194.白旗


・帝国ルカタのある部隊長視点


我が帝国の勇者がフランベル国に捕えられた、という旨の手紙が、伝書怪鳥によって届けられた。


つまり、帝国ルカタはフランベル王国を攻める口実が出来たというわけだ。



「皆の者! 勇者が魔王の手先に捕えられた!

今こそ同胞の勇者を奪還し、我ら帝国ルカタの威厳を示す時ぞ!」


「「「おおー!」」」


「さぁ! 出陣せよ!」



俺の掛け声とともに、部隊の兵1000人が一斉に動き出す。


他の部隊長の元へも手紙が届いたらしく、遠方の彼らの軍も動き出しているようだ。


まずは数キロ先の国境の門を破壊し、王国へ攻めることになるだろう。


攻めるルートは3パターンほど用意してあるが、いずれも国境の門を超えた後の話だ。

さあ、王国はどんな手で守るつもりだ?


ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!



「何の音だ?」


「た、隊長! アレをご覧ください!」


「む?」



あんな場所に山などあったか?

というかあの場所は、別の部隊が居た場所ではないか。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!



「……!」



馬鹿な!

俺達の目の前に、絶壁が現れただと!



「隊長! 壁に囲まれています!」


「そのようだな……」



我が部隊は、そびえ立つ絶壁に囲まれて身動きが取れなくなっていた。


自然現象? 天変地異?

いや違う。



「魔王の仕業だな」


「魔王が?! このような大規模のスキルを使用したのですか?!」


「おそらくな。我々を封じ込めて、を上げるのを待つ気なのだろう。

私が魔王なら、おそらく次は食料馬車に火を付ける」


「報告します! 食料馬車が何者かによって放火された模様です!」



他の部隊も同じ目に遭わされているに違いない。

さて、ここらで魔王を驚かせなければな。



「壁を、バクダンを使って壊せ」


「はっ!」



錬金術師マクドーンが作ったとされる最強の攻城兵器バクダン。


どんな頑丈な壁だろうと木端微塵に砕けるという。


本当は門の破壊に用いるはずだったがやむを得まい。



「点火! 投てき!」



味方がバクダンの導火線に火を付け、投げる。


ドン! と音が鳴り衝撃が走り、壁が一部崩れたが、風穴を開けるには及ばなかった。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!


何と、崩した壁が修復されていくではないか。



「隊長! バクダンが何者かによって盗まれました!」


「何! いつの間に……」


「隊長! 壁に文字が!」



見上げると、『降参するなら白旗を上げるんだな』と書かれている。

ははは、参った参った。



「お前達、白旗を用意しろ」


「隊長! 諦めるのですか?!」


「考えてみろ? これからずっとこのまま閉じ込められるとどうなる?

まず食料が尽きる。内部の暴動が生じる。

魔王が何もしなくても俺達は勝手に死ぬ」


「……」


「俺は降参する。従う従わないは各人の自由だ。

聞け! 我が部隊は魔王トミタに降伏宣言する!

従わぬならまたそれも良し!

自害するなり最後まで抵抗するなり、好きにせよ!」


「「「隊長に最後まで付いて行きます!」」」



俺の部隊は全員、降伏宣言に同意することにしたようだ。

聞き分けが良い連中だな。


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