシー君に似ている気がする。
「わたしは、肉球魔王様公認一級錬金術師のカルロです。
あなたも肉球魔王公認バッジをお持ちですね。
名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「ボクの名前かい? ボクはニ……ごほん、マクドーン・ハウエルだ」
一瞬偽名のニコを名乗ろうとしたけれど、もう偽名を使う必要が無いことに気づいた。
ボクが狙われていたのは1000年前。
それも、錬金術の技術を狙われていただけ。
ボクが本名をさらしたところで、ボクの錬金術の技術は時代遅れであり、狙われることはもはや無い。
「わぁ! 歴史の本に載っていた、稀代の錬金術師と同じ名前ですね!
……偽名ですよね?」
本名だよ。
ま、それを指摘するのも面倒だからいいや。
「錬金術の研究職として、ここで働いてもいいかな?」
「就職希望ですか! 面白い!
こちらへ来てください。簡単な錬金術のテストを行います。
テストの点数が100点満点中、70点以上なら採用しましょう」
「お手柔らかに頼むよ」
ボクは、錬金術師の杖を握りしめた。
この杖は猫さんのプレゼントだ。
錬金術の技能を1段階上昇させる効果がある。
猫さんに頼り切って生きるつもりはない。
ボクはボクに出来ることをして生き抜くつもりだ。
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