237.識字率
・ヨツバ視点
夜。私は宿のスペンサー君の部屋へお邪魔した。
「スペンサー君、お願いがあります」
「主よ、いくら吾輩が奴隷でも、夜の睡眠を邪魔されない権利くらいはあると思うぞ?」
そうは言うけど、ナンシーさんは朝が早いので、夜遅くでないと自分の自由時間が取れないのだ。
日中はネルちゃんの目もあるし。
「明日、町の識字率を調べてください」
「識字率、とは?」
「字の読み書きが出来る人がどのくらい居るかどうかです。
最低100人、出来ればそれ以上の人を対象に調べてください」
猫さんのご意見箱の投稿が少ない理由は、ひょっとすると識字率の低さかもしれないと思ったんだよね。
「吾輩が行わなくても、主の【鑑定】で分かるのではないのか?」
「私に、ナンシーさんの目を盗んで、それだけの人を調査しろと?
無茶を言わないでください」
それが出来ないから頼んでるんだよ、もー。
「それを調べて何をするつもりなのだ?」
「んー、識字率が低いのなら、文字を教える塾も商売になりますよね」
「それはどうだろうか?」
スペンサー君は反論する。
子どもも大人も、そんな事を習うほど暇ではないし、お金も持っていない。
だいたい、字を使う職業の子どもは親から習っているので、塾に通う必要などない。
「ま、とにかく、調べてみてください」
「承知した」
◇ ◇ ◇ ◇
・ヨツバ視点
スペンサー君は300人程度に調査したみたい。
結果、識字率は15%くらいだそうだ。
その15%にしたって、ナンシーさんみたく本を読める人はほとんど居ない。
自分の名前や、簡単な契約文章が読める程度。
うーん、王都でこれかぁ。
田舎だと、もっと識字率は低いんだろうなぁ。
という内容を、猫さんの交換日記に昨日書いた。
さて、返事は?
『なら、文字の勉強のための本を出そう。
イラストの下に文字が書いてある感じで。』
なるほど、そうきたか。
本を売り物にするんだね。
出版の商会はあるけれど、どこも貴族ご用達だ。
ナンシーさんが持ってる本にしたって、貧乏貴族が買う教育本や料理本だ。
その商会相手に、文字の勉強の本を安価で卸してもらえるように交渉するわけだ。
うへ、面倒だなぁ。
猫さんに丸投げしよう。
王様とコネあるみたいだし、私よりも適任でしょ。
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