5章
173.エメラルド板
森の入口に到着。
ここは元隔離施設のあった場所。
俺は四次元空間内に潜り込む。
生き物を入れたらHPが減るのだが、心拍1回ごとに1減るということが分かった。
つまり、HPが減ったら自分に【ヒール】をかけるのを繰り返すことで、MPが無くならない限り四次元空間内でずっと居られるということだ。
この場所は時間経過が起こらない。
なのでのんびり作業が出来る。
先ほどもらった宝石、エメラルドを拾い上げる。
それを変性錬成で板にする。
駄目だ、全然足りない。
こうなったら、作るか。
といっても、陽子中性子電子を変性錬成で操ってBe3Al2Si6O18を作り、そこにクロムを混ぜるだけで完成だ。
なぜエメラルドかというと、マック君のくれた本に載ってた錬金術師の神が行ったのを真似ただけだ。
錬金術師の神はエメラルド板に錬金術の極意を書き記したそうな。
俺が書き記すのは錬金術の極意でなく、俺の知っている化学や医学などの知識全般。
書くといっても、変性錬成でエメラルド板に文字を刻むだけなので、タイプライターよりも早く出来る。
1分で書物1ページ分くらいか。
これは俺が考えながら作っているから時間がかかっているのであり、そのもの自体は一瞬で作ることが可能だ。
そしてなぜこんな作業を行うのかといえば、今回みたいなパンデミックなどが起こった場合に備えるためだ。
この世界から俺が居なくなったとしても何とかなる知識を、【ヒール】使いや医者達が持っていれば安心だ。
紙でなくエメラルド板なのは、紙よりこっちの方が長期保存出来るからだ。
モナリザの絵画みたいに、分厚い防弾ガラスで囲っておけば良いだろう。
◇ ◇ ◇ ◇
・ある学者視点
最近フランベル国王都の隣、フランベルの森に遺跡が出来た。
遺跡は森の入口に位置し、エルフの番兵のチェックを受ければ、誰でも入ることが出来る。
入場料すら取られない。
ただし、【ライト】が使えなければ中は真っ暗である。
松明は使うと窒息するから駄目らしい。
地下へ続く大理石の階段を降りると、4つの分かれ道のある部屋へ出る。
木を彫って作られたデブ猫の像が真ん中にあり、台座に『バステト様は偉大じゃ!』と書かれている。
まあ猫像のことはどうでもいい。
それぞれの分かれ道は、ガラスの壁で出来た一本道が続く。
分かれ道はそれぞれ、『化学』『医学』『錬金術』『研究および倫理』と分かれ道の入り口に記されている。
そして、ガラスの向こうに、エメラルドらしき緑の宝石板があり、そこには誰が刻んだのか文字が刻まれている。
板はそれぞれの分かれ道ごとに1500ほどあるらしい。
刻まれた文字も、全て異なるとのこと。
浅はかな者が見れば、ここはエメラルドとガラスがたくさんある宝の山の遺跡にしか見えないだろう。
だが、あえて言おう。
宝石なんぞどうでもいい。
そこに刻まれた文章。
恐ろしく未来を行く深淵なる知識の山。
それは1000枚の白金貨よりもずっと価値のある内容だった。
最初、私は感激のあまり身震いしたものだ。
今は紙と鉛筆もどきを持ち歩き、遺跡の『錬金術』の道にあるエメラルド板を写す作業で大忙しだ。
私の他にも、夢中になって写す作業を行っている者が10人ほど居る。
全員、フランベル国の錬金術師だ。私の仲間だ。
女性1人だけ欠員だが。
その女性も、先日までは熱心に通い詰めていたのだが、今日は城で結婚式を挙げてもらうらしい。
心の中で祝福を祈ることにしよう。
ん?
錬金術仲間の結婚式に出席しないのか、だと?
そんな事より、エメラルド板を写す事の方が大事だ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます